俺は今回の事件で二つ教わったことがある。

 まず一つ目。

 それつまり

 世界は一瞬にして変わる。

 俺が売れない探索者として妹を養った時は、この貧乏な生活が永遠に続くとばかり思っていた。

 けれど、躑躅家の美人姉妹を助けることを皮切りに俺の人生は姿を完全に変え、今やみんなの注目を浴びている。

 そしてもう一つの教え。

 やられたらやり返す。

 俺はまだ人生歴が浅いが、俺の動画に寄せられたコメントを読むことで、20代30代といった人生における先輩たちのストーリーを読むことができる。

 どうやら理不尽な人生を生きていた人は俺だけじゃないらしい。

 学校でいじめらている人、ブラック会社で搾り取られている人、上司から嫌がらせを受けている人、彼氏から暴力を受けている人などなど。

 無能力者であれ能力者であれ、それぞれ死にたいと思うほどの苦悩を抱えている。
 
 その人たちは、俺と蘭子さんの存在にとてつもなく安らぎを得ているらしい。

 俺と蘭子さんのした行動は、この国を巣食っていた権力者たちを潰すことに繋がった。

 つまり、人生の底辺を歩く下っ端の無能力者どもによって既得権益が徹底的に破壊されてしまったんだ。

 だから、他の偉い方々も危機感を感じているらしい。

 例えば、会社の部長とか社長だったり。
 
 残業手当問題や会社が行っている数多くの理不尽な慣習に泣き寝入りするのではなく、それをSNSやnowtubeなどに暴露する。

 すると、その会社の部長や社長といった偉い方々の個人情報が特定され、本人と子供は脅迫を受ける。

 恐怖に怯える彼らはこれまでタダ働きさせた分に利息まで上乗せして社員に支払ったり、給料を上げてくれた。

 なので、とある経済評論家はこのような現象が続くと、所得分配率とGDPが跳ね上がると言う。

 経済用語が難しいから何を言っているのかわからんが、きっとこの国の経済は良くなるということだろう。

 現に、お偉い人たちが独占していた依頼も一般能力者たちも受けるようになってから、貧乏な生活を余儀なくされていた能力者はまともな生活が送れるようになった。

 いじめを受けていた子らにも変化が起きているらしい。

 あまりにもしつこくイジメをしてくる陽キャのせいで、死のうと思っていた子がいるらしい。

 そのいじめられっ子は、俺と血の女王が登場する前は、自ら命を絶とうと決心したが、考えを変えたらしい。

 自分が死ぬくらいなら、自分を苦しめてくる奴とかそいつが一番大切にしているものを壊そうと。

 なので、いじめられっ子は凶器でその陽キャいじめっ子を刺しまくり重症を負わせたらしい。

 このような事件が最近多発している気がする。

 結果、

 イジメによる被害と、ブラック企業がものすごいスピードでなくなりつつあると言う。
 
 一つ気付かされた点がある。

 本当に日本人は優しい人が多いと言うことだ。

 これまで、権力を振り翳している無能な連中から理不尽な待遇を受けたり、嫌がらせを受けたり、ひどいことをされていたのに、文句を言うこともなく泣き寝入りしていた。

 辛いけど、人のせいにすることなく、悪いことは自分だと責め立て、作り笑顔で優しい顔を向けてきたのではないかと思う。

 だけど、それは本当の意味での優しさではないと思う。

 自分の身を滅ぼす優しさは災いでしかない。
 
 と言うわけで、しばらくの間はこのまま静観する方がいいと思う。

 バランスは大事だ。

 偏り過ぎたバランスが均衡状態になるまで、彼ら彼女らの好きにさせようではないか。
 
 だが、時間がたち、持たざるものの力が大きくなってバランスが別の方向に偏りすぎると、その時には血の女王である蘭子さんが動くのであろう。

 まあ、先のことを考えるより、今を大事にしよう。

 そんなことを考えている俺は総務省に新設された『能力者と無能力者差別防止局』にきている。

「はい!これで伝説の拳さまはSSランクの探索者になりました!」
「……」
 
 受付係のお姉さんが笑顔で探索者証を俺に渡した。

『SSランク探索者証』

 やっと俺も無能力者から能力者になったか。

 感慨深く探索者証を見つめる俺に、受付のお姉さんは言う。

「すごいです!日本で初めてのSSランク……」
「あはは……」

 俺がげんなりしていると、受付のお姉さんが首をキョトンと傾げて問うてくる。

「どうしたんですか?」
「……いいえ。なんでもありません」

 正直乗り気じゃなかった。
 
 無能力者のまま過ごしても困ることはないが、視聴者と躑躅家の母娘、理恵に頼み込まれた。

 何より、政府関係者からの熱いアピールを受け、俺はテストを受けることなくSSランクの探索者になった。

 外を出た俺。

 空気が美味しい。

 だが、

 ちょっと困ることがある。

 躑躅家の母娘が向けてくる愛があまりにも重すぎる。

 俺も彼女らの『要求』にちゃんと応えて上げているが、やっぱり俺はこの母娘には絶対勝てない。

「はあ……」
 
 ため息を吐きながら歩いていると、

「ん?」
「は」

 荒波の彼女?である霧島とばったり目があった。