翌日
躑躅家の人たちと関わる度に、寂しい感情はなくなるのだが、新たな悩みも増えるわけで。
まず友梨姉と奈々は血の女王が自分の父であることは分かってない。
特に奈々は父をとても尊敬している。
早苗さんはずっとこのこと隠してきた。
理解できなくもない。
いい父として思い出の1ページに綴って欲しいんだろう。
俺と理恵は朝ごはんを食べて家に帰った。
今日は休日。
理恵は家主のお婆さんと料理を作りに言っている。
昨日は蘭子さんによって大変なことになったが、かといってそれが配信活動をやめる理由にはなり得ない。
俺はSSランクダンジョンへと向かっている。
今日も妹のために稼ぐぞ!
それに、
視聴者たちには聞きたいことがいっぱいあるからな。
と考えながら歩いていると
「ん?」
ポケットにある俺のスマホが鳴った。
誰からの電話だろう。
妹?躑躅家の美女?
と、疑問に思いつつ、スマホを取り出した。
『渡辺さん』
「おお……」
渡辺さんは日本ダンジョン協会管轄特殊部隊所属の人だ。
人望が厚い人だったな。
渡辺さんとはキングゴーレムを倒した時、いい人っぽかったから連絡先を交換した。
「もしもし」
『祐介くん。大丈夫か?』
「はい。どうしたんですか?」
『二つの理由があって君に電話をかけた』
「二つ理由?」
と、俺が聞き返したら、渡辺さんは咳払いする。
雑音が混ざっているな。
『え、えっと……でんこくん……』
聞こえたのは霧島の声だった。
俺が蹴り飛ばした荒波の彼女(多分)。
「……なんだよ」
『……ごめんなさい。悪口を言って……』
「え?」
存外。
天に届くほどのプライドの高さを見せていたあの霧島が俺に謝るなんて……
彼女は精鋭部隊だぞ。
『本当にごめん』
「何か悪いものでも食べたか?」
『っ!違う!私は至って正常よ!』
「……耳痛い」
『あんたが変なこと言うからでしょ?』
間違いなく霧島だ。
面倒臭い。
だけど謝られるとは思いもしなかった。
「謝罪したならいい。それより、お前の彼氏は大丈夫か?」
『彼氏?』
「ああ。まあ、弱めに蹴ったから大した傷はないと思うがな」
そう。
やつは無事のはずだ。
俺のキックにヒーリングをかけて、蹴り上げた瞬間にやつの腕を癒したから。
今頃、腕の方は完全に治ったのだろう。
俺の耳に聞こえたのは霧島の大きすぎる声だった。
『はあああああ!?!?何で私が荒波の彼女になってるの!?』
「っ!声うるせ……彼女じゃなかったのか?」
『当たり前じゃん!高校ん時からの知り合いで、特殊部隊の同期だから一緒に任務をする機会が多いだけだよ!』
「そうか」
俺の耳を守るため、スマホを耳からちょっと離した。
『彼氏いないっつーの!勘違いするなあ!』
「あっそ」
『そうよ』
「んで、やつは大丈夫か?」
俺に問われた霧島はげんなりして言う。
『全然大丈夫じゃないわよ。内臓破裂、肋骨骨折、脳震盪。腕は不思議と治ったけど、全治三ヶ月よ』
「マジかよ。めっちゃパワー抑えてたのに……」
『まあ、あの時にあんたがいなければ、荒波はキングアイスドラゴンに殺されたわけだし、あんたを責める気はないよ』
「……」
紛れもなく事実だ。
あの時、俺がいなければ荒波の死は確定していた。
『あの……』
「ん?」
『来週あたり時間大丈夫?』
「なんで?」
『その……一緒にご飯とかどうかなって?謝罪の意も込めて、私が奢ってやるから……』
「いやだ」
『即答かよ!』
「そう。お前と一緒にご飯なんか食べたくない」
友梨姉と奈々が怖い。
『んん……別にいいじゃん!一回だけなら』
「いや」
『私の誘いを断るなんて……こんなの初めて……』
スピーカー越し歯軋りする声が聞こえてくる。
『霧島くん、祐介くんが嫌がるだろ。出ていけ』
『ああ!ちょっと!!!追い出すな!!』
「……」
切っていいよな?
俺が深々とため息をついてしばし待つと、渡辺さんが戻ってきた。
『すまない』
「……」
『でも、あれだけプライドが高くて、人を見下してきた子が謝るなんて……これは奇跡のようなものだ。分かってくれると助かる』
「……はい」
『ふむ。ありがとう。さて、俺が電話をした一つの理由だが』
「……」
渡辺さんは急に真面目な声になった。
俺が固唾を飲んで彼の言葉を待つと、
『祐介くん』
「はい」
『高校に入る気はないか?』
「え?」
『君はSSランクの上位モンスターをも簡単に倒せるほど強いが、世間においては無能力者だ』
「……」
『矛盾しているのは知っている。だから、ちゃんと高校に入って、ダンジョン協会が定めたルールに従って、探索者になってくれ。祐介くんなら間違いなくSSランクをもらえるぞ。日本初のSSランクの探索者にな』
「……」
高校か。
答えは既に決まっている。
「高校に行くつもりはありません」
『え?なぜだ?』
「はあ……」
あまり言いたくはないが、渡辺さんは悪い人じゃないし、俺に悪意があるわけじゃないから話しておこう。
「俺は妹を養うために、中学校もろくに通えませんでした。今更高校に入学したとしても、俺は勉強もできませんし、周りとも馴染む自信もありません。何より」
『……』
「俺には守らないといけない人がいるんで。学校に通う余裕はありませんよ。だから、無能力者のままでいい」
『本当か……本当に無能力者のままでいいのか……』
「はい。俺がAランクだとしてもBランクだとしても無能力者だとしても、俺の力は変わりません」
『ダンジョン協会側は君のことを警戒している』
「しても構いません。でも、」
一旦切って、俺は息を深く吸う。
そして、冷静な口調で言い放った。
『妹と友梨姉と奈々にちょっかい出したら、相手が誰であろうと、全部潰しますよ』
「……そんな愚かな真似はしない」
『それはよかったですね』
「分かった……また連絡しよう」
電話を終えた俺は思う。
ダンジョン協会のこと、蘭子さんのこと。
俺は賢くない。
学のない人間だ。
だから、何が正しくて何が間違っているのか、ちゃんと判断することができない。
つもり、
|俺の生配信を見てくれる方々に聞けばいいんだ。《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》
躑躅家の人たちと関わる度に、寂しい感情はなくなるのだが、新たな悩みも増えるわけで。
まず友梨姉と奈々は血の女王が自分の父であることは分かってない。
特に奈々は父をとても尊敬している。
早苗さんはずっとこのこと隠してきた。
理解できなくもない。
いい父として思い出の1ページに綴って欲しいんだろう。
俺と理恵は朝ごはんを食べて家に帰った。
今日は休日。
理恵は家主のお婆さんと料理を作りに言っている。
昨日は蘭子さんによって大変なことになったが、かといってそれが配信活動をやめる理由にはなり得ない。
俺はSSランクダンジョンへと向かっている。
今日も妹のために稼ぐぞ!
それに、
視聴者たちには聞きたいことがいっぱいあるからな。
と考えながら歩いていると
「ん?」
ポケットにある俺のスマホが鳴った。
誰からの電話だろう。
妹?躑躅家の美女?
と、疑問に思いつつ、スマホを取り出した。
『渡辺さん』
「おお……」
渡辺さんは日本ダンジョン協会管轄特殊部隊所属の人だ。
人望が厚い人だったな。
渡辺さんとはキングゴーレムを倒した時、いい人っぽかったから連絡先を交換した。
「もしもし」
『祐介くん。大丈夫か?』
「はい。どうしたんですか?」
『二つの理由があって君に電話をかけた』
「二つ理由?」
と、俺が聞き返したら、渡辺さんは咳払いする。
雑音が混ざっているな。
『え、えっと……でんこくん……』
聞こえたのは霧島の声だった。
俺が蹴り飛ばした荒波の彼女(多分)。
「……なんだよ」
『……ごめんなさい。悪口を言って……』
「え?」
存外。
天に届くほどのプライドの高さを見せていたあの霧島が俺に謝るなんて……
彼女は精鋭部隊だぞ。
『本当にごめん』
「何か悪いものでも食べたか?」
『っ!違う!私は至って正常よ!』
「……耳痛い」
『あんたが変なこと言うからでしょ?』
間違いなく霧島だ。
面倒臭い。
だけど謝られるとは思いもしなかった。
「謝罪したならいい。それより、お前の彼氏は大丈夫か?」
『彼氏?』
「ああ。まあ、弱めに蹴ったから大した傷はないと思うがな」
そう。
やつは無事のはずだ。
俺のキックにヒーリングをかけて、蹴り上げた瞬間にやつの腕を癒したから。
今頃、腕の方は完全に治ったのだろう。
俺の耳に聞こえたのは霧島の大きすぎる声だった。
『はあああああ!?!?何で私が荒波の彼女になってるの!?』
「っ!声うるせ……彼女じゃなかったのか?」
『当たり前じゃん!高校ん時からの知り合いで、特殊部隊の同期だから一緒に任務をする機会が多いだけだよ!』
「そうか」
俺の耳を守るため、スマホを耳からちょっと離した。
『彼氏いないっつーの!勘違いするなあ!』
「あっそ」
『そうよ』
「んで、やつは大丈夫か?」
俺に問われた霧島はげんなりして言う。
『全然大丈夫じゃないわよ。内臓破裂、肋骨骨折、脳震盪。腕は不思議と治ったけど、全治三ヶ月よ』
「マジかよ。めっちゃパワー抑えてたのに……」
『まあ、あの時にあんたがいなければ、荒波はキングアイスドラゴンに殺されたわけだし、あんたを責める気はないよ』
「……」
紛れもなく事実だ。
あの時、俺がいなければ荒波の死は確定していた。
『あの……』
「ん?」
『来週あたり時間大丈夫?』
「なんで?」
『その……一緒にご飯とかどうかなって?謝罪の意も込めて、私が奢ってやるから……』
「いやだ」
『即答かよ!』
「そう。お前と一緒にご飯なんか食べたくない」
友梨姉と奈々が怖い。
『んん……別にいいじゃん!一回だけなら』
「いや」
『私の誘いを断るなんて……こんなの初めて……』
スピーカー越し歯軋りする声が聞こえてくる。
『霧島くん、祐介くんが嫌がるだろ。出ていけ』
『ああ!ちょっと!!!追い出すな!!』
「……」
切っていいよな?
俺が深々とため息をついてしばし待つと、渡辺さんが戻ってきた。
『すまない』
「……」
『でも、あれだけプライドが高くて、人を見下してきた子が謝るなんて……これは奇跡のようなものだ。分かってくれると助かる』
「……はい」
『ふむ。ありがとう。さて、俺が電話をした一つの理由だが』
「……」
渡辺さんは急に真面目な声になった。
俺が固唾を飲んで彼の言葉を待つと、
『祐介くん』
「はい」
『高校に入る気はないか?』
「え?」
『君はSSランクの上位モンスターをも簡単に倒せるほど強いが、世間においては無能力者だ』
「……」
『矛盾しているのは知っている。だから、ちゃんと高校に入って、ダンジョン協会が定めたルールに従って、探索者になってくれ。祐介くんなら間違いなくSSランクをもらえるぞ。日本初のSSランクの探索者にな』
「……」
高校か。
答えは既に決まっている。
「高校に行くつもりはありません」
『え?なぜだ?』
「はあ……」
あまり言いたくはないが、渡辺さんは悪い人じゃないし、俺に悪意があるわけじゃないから話しておこう。
「俺は妹を養うために、中学校もろくに通えませんでした。今更高校に入学したとしても、俺は勉強もできませんし、周りとも馴染む自信もありません。何より」
『……』
「俺には守らないといけない人がいるんで。学校に通う余裕はありませんよ。だから、無能力者のままでいい」
『本当か……本当に無能力者のままでいいのか……』
「はい。俺がAランクだとしてもBランクだとしても無能力者だとしても、俺の力は変わりません」
『ダンジョン協会側は君のことを警戒している』
「しても構いません。でも、」
一旦切って、俺は息を深く吸う。
そして、冷静な口調で言い放った。
『妹と友梨姉と奈々にちょっかい出したら、相手が誰であろうと、全部潰しますよ』
「……そんな愚かな真似はしない」
『それはよかったですね』
「分かった……また連絡しよう」
電話を終えた俺は思う。
ダンジョン協会のこと、蘭子さんのこと。
俺は賢くない。
学のない人間だ。
だから、何が正しくて何が間違っているのか、ちゃんと判断することができない。
つもり、
|俺の生配信を見てくれる方々に聞けばいいんだ。《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》