「美味かった……」
「でしょ!家主さんがくれた新鮮な野菜とお兄ちゃんが持ってきてくれたお肉の組み合わせは本当に最高だった」

 ダンジョン産の肉をふんだんに使った肉料理を平らげた俺と3人はお腹をさすりながらくつろいでいる。

 にしても、友梨姉と奈々はこんな狭苦しいところ不便じゃなかろうか。

 ここは倒れる寸前の1DKだ。
 
 俺は心配の視線を二人に向けながら訊ねた。

「友梨姉、奈々、居心地……悪くないか」
「「ん?」」

 向かいに座っている二人は俺の言葉が理解できないと言わんばかりに首を捻る。

「ほら、ここって結構狭いじゃん?」

 俺の表情を見て二人は微笑む。

「祐介。場所なんかどうでもいいの」
「そうよ。重要なのは誰といるか、だからね」
「……そうか」

 小さな一時の安堵。

 その後にやってくるのは新たな疑問。

「お兄ちゃん、どうした?浮かない顔なんかして。話してみ」
 
 俺の異変に気づいたのは妹の理恵だった。

 友梨姉と奈々は理恵に釣られる形で俺をじっと見つめる。

「いや……大丈夫」
「お兄ちゃん……」

 俺は誤魔化そうとするが、3人は決して見逃さない。

「祐介、言ってみて。私たちは家族よ。女問題は例外だけど、祐介が一人で抱え込む必要はないよ」
「奈々の言う通りよ。祐介が私たちを守ってくれる分、私たちも祐介のためになることをしないとね。女問題以外だと」
「友梨姉……奈々……」

 なぜか背筋がゾワッとする怖さと、俺の心を落ち着かせる安堵という相反する感情が入り混じる。

「お兄ちゃん、言って」
「理恵……」

 なるべく3人を巻き込みたくなかったのだが、彼女らの考えを知っておくことも大事だろう。

「3人は、ダンジョン協会のことをどう思っているんだ?」

 俺の問いに早速奈々がに笑いを浮かべて反応する。

「あはは……そういえば、最近めっちゃ叩かれてるよね。キングアイスドラゴンの件もあるし」

 奈々の顔を見て友梨姉も口を開く。

「メディアだと、報道規制がかかっているから祐介くんのことをあまり取り上げないけれど、SNSとかnowyubeだとすっかり人気者になったものね。若い世代を中心に」
「ほ、報道規制?」

 俺が気になる単語を並べると、友梨姉が肩まで届く甘色の髪を手櫛ですいて説く。

「そうよ。祐介くんはお偉いさんたちにとって厄介な存在になりつつあるから」
「……」

 俺はテレビに出るほどの有名人である自覚がないからあまり気にしてなかったけど、キングゴーレムの件といい、キングアイスドラゴンの件といい、報道の仕方に疑問を感じていた。

 ダンジョン協会の無能ぶりを必死に隠しているような報道ばかり。

 報道規制か。
 
「大丈夫か?そんな俺と親しくなっても」

 俺が3人から目を逸らして問うと、3人は目で合図する。

 向かいにいる友梨姉と奈々が立ち上がって、俺の方にやってきて座り込む。

 それから友梨姉は自分の大きすぎる爆乳で俺の左腕を挟み込み、奈々は俺の右腕を自分のとてつもなく巨大なマシュマロで包み込む。

「っ!!」

 俺が戸惑っていると、理恵が前から俺を抱きしめてきた。

 うち奈々が俺の耳に息を吹き込みながら口を開く。

「ねえ、祐介」
「な、なんだ」
「私はダンジョン協会が大好きよ」
「え?」

 マジか。

 奈々はダンジョン協会に対していいイメージを持っているのか。
 
 彼女が通っている花隈育成高校はダンジョン協会とも繋がりがあって、ネットで調べたけど、荒波と霧島もあの高校出身だそうだ。
 
 俺が複雑な表情を浮かべたら、奈々は続ける。

「ダンジョン協会が祐介を認めてないから、私たちは祐介に出会うことができたの……祐介に救われることができたの……」
「……」
「でもね、私の家族になった祐介を必死こいて認めようとしないダンジョン協会は、クズね」

 なるほど。

 そういう意味だったのか。

 俺が納得していると、友梨姉も俺の耳に息を吹きかける。

 やめてくれ。
 
 くすぐったい。
 
 ていうか、二人の胸の感触、柔らかすぎて腕が持って行かれてしまいそうだ。

「祐介くん」
「ああ……」
ずっと(・・・)あなたについて行くわ。ダンジョン協会はどうでもいい。もしダンジョン協会が私と祐介くんの仲を邪魔するなら、潰す(・・)
「っ!!」
  
 奈々の息、友梨姉の息が俺の顔全てを包み込むような気がして頭がくらくらする。

 そんな俺に追い討ちをかけるようにずっと俺を抱きしめている理恵が俺に囁きかける。

「お兄ちゃんは、お兄ちゃんがやりたいことをすれば良いの。それが私たちの道だから」
「理恵……」

 くっそ……

 なんで俺は3人を疑ったんだろう。

 情けない。

 たまに怖いけど、3人は俺を信じてついてきてくれている。

 俺のそばにいてくれて、寂しい思いなんかもう感じない。

 チャンネル登録者数500万を超える奈々も1000万を超える友梨姉も俺と一緒にいることを選んでくれた。
 
 そうだ。

 俺は蘭子さんの言葉を気にしすぎていた。

 俺は友梨姉と奈々と理恵の背中に腕を回して持ち上げながら立ち上がった。

「「「っ!」」」
 
 戸惑う3人。

 だが、抵抗はしない。

「ごめんな。変なことを聞いて。もう大丈夫だから」

 俺に抱かれている友梨姉と奈々は俺を見て安堵する。

 友梨姉が話した。

「私たち、祐介くんの役に立つ人に人になりたいの。だからね、なんでも言ってちょうだい(・・・・・・・・・・・・)
「友梨姉……」

 姉の言葉を聞いた奈々が小悪魔っぽく笑いながら俺に耳打ちする。

「エッチなこともね」
「っ!奈々!お前!」
「ひひ!」

 ったく……
 
 奈々の小悪魔なところにはいつも参る。

 俺はごまかそうと咳払いをして言う。

「ったく……まあ、とにかく返事を聞いて安心したよ。俺も、もっと頑張って、守ってあげるから(・・・・・・・・・)。みんなを」 

「「っ!!!!!!」」

 友梨姉と奈々が急に体を震えさせる。

 俺までびっくりしたじゃないかい。

 俺に抱かれている美人姉妹は互いを見つめあって何かを決心したようにドヤ顔を浮かべる。

「ねえ、理恵ちゃん、今日、ここに泊まっていい?」
「……夜も遅いことだし、泊めてくれると助かるわ」
「はい!もちろんです」

 妹は潔く許諾した。

「……」

 俺の意志は?





追記


次回から本格的に始まります。