俺がダンジョン協会の会長?

 一度も考えたことのない選択肢を視聴者たちは言ってくれた。

 俺はどうすればいいのか。

 答えはとっくに決まっている。

「ダンジョン協会の会長になるつもりは毛頭ありません」

 そう。

 俺は理恵と躑躅家の人間を守って、蘭子さんが幸せになれるようにする。

 そして、俺たちが住んでいるこの国が危機的状況に陥ったら助ける。

 難しいことはからきしわからない。

 俺はもともとこういう人間だ。

「これからもSSランクのダンジョンで動画を撮り続けますので、よろしくお願いします」

 俺はすでに3000万を超えた視聴者に向かって頭を下げる。

『かっけ……まじ尊敬する』
『今の権力握っている連中とはレベルが雲泥の差』
『こんなにできる人なのに、今まで無能力者扱いとか、マジで怒り込み上げてきた』
『応援してるで』
 
 幸いなことに、視聴者は納得してくれたらしい。

 だけど

『既存の秩序が破壊されるのを見てみぬふりをするあなたは、犯罪者』
『これまで賢い人たちが築き上げてきたルールを無視するとか、君は正義の味方なんかじゃない。テロリストの味方だ』
『今からでも遅くない。血の女王を殺せ』
『もし、血の女王によるテロを丸く収めたら、君はSランクの探索者になれる。早く助けろ』
 
 割合こそ少ないが、俺を貶すコメントもあるわけで。

 だけど、俺は動じない。

「一部の人が俺のやることを否定して、上から目線で言ってますけど……」

 俺は一旦切って、息を深く吸った。

 そして

 言葉を吐く。

「別に俺は自分がやっていることが正義だとは思わない。もう一度言いますけど、俺は単なる無能力者です」

 言い終えた俺はほくえんだ。

「だから、今日はこのSSランクに生息している強いモンスターを狩りたいと思います。最後までお付き合いください」

 俺はもう話すのをやめて、SSランクのモンスターを駆除していく。


X X X


SNS上

『でんこ様、結局血の女王を止めないらいしい』
『お偉い方、大ピンチ!!今頃、おしっこ漏らしながらいつ殺されるかわからない恐怖を味わっているんだろうな』
『ざま!』
『テレビだと、でんこ様がダンジョン協会と国会議員の味方であるかのように報道してるけど、nowtubeとSNSだと真逆で草』
『情弱じゃない限り、こんな低レベルの世論操作なんかに騙されるわけがねーだろ』
『てか、いきなり治安めっちゃ良くなったけど?でんこさまがライブで警告してたからかな』
『さすがでんこ様に歯向かうイカれた連中はいないんだよな』

 祐介のことですでに持ちきり状態だ。

 彼のことだけじゃない。

『奈々ちゃんと友梨ちゃんのライブみた?でんこ様の肩を持つのまじウケるwww』
『お陰で他のnowtuberらもでんこ様賛美してクソワロタ』
『ダンジョン協会から甘い汁吸いまくってるnowtuberのチャンネルは全部閉鎖されとるwwwww』
『奈々ちゃん、いきなり転校すると言い出すからめっちゃおもろかった。ちゃっかりしてるとこ奈々ちゃんらしくて好きだわw』
『奈々ちゃんガチででんこ様のこと大好きやね』
『友梨ちゃんもでんこ様に好意寄せてるみたいだし、羨ましすぎる。まあ、あれだけ格好いいから納得だけどw』

 美人姉妹の生配信の内容に関する書き込みで溢れかえっている。

『なんかすごくない?普通、これくらいのテロだと国家自体が機能しなくなるのが常だけど、血の女王って生産施設とか、経済的価値のある場所って壊してないんだよな。きっと日本のことを大事にしてるんだろう』
『治安はでんこ様によって急に良くなったし、国におけるがん細胞の連中は血の女王が潰している。マジで我が国にとっていいことしかない気がするんだけど』
『特権階級の連中以外は得しかしてない説』
 
X X X

蘭子サイド

 血まみれになった蘭子は高い建物の屋上に佇んで、景色を眺めている。

「綺麗ね」

 妖艶な笑みを浮かべる蘭子のスマホが鳴る。

「もしもし」
『蘭子様、全員、任務完了です』
「ふふふ、よくやったわ。じゃ、早速引き上げるわよ」
『……蘭子様、本当にいいんですか?』
「ん?なにが?」
『わざと生かしておいた政治家たちが、私たちの要求なんか聞いてくれるはずがないと思います。むしろ、撤退したら、私たちの居場所を突き止めて潰そうとするでしょ』

 部下が心配そうに言うも、蘭子の赤い瞳は微動あにしない。

「もしそうなったら、奪うだけよ」
『何を奪いますか?』
「今回みたいに本人の命だけじゃ物足りない。本人は生かして、その本人がとても大切にしている存在全てを奪う。奴らが頑固であればあるほど、こっちもそれ相応の行いを以て示してあげないとね」
『……了解です。でも、』
「ん?なんだ?」
『女王様は、本当に大丈夫ですか?』
「何が?」
『その……こんなに殺して』
「なに。いつものことでしょ?」
『そ、そうですけど、ダンジョン協会の会長とか国会議員とか企業の社長とか……大物が多すぎて』

 部下が心配そうに言うが、蘭子は至って冷静だ。

「権力を持っている連中が自分の力を正しく使えばなんの問題もない。だけど、私一人も倒せないほど成り下がっていたのなら、全部殺さないとね。腐った皮膚を抉り取るように」
『なるほど……それにしても、こんなにあっさりやれるとは思いもしませんでした』
「あっさりね。一つ教えてあげるね」
『はい……』
「権力を持っている連中は実はとても弱い存在なの。持ちすぎている故に、失いたくないものを奪われないために強いふりをするんだよね。奴らを野放しにすると調子に乗って、今みたいに持たざるものを迫害するんだ。でも、そんな持っているものに何の抵抗もしないのは奴隷になりますと言っているようなものでしょ?だから奪ってやらないとね。永遠に自分のものだと思っているものが潰すの』
『……』
「ふふふ、じゃね」

 話を終えた蘭子は頬をピンク色に染める:

 そして自分のお腹をさすりながら妖艶な面持ちでツヤのある唇動かす。

「祐介……あなたのおかげで、私は新しい一歩を踏み出すことができたの」