蘭子さんのように金髪だが、彼女はどちらかと言うとギャルってイメージが強い。
「……」
「……」
しばし流れる沈黙。
俺は彼女から視線を外して我が道を歩む……はずだったが
「ちょ、ちょっと!スルーはひどいでしょ!一応顔見知りなんだから!こっち向いてよ」
「はあ……」
ため息混じりに俺は振り向いて霧島を見つめた。
「なんだ」
「……なにその態度?偉くなったから、私のことを馬鹿にしてんの?」
「偉くても偉くなくても、俺は同じ行動をしてた」
「んん!」
悔しそうに俺を見ては握り拳を作る彼女に俺は辟易する。
「んで、なんだよ。俺になんか用でもあんのか?」
もしかして渡辺さんのことで俺に文句い言いにきたのだろうか。
渡辺さんとコラボ動画撮ってから、彼はすっかりnowtuberになって、今やチャンネル登録者数50万を超える人気中年おっさん配信者になった。
ダンジョン協会が行っていた理不尽なことを包み隠さず全部打ち明けてくるものだから、みんなからの評判もよく、油に乗っている。
だが、彼女は渡辺さんのことが気になっているわけではなうらしい。
「……頑張れよ。応援しているから」
「え?」
斜め上すぎる返答に俺は呆気に取られた。
以前この子から謝罪を受けた覚えはあるが、まさか応援までされるとは。
俺が面食らった表情をすると、彼女が恥ずかしそうに説く。
「私は無能なお偉い人たちに利用されただけだったの。なのに、私はそんなことも知らずに優越感に浸って、自分より下の人を馬鹿にして無視して軽蔑してたんだ。本当黒歴史以外のなにものでもない」
「……」
以外だった。
彼女はつい最近までは、誰もが羨む精鋭部隊員としてスポットライトを浴びてきた。
つまり、彼女は選ばれた人間だ。
なのに、自分の過ちに気づき、それを口にして俺に伝えている。
並の人間にできることではない。
「そうか」
「そうよ」
物憂げな表情を浮かべる霧島。
もう彼女と俺が歪み合う理由はない。
そもそも気にも留めてなかったのだが……
「nowtuberになりたいなら言え。コラボ動画の一つくらい撮ってやる」
彼女くらいの美貌なら100万も夢じゃなかろう。
いや、余計な心配か。
彼女は精鋭部隊だ。
コネがあるだろう。
俺の助けなんかなくても、彼女はうまくやっていける。
そんなことを思っていると、突然霧島は頬をピンク色に染め、口をもにゅらせる。
「じゃ、連絡先教えてよ」
「え?」
「これからもいっぱい関わりたいし」
「おいおいおい、そんな姿、彼氏が見たら妬くぞ」
「はあ?彼氏?」
「荒波な」
荒波という単語を聞いた途端、彼女は眉間に皺を寄せてコメカミを手で抑える。
「あんなクズ、付き合ったことないってこの前言ってたじゃん!」
「そ、そうか?」
「あんた……私のことどうでもいいと思ってるよね?」
「……ソンアコトナイヨ」
「ほら!急にカタコトになってるし!」
プンスカ怒る霧島。
ちょっとかわいいかも。
だが、彼女は急にまた物憂げな顔でため息をついた。
「荒波はテロ集団に入ったわ」
「え?まじか」
「……」
口を噤んで目をパチパチさせる霧島に俺は至近距離に近づいた。
「ふえ!?」
「全部吐け。荒波とテロ組織のこと」
「っ……」
「言え」
「……わかったわよ。その代わりに、いつか、私と一緒にご飯食べよう」
「お安い御用だ」
俺は霧島から荒波に関するいろんな情報を聞き出すことに成功した。
X X X
数日後
「っ!クソ!クソクソクソ!!」
荒波は俺の前に平伏している。
正確にいうと、俺が荒波をボコボコにして強引に平伏させているだけだが。
周りには他のテロ組織の人々が、俺のワンインチパンチを食らったせいで泡を吹いている。
もちろん、この光景はライブ配信で流れている。
「おい荒波。お前、せっかく俺がキングアイスドラゴンから助けてやったのに、こんなテロ組織に入って、なんのつもりだ?」
俺が彼の頭を踏んづけながらいうと、彼は悔しそうな声音で俺に攻撃的な言葉を発した。
「伝説の拳……気持ちいいよな。SSランクの探索者になって、多くの人に憧れられて、頼りにされて、英雄扱いされるのはな」
「は?」
「お前も権力者らと一緒だよ!お前こそが既得権益だあああ!だから奪ってやる!」
「ほお、奪ってどうする?また前みたいに弱い人を差別しまくって、天狗にでもなるつもりか?」
「……」
俺は荒波の髪を鷲掴みにして持ち上げた。
「俺は、権力とかこれっぽちも興味ないんでな。今すぐSSランクの探索者という座から降りても問題ない。あれは政府の人が頼み込んで仕方なく引き受けたことなんだからな」
「な、なに!?」
「荒波」
「っ!」
俺は指に力を入れて、彼の髪を強く握りしめる。
「お前は死ぬまで、権力を手に入れることはできないぞ。お前が何かをするたびに、俺が徹底的に潰してやるから」
俺に言われた荒波は、
顔を真っ赤にして
叫ぶ
「クッソオオオオオオオオオ!!!!!!!!!あああああああああああ!!!!!」
彼の惨めな叫びを聞いて治安維持部隊の人々がやってきた。
そろそろお開きとしようか。
後のことは治安維持部隊任せるとしよう。
俺は荒波をキングアイスドラゴンの時のように蹴り上げた。
「ブオ!!」
悠々とアジットの外を目掛けて歩む俺。
一つ確かなことがある。
世の中には荒波に似た人間が履いて捨てるほどいるはずだ。
そんな奴らは今まで甘い汁を吸いまくっていい思いをたくさんしてきたはずだ。
俺のやるべきことは、そんな奴らを権力の座から引き摺り下ろし、二度と権力を与えないこと。
それだけでも、この国はよくなる気がしてきた。
実際よくなっているしな。
だが、
もし俺も荒波のように堕落してしまったら、誰かによって裁きを受けることになるんだろう。
俺が考えた正義は他人にだけ適用されるわけではなく、俺にも当てはまる。
少なくとも今の俺は無敵だ。
だって、
本当に権力とかどうでもいいからな。
社会的地位、肩書き、学歴なんかいらん。
こんな縛りがないから、俺は
なんでも壊せる気がした。
追記
次回エピローグ
「……」
「……」
しばし流れる沈黙。
俺は彼女から視線を外して我が道を歩む……はずだったが
「ちょ、ちょっと!スルーはひどいでしょ!一応顔見知りなんだから!こっち向いてよ」
「はあ……」
ため息混じりに俺は振り向いて霧島を見つめた。
「なんだ」
「……なにその態度?偉くなったから、私のことを馬鹿にしてんの?」
「偉くても偉くなくても、俺は同じ行動をしてた」
「んん!」
悔しそうに俺を見ては握り拳を作る彼女に俺は辟易する。
「んで、なんだよ。俺になんか用でもあんのか?」
もしかして渡辺さんのことで俺に文句い言いにきたのだろうか。
渡辺さんとコラボ動画撮ってから、彼はすっかりnowtuberになって、今やチャンネル登録者数50万を超える人気中年おっさん配信者になった。
ダンジョン協会が行っていた理不尽なことを包み隠さず全部打ち明けてくるものだから、みんなからの評判もよく、油に乗っている。
だが、彼女は渡辺さんのことが気になっているわけではなうらしい。
「……頑張れよ。応援しているから」
「え?」
斜め上すぎる返答に俺は呆気に取られた。
以前この子から謝罪を受けた覚えはあるが、まさか応援までされるとは。
俺が面食らった表情をすると、彼女が恥ずかしそうに説く。
「私は無能なお偉い人たちに利用されただけだったの。なのに、私はそんなことも知らずに優越感に浸って、自分より下の人を馬鹿にして無視して軽蔑してたんだ。本当黒歴史以外のなにものでもない」
「……」
以外だった。
彼女はつい最近までは、誰もが羨む精鋭部隊員としてスポットライトを浴びてきた。
つまり、彼女は選ばれた人間だ。
なのに、自分の過ちに気づき、それを口にして俺に伝えている。
並の人間にできることではない。
「そうか」
「そうよ」
物憂げな表情を浮かべる霧島。
もう彼女と俺が歪み合う理由はない。
そもそも気にも留めてなかったのだが……
「nowtuberになりたいなら言え。コラボ動画の一つくらい撮ってやる」
彼女くらいの美貌なら100万も夢じゃなかろう。
いや、余計な心配か。
彼女は精鋭部隊だ。
コネがあるだろう。
俺の助けなんかなくても、彼女はうまくやっていける。
そんなことを思っていると、突然霧島は頬をピンク色に染め、口をもにゅらせる。
「じゃ、連絡先教えてよ」
「え?」
「これからもいっぱい関わりたいし」
「おいおいおい、そんな姿、彼氏が見たら妬くぞ」
「はあ?彼氏?」
「荒波な」
荒波という単語を聞いた途端、彼女は眉間に皺を寄せてコメカミを手で抑える。
「あんなクズ、付き合ったことないってこの前言ってたじゃん!」
「そ、そうか?」
「あんた……私のことどうでもいいと思ってるよね?」
「……ソンアコトナイヨ」
「ほら!急にカタコトになってるし!」
プンスカ怒る霧島。
ちょっとかわいいかも。
だが、彼女は急にまた物憂げな顔でため息をついた。
「荒波はテロ集団に入ったわ」
「え?まじか」
「……」
口を噤んで目をパチパチさせる霧島に俺は至近距離に近づいた。
「ふえ!?」
「全部吐け。荒波とテロ組織のこと」
「っ……」
「言え」
「……わかったわよ。その代わりに、いつか、私と一緒にご飯食べよう」
「お安い御用だ」
俺は霧島から荒波に関するいろんな情報を聞き出すことに成功した。
X X X
数日後
「っ!クソ!クソクソクソ!!」
荒波は俺の前に平伏している。
正確にいうと、俺が荒波をボコボコにして強引に平伏させているだけだが。
周りには他のテロ組織の人々が、俺のワンインチパンチを食らったせいで泡を吹いている。
もちろん、この光景はライブ配信で流れている。
「おい荒波。お前、せっかく俺がキングアイスドラゴンから助けてやったのに、こんなテロ組織に入って、なんのつもりだ?」
俺が彼の頭を踏んづけながらいうと、彼は悔しそうな声音で俺に攻撃的な言葉を発した。
「伝説の拳……気持ちいいよな。SSランクの探索者になって、多くの人に憧れられて、頼りにされて、英雄扱いされるのはな」
「は?」
「お前も権力者らと一緒だよ!お前こそが既得権益だあああ!だから奪ってやる!」
「ほお、奪ってどうする?また前みたいに弱い人を差別しまくって、天狗にでもなるつもりか?」
「……」
俺は荒波の髪を鷲掴みにして持ち上げた。
「俺は、権力とかこれっぽちも興味ないんでな。今すぐSSランクの探索者という座から降りても問題ない。あれは政府の人が頼み込んで仕方なく引き受けたことなんだからな」
「な、なに!?」
「荒波」
「っ!」
俺は指に力を入れて、彼の髪を強く握りしめる。
「お前は死ぬまで、権力を手に入れることはできないぞ。お前が何かをするたびに、俺が徹底的に潰してやるから」
俺に言われた荒波は、
顔を真っ赤にして
叫ぶ
「クッソオオオオオオオオオ!!!!!!!!!あああああああああああ!!!!!」
彼の惨めな叫びを聞いて治安維持部隊の人々がやってきた。
そろそろお開きとしようか。
後のことは治安維持部隊任せるとしよう。
俺は荒波をキングアイスドラゴンの時のように蹴り上げた。
「ブオ!!」
悠々とアジットの外を目掛けて歩む俺。
一つ確かなことがある。
世の中には荒波に似た人間が履いて捨てるほどいるはずだ。
そんな奴らは今まで甘い汁を吸いまくっていい思いをたくさんしてきたはずだ。
俺のやるべきことは、そんな奴らを権力の座から引き摺り下ろし、二度と権力を与えないこと。
それだけでも、この国はよくなる気がしてきた。
実際よくなっているしな。
だが、
もし俺も荒波のように堕落してしまったら、誰かによって裁きを受けることになるんだろう。
俺が考えた正義は他人にだけ適用されるわけではなく、俺にも当てはまる。
少なくとも今の俺は無敵だ。
だって、
本当に権力とかどうでもいいからな。
社会的地位、肩書き、学歴なんかいらん。
こんな縛りがないから、俺は
なんでも壊せる気がした。
追記
次回エピローグ