裕介side
妹と別れてから俺はバイト先であるカフェ『高砂コーヒー』へと向かう。
途中で、収益化の申請をすることも忘れない。
「おはようございます」
「おやおや、これは伝説の拳様のお出ましか」
口角を吊り上げて俺にジョークを飛ばす人はこのカフェのオーナーである高砂さん。
大手総合商社を引退して、このカフェを運営する中年おっさんだ。
だが、我々が思い浮かべる普通の中年おっさんではなく、おしゃれに気を使ったり、体を鍛えたりする誠実な人だ。
イケメンだから、オーナー目当てでくるおばさん達も多い。
高砂さんは、中卒の俺に差別的な言動を見せることなく、俺の働きぶりだけを見て採用してくれたなかなかの変わり者だ。
「伝説ってなんですか」
「そのままの意味だよ。君は伝説だ。まさか、SSランクのモンスターを簡単に倒せる強者が俺の店で働いていたとはな……人生、わからないもんだ」
高砂さんは顔を顰めて顎に手をやり、哲学者じみた雰囲気を出した。
「着替えてきます」
俺が無表情でいうと、高砂さんが俺を呼び止めた。
「待て!裕介くんに話したいことがあるんだ」
「ん?」
俺は視線で続きを促す。
彼はとても真面目な表情を俺に向けてきた。
「学費足りないだろ?貸してあげる」
「え?」
予想の斜め上を行くことを言うものだから俺は当惑する。
花隈育成高校の学費は他の名門私立校と比べ物にならないほど高い。
なのに貸してくれるんだと?
「大バズりしても、収益化の申請があるし、収益化したとしてもすぐにお金が手に入る訳では無い。だから、裕介くんさえ良ければ俺が貸してあげる」
「それはとてもありがたい話ですけど、良いですか?中卒に大金貸して……食い逃げもあり得ますよ」
「いや、それは違うな。君はそういうやつじゃない」
「どうやってそんなこと断言できますか?」
と、俺が腕を組んでジト目を向けると、高砂さんが口を開く。
「君はここで3年間働いたが、これまで一度も家の事情を僕に言ってない。つまり、何事においても君は君の力で問題を解決してきたんだろう」
「……」
「そういう人の特徴は二つある。とてつもなく責任感が強い。そして約束は必ず守る。つまり最高のビジネスパートナーって事だ」
「ビジネスパートナー?」
俺が小首を傾げていると、店長は悪戯っぽく口の端を吊り上げる。
「君はこれから大人気nowtuberになること間違いなしだ。その時が来たら、うちの高砂コーヒーをよろしくな」
「オーナー……」
伊達に大手総合商社で長年働いてないな。
ちゃっかりしてるぜ。
「人手なら気にするな。姪にやらせればいい」
「……ありがとうございます」
俺は高砂さんに深く頭を下げた。
めっちゃ格好いい。
俺もこういう大人の余裕が欲しい。
その前にまずお仕事。
コーヒーを含む様々な飲み物を作ったり、客にそれを渡したり、お会計業務をしたりと、俺は忙しなく仕事をしている。
こんな感じで気がつけば16時20分になっていた。
終わりの作業の差し掛かる頃
思わぬ出来事が起きた。
「いらっしゃませ!何名さま……え?」
うなじまで届く短い亜麻色の髪、幼げは残っているものの、とても整った目鼻立ち、最上級ルビーを彷彿させる鮮烈な赤い瞳、
そして
制服をはち切れんばかりに押し上げる爆乳に、短いスカートから伸びた象牙色の美脚。
この美貌、俺が間違えるはずがない。
彼女は俺を見るなり、モジモジしながら頬をピンク色に染める。
「一日ぶりね、伝説の拳様……」
「……」
彼女の妖艶な姿に店内の主婦達は目を丸くする。
奈々さんという女の子の登場によって店の雰囲気は一変した。
彼女は客としてきたのだ。
落ち着いて冷静に振る舞おう。
「何名様ですか?」
「一人で来たのよ……あなたに会いたくて」
「っ!」
一瞬頬を膨らませてから恥ずかしそうに言う奈々さんに一瞬俺の脳がバグってしまった。
固まった俺。
そんな俺に後ろから誰かが耳打ちしてきた。
「裕介くん、この時間帯だと買い物で客の出入りは少ないんだ。だから僕がやっておくから二人で話でもしてこい」
「高砂さん……でも……」
「ほら」
「っ!」
高砂さんは問答無用で俺の背中を叩いた。
俺は流されるがままに奈々さんと向かい合うようにテーブルの椅子に腰掛けた。
各々注文を済ませると、高砂さんが飲み物を持ってきてくれた。
俺はブラックコーヒー、奈々さんはキャラメルマキアート。
甘いものが好きらしい。
「……お姉ちゃんは収録があるからこれなかったの。だからお姉ちゃんの分も含めて、お礼を言いたくて……私たちを助けてくれて本当に……本当にありがとう……」
奈々さんは深く頭を下げた。
おかげさまで爆のつく乳がデーン垂れてきて、下着と谷間が丸見えだ。
なんでシャツのボタンを二つも外しているんだよ。
目のやり場に困る。
「ま、まあ……無事でなによりです」
俺が言うと、奈々は頭を上げて口を開く。
「同い年だからタメ口で全然いいよ。裕介」
「妹から聞いたのか」
「そう。色々ね。私は躑躅奈々。奈々って呼んで」
「……奈々」
「ふふ」
気まずい。
妹以外、女の子とろくに話したことがないからこういう時、どんな話をしたらいいか分からない。
とりあえずコーヒーでも飲もうか。
俺が言いあぐねたら、奈々が小悪魔ぽく俺に言葉を発した。
「裕介のおかげで、私とお姉ちゃんの処女は守られたの」
「ブッ!ゲホゲホ!」
予想外の単語を聞いたものだから、俺はむせてしまった。
「ふふ、裕介、動揺しすぎ」
「いや、処女とか、そんなこと平然と言ってのけるから……」
「大事なものだからね」
「そうか……」
「そう。だから私たちの家族になってくれる大切な人に捧げたいじゃん?」
「ま、まあ……そうだな」
たちは言い間違いか。
家族。
つまり、未来の旦那さんと言うことだろう。
そんな人に捧げたいと言うのなら、俺が取った行動は間違ってないと言うことだろう。
俺が安堵のため息をつくと、奈々が自分の指を絡ませてまたモジモジする。
「あのね……裕介って何も求めないの?」
「求める?」
「ほ、ほら!裕介は私たちを見事救ってくれたじゃん?SSモンスターを倒したんだよ。俺格好いいアピールしていい案件じゃん?」
言っている意味がわからない。
俺は眉間に皺を寄せて奈々に反論した。
「いや、たかがSSランクのモンスターを倒したくらいで大袈裟だよ」
「っ!!!!!!」
奈々が突然上半身を強くひくつかせた。
その反動で椅子が後ろにずれてしまう。
「……奈々?」
奈々は急に激しく息をしながら、俺の目を穴が空くほどに見つめてきた。
この妖艶な姿は、飲み込まれてしまいそうで直視できない。
「裕介……」
「ん?」
「ちなみに属性、何個持ってるの?」
「属性か……」
問われた俺は考え考えした。
「うん……わからない」
「はあ!?自分の属性もわからないっていうの!?」
「当たり前だろ。俺は中卒だ。だから、能力者検査を受けられないんだよ。属性探知機?それに手を翳したらすぐ分かるって言うけど、俺に属性探知機を使う権利も資格もない」
俺が諦念めいた表情で言うと、これまで落ち着きがなかった奈々が立ち上がって口を開いた。
「じゃ測りに行こうよ」
「え?」
追記
次回は主人公のしゅごさがわかります
妹と別れてから俺はバイト先であるカフェ『高砂コーヒー』へと向かう。
途中で、収益化の申請をすることも忘れない。
「おはようございます」
「おやおや、これは伝説の拳様のお出ましか」
口角を吊り上げて俺にジョークを飛ばす人はこのカフェのオーナーである高砂さん。
大手総合商社を引退して、このカフェを運営する中年おっさんだ。
だが、我々が思い浮かべる普通の中年おっさんではなく、おしゃれに気を使ったり、体を鍛えたりする誠実な人だ。
イケメンだから、オーナー目当てでくるおばさん達も多い。
高砂さんは、中卒の俺に差別的な言動を見せることなく、俺の働きぶりだけを見て採用してくれたなかなかの変わり者だ。
「伝説ってなんですか」
「そのままの意味だよ。君は伝説だ。まさか、SSランクのモンスターを簡単に倒せる強者が俺の店で働いていたとはな……人生、わからないもんだ」
高砂さんは顔を顰めて顎に手をやり、哲学者じみた雰囲気を出した。
「着替えてきます」
俺が無表情でいうと、高砂さんが俺を呼び止めた。
「待て!裕介くんに話したいことがあるんだ」
「ん?」
俺は視線で続きを促す。
彼はとても真面目な表情を俺に向けてきた。
「学費足りないだろ?貸してあげる」
「え?」
予想の斜め上を行くことを言うものだから俺は当惑する。
花隈育成高校の学費は他の名門私立校と比べ物にならないほど高い。
なのに貸してくれるんだと?
「大バズりしても、収益化の申請があるし、収益化したとしてもすぐにお金が手に入る訳では無い。だから、裕介くんさえ良ければ俺が貸してあげる」
「それはとてもありがたい話ですけど、良いですか?中卒に大金貸して……食い逃げもあり得ますよ」
「いや、それは違うな。君はそういうやつじゃない」
「どうやってそんなこと断言できますか?」
と、俺が腕を組んでジト目を向けると、高砂さんが口を開く。
「君はここで3年間働いたが、これまで一度も家の事情を僕に言ってない。つまり、何事においても君は君の力で問題を解決してきたんだろう」
「……」
「そういう人の特徴は二つある。とてつもなく責任感が強い。そして約束は必ず守る。つまり最高のビジネスパートナーって事だ」
「ビジネスパートナー?」
俺が小首を傾げていると、店長は悪戯っぽく口の端を吊り上げる。
「君はこれから大人気nowtuberになること間違いなしだ。その時が来たら、うちの高砂コーヒーをよろしくな」
「オーナー……」
伊達に大手総合商社で長年働いてないな。
ちゃっかりしてるぜ。
「人手なら気にするな。姪にやらせればいい」
「……ありがとうございます」
俺は高砂さんに深く頭を下げた。
めっちゃ格好いい。
俺もこういう大人の余裕が欲しい。
その前にまずお仕事。
コーヒーを含む様々な飲み物を作ったり、客にそれを渡したり、お会計業務をしたりと、俺は忙しなく仕事をしている。
こんな感じで気がつけば16時20分になっていた。
終わりの作業の差し掛かる頃
思わぬ出来事が起きた。
「いらっしゃませ!何名さま……え?」
うなじまで届く短い亜麻色の髪、幼げは残っているものの、とても整った目鼻立ち、最上級ルビーを彷彿させる鮮烈な赤い瞳、
そして
制服をはち切れんばかりに押し上げる爆乳に、短いスカートから伸びた象牙色の美脚。
この美貌、俺が間違えるはずがない。
彼女は俺を見るなり、モジモジしながら頬をピンク色に染める。
「一日ぶりね、伝説の拳様……」
「……」
彼女の妖艶な姿に店内の主婦達は目を丸くする。
奈々さんという女の子の登場によって店の雰囲気は一変した。
彼女は客としてきたのだ。
落ち着いて冷静に振る舞おう。
「何名様ですか?」
「一人で来たのよ……あなたに会いたくて」
「っ!」
一瞬頬を膨らませてから恥ずかしそうに言う奈々さんに一瞬俺の脳がバグってしまった。
固まった俺。
そんな俺に後ろから誰かが耳打ちしてきた。
「裕介くん、この時間帯だと買い物で客の出入りは少ないんだ。だから僕がやっておくから二人で話でもしてこい」
「高砂さん……でも……」
「ほら」
「っ!」
高砂さんは問答無用で俺の背中を叩いた。
俺は流されるがままに奈々さんと向かい合うようにテーブルの椅子に腰掛けた。
各々注文を済ませると、高砂さんが飲み物を持ってきてくれた。
俺はブラックコーヒー、奈々さんはキャラメルマキアート。
甘いものが好きらしい。
「……お姉ちゃんは収録があるからこれなかったの。だからお姉ちゃんの分も含めて、お礼を言いたくて……私たちを助けてくれて本当に……本当にありがとう……」
奈々さんは深く頭を下げた。
おかげさまで爆のつく乳がデーン垂れてきて、下着と谷間が丸見えだ。
なんでシャツのボタンを二つも外しているんだよ。
目のやり場に困る。
「ま、まあ……無事でなによりです」
俺が言うと、奈々は頭を上げて口を開く。
「同い年だからタメ口で全然いいよ。裕介」
「妹から聞いたのか」
「そう。色々ね。私は躑躅奈々。奈々って呼んで」
「……奈々」
「ふふ」
気まずい。
妹以外、女の子とろくに話したことがないからこういう時、どんな話をしたらいいか分からない。
とりあえずコーヒーでも飲もうか。
俺が言いあぐねたら、奈々が小悪魔ぽく俺に言葉を発した。
「裕介のおかげで、私とお姉ちゃんの処女は守られたの」
「ブッ!ゲホゲホ!」
予想外の単語を聞いたものだから、俺はむせてしまった。
「ふふ、裕介、動揺しすぎ」
「いや、処女とか、そんなこと平然と言ってのけるから……」
「大事なものだからね」
「そうか……」
「そう。だから私たちの家族になってくれる大切な人に捧げたいじゃん?」
「ま、まあ……そうだな」
たちは言い間違いか。
家族。
つまり、未来の旦那さんと言うことだろう。
そんな人に捧げたいと言うのなら、俺が取った行動は間違ってないと言うことだろう。
俺が安堵のため息をつくと、奈々が自分の指を絡ませてまたモジモジする。
「あのね……裕介って何も求めないの?」
「求める?」
「ほ、ほら!裕介は私たちを見事救ってくれたじゃん?SSモンスターを倒したんだよ。俺格好いいアピールしていい案件じゃん?」
言っている意味がわからない。
俺は眉間に皺を寄せて奈々に反論した。
「いや、たかがSSランクのモンスターを倒したくらいで大袈裟だよ」
「っ!!!!!!」
奈々が突然上半身を強くひくつかせた。
その反動で椅子が後ろにずれてしまう。
「……奈々?」
奈々は急に激しく息をしながら、俺の目を穴が空くほどに見つめてきた。
この妖艶な姿は、飲み込まれてしまいそうで直視できない。
「裕介……」
「ん?」
「ちなみに属性、何個持ってるの?」
「属性か……」
問われた俺は考え考えした。
「うん……わからない」
「はあ!?自分の属性もわからないっていうの!?」
「当たり前だろ。俺は中卒だ。だから、能力者検査を受けられないんだよ。属性探知機?それに手を翳したらすぐ分かるって言うけど、俺に属性探知機を使う権利も資格もない」
俺が諦念めいた表情で言うと、これまで落ち着きがなかった奈々が立ち上がって口を開いた。
「じゃ測りに行こうよ」
「え?」
追記
次回は主人公のしゅごさがわかります