シャワーを浴びた俺は、早苗さんに案内されて彼女の死んだ夫の部屋に入った。

 それにしても、躑躅家に泊まるのは今日で2回目だ。
 
 ベッドで横になった俺は天井を見る。

「……やっぱり落ち着かねー」

 眠れるはずがないんだよな。
 
 今、部屋の外には妹を含む4人がいる。
 
 ていうか、男女比バグってないかい。

 俺はランプをつけて周りを見渡した。

 綺麗に片付いた部屋だ。
 
 10畳程度と広々としている。

「ん?」
 
 テーブルに目を見遣れば額縁が置いてある。

 ベッドから降りた俺は、テーブルの方へ歩き、その額縁に入っている写真を見る。

 4人が写っている家族写真だ。

「三人は過去の姿も綺麗だな」

 躑躅家の母娘の美貌に見惚れていたら、早苗さんの隣に立っている笑顔の男性の姿が目に入った。
 
 モデルをしていると言っても全然違和感がないほどのイケメンだ。

 金髪ととても整った目鼻立ちはまるでヨーロッパの貴族を思わせる。
  
 体も結構鍛えられて強そうな印象を抱かせる。

 それに、

 鮮烈な赤い瞳。

 まるでこの写真自体が生きているんじゃないかと勘違いするほど強烈だ。

 金髪。

 整った顔。

 赤い瞳。

 自然と浮かんでくる一人の女性の姿。

 血の女王。

「おい待てよ……俺は何を考えてんだ」

 言葉では否定しても、うちなる自分がこの男と血の女王の顔を見比べている。

 やがて、うちなる自分は一つの可能性を俺に突きつけてきた。

 2時間後、
 
 理恵と友梨姉と奈々がパジャマ姿で、この部屋に無断で入るインシデントもあったが、今は3人とも友梨姉の部屋で眠っている。

 俺あ起き上がり、リビングへ行く。

 時間は23時ほど。

 人の気配がする。

 ベランダだ。
 
 俺はベランダの方へ向かう。

 すると、

 窓越しに女性の後ろ姿が見える。

 短いパンツに、Tシャツ。

 単純な組み合わせだが、それを着ている人が早苗さんだ。

 すらっと伸びた象牙色の長い足も、メリハリのある体つきも、いい香りを放ちながら揺れる亜麻色の髪も決して色褪せることなく、躑躅早苗の美を遺憾無く魅せている。

 気がついたら俺はドアを開けていた。

 彼女はビクッとなって後ろを振り向く。

「あ、祐介……」

 俺の顔を見るなり、その大きすぎる爆乳を撫で下ろして息を吐く早苗さん。

 けれど、表情に自信のなさが滲み出ている。

 俺は早苗さんの隣へやってきた。

「何か悩みでもあるんですか?」
「え?」

 早苗さんは戸惑ったように目を丸くして俺の横顔を見つめる。

「どうして、そんなこと聞くの?」
 
 意外そうに質問する早苗さんに俺は気にする風もなく欄干に手をついて言う。

「悩み、あるんですよね?」
「……」

 また問われた早苗さんは口を半開きにしたまま俺を数秒間見つめる。

 気になってチラッと横目で見たけど、彼女は固まったままだ。

 だが、

 やがて頬を緩めて、腕をわざと当てながら俺にくっついてきた。

「さ、早苗さん……」
「わかっちゃうだ」
「……」
「やっぱり祐介にはどうしても素を見せちゃうの……私が弱っている証拠かしら」

 早苗さんは落ち込む。

 大人気の映画女優である早苗さん。

 二人を女手一つで育ててきた素晴らしいお母さん。

 だが、

 年上の子持ち以前に、彼女も一人の女性だ。

 俺も理恵を育てたからわかるんだ。

 この人は多くのことを抱えている。

 俺は早苗さんの背中に右腕を回して、俺の方へ強く寄せた。

「あっ!」

 彼女は奇声をあげて戸惑うが、やがて力を抜いて俺に体を全て委ねる。

 奈々の時もそうだが、早苗さんも無抵抗か。

 慰めのつもりで取った行動だが、彼女の従順な態度を見ると、なぜか俺の男心がくすぐられる。
 
 俺が襲ったら彼女はどんな反応をするんだろう。

 ったく、俺も男だな。

 でも、俺の男としての本能はどうでもいい。

 今大事なのは早苗さんだから。

「ちょっとは肩の力、抜いちゃってください。むしろ、これまで二人を育ててきた早苗さんがすごいとすら思ってますから」
「祐介……あなたもよ。未成年者なのに……」
「俺は男です。でも早苗さんは女性ですから……」
「……」

 早苗さんは無言のまま、俺の腹筋をさする。

 それから俺の耳に呟く。

「そんなこと言っちゃうとね、本当に危ないよ(・・・・・・・)。ふふふ……っ」
「っ!!!」

 彼女の色っぽい声音が俺の脳を痺れさせる。

 何が危ないかはわからないが、俺はいそいそ返答する。

「手伝います。言ってください」
「……そうね。祐介は私の息子だし……血は混ざってないけれど……うふふ」

 なんで喜んでんだこの人は……

「祐介になら……祐介だからこそ言わないといけなかもね」

 やっと話してくれる気になったのか。

 一体どんな悩みを抱えているのだろう。

 なんたって解決してやる。

 そう意気込んでから早苗さんを離してあげた。

 そしたら、彼女は名残惜しそうに俺の下半身と上半身に視線を送ってから、重い表情を作る。

「血の女王のことだけど」
「……」
「名前は躑躅蘭子。死んだ夫の歳の離れた妹よ」
「え、え!?」