999万円という驚きの額と鳥肌を立たせる怖いメッセージを見て、俺は身震いした。

 500円とか1000円あたりの少額なら笑顔で『ありがとうございます』が言えるが、これは次元が違うのだ。

 俺が何も言わずにいると、また誰かがスパチャを投げてくる。

『名無しさんが1000万円を投げました』

「ああ……」

『名無しさんからのメッセージ:Rさん、私のでんこ様に手出さないで(笑)たとえ身内だしても掻っ攫うのは許さないわよ』

 なんじゃこりゃ……

 俺が戸惑っていたら、すかさずまた誰がスパチャを投げてくる。

『名無しYさんが1000万円を投げました』
『名無しNさんが1000万円を投げました』
『名無しYさんからのメッセージ:Rさん、誰?』
『名無しYさんからのメッセージ:R、まじぶっ殺す。でんこ様に手出すな。でんこ様は私のものなの』

「い、いや……みんな……落ち着いて……」

 か細い声で場を丸く収めようとするも、

『炎上だああああ!』
『でんこ様のお尻をかけた熾烈な攻防戦!燃ゆる〜╰(*´︶`*)╯』
『金持ちの中年社長たちに愛されるでんこ様wwww』
『金額エグすぎいいいいい』
『名無しYさんって、女口調?金持ちのおじさんが書いたと思うと、鳥肌立つわ』

 まずい。

 この時、どうすればいいか。

 俺は目を瞑って考えた。

 そしたら、それっぽい解決策が出てくる。

 そう。

 何事においても欲張るのは良くない。

 俺はドヤ顔で言う。

「今日はスパチャ禁止!!」

 俺は早速スパチャを投げれないように設定を変更した。

「スパチャは本当に嬉しいですけど、争うのはダメですからね!これからはモンスターを狩に行きますよ!」

 俺は浮遊魔法でスマホを動かし、俺じゃなく前を移すようにした。

『炎上の次はSSモンスター狩りか。ここはコンテンツ豊富すぎてわろた』
『面白すぎw』
『配信者の神様がでんこ様を助けているで』
『ちゃんと格好いいところ見せて、でんこ様のお尻の株を上げよう!!』

 よし!

 さっきの炎上騒ぎを鎮める意味でも張り切ってやるぞい!
 
 おおおおお!!

 おおおおおおおお!!

「ワンインチパンチ!」
「ぐえええええ!」

 俺はミノタウロスを倒した。

「ワンインチパンチ!」
「キオオオオオオ!!」

 俺はキング鷲を倒した。

「ワンインチパンチ!」
「ムオオオオオオ!!」

 グレイトダンジョン水牛も。

 こんな感じで2時間ほどがすぎた。

『かっけええええ!!』
『これは男でも惚れる』
『ダンジョン協会所属の能力者が全員挑んでも、でんこ様の足元にも及ばないんだろうな』
『こんなに楽しませてくれる配信者はいないぜ!』
『いつみてもえぐいよな。でんこ様が倒したモンスターは全部つよつよSSランクのモンスターだぞ!』

 どうやらご満足いただけたようだ。

「今日はこのくらいにさせていただきます!またお会いしましょう!」

 俺はライブ配信を終える。

 倒したモンスターをダンジョン協会に行って売るのも面倒くだい。

 大金を稼いだから、妹と三人に食わせる肉以外は全部燃やそう。

 俺は早速作業に入る。

 ミノタウロス肉とキング鷲の肉とグレイトダンジョン水牛肉。
 
 三つともとても上品な食材だ。 

 早苗さんは料理好きだ。

 この肉を使った料理を作ってもらおうか。

 そんなことを考えながら肉を切ってゆく俺。

「祐介、今日も格好良かったよ」
「っ!」

 気配がしなかった。

 あり得ない。
 
 この俺にバレずに近づける人間などいるはずが……

 いや、

 いる。

 まさか

 俺が素早く後ろを振り向く。

 そしたら、長い金髪に鮮烈な赤い目をした高身長の美女が佇んでいた。

「うふふ……祐介を見ているとね、祐介の強さを上回る愛を注いであげたくなっちゃうわ……永遠に……ジュル」
 
 蕩け切った表情の彼女は理性を失った目をしている。

 大きすぎる胸ははだけたワイシャツによって強調されており、ひっついた紺色のズボンは、彼女の脚線美を際立たせる。

「なんでスパチャ禁止にしたの?私、もっと投げたかったのに……」

 彼女は残念そうにスマホを取り出した。
 
 あれ?
 
 待ち受け、俺の写真?
 
 俺があげたnowtube動画で俺の顔をスクショして待ち受けにしたのか。

 蘭子さんは俺の写真が写っているスマホ画面を舐め始める。

「れろれろ……」
「ななな、何をやって……」
 
 俺が相当当惑しながら問うと、彼女はにっこり笑う。

「会いにきたよ。でんこ様」
「……名無しRさん」

 敵意があるようには見えないが、行動が全然読めない。

 俺は蘭子さんから漂う雰囲気に圧倒されていた。