絶対零度に近いこの青い光は、俺の体の全てを凍らせると言わんばかりの勢いだ。

 だが、

 俺の手から出る真っ白な光は、その冷気をことごとく蒸発させる。
 
「キイイイ!?」
 
 さっきまで殺気を剥き出しにしていたキングアイスドラゴンは、自分の攻撃が通じないことを知り目を丸くした。

 そして、俺の拳から発せられる凄まじい熱を感じ取り、やつは後ろに下がった。

 途中、やつの尻尾の一部が俺の拳の光によって溶けてしまう。

「キイイ……」

「な、なんだよ……あの光は……」

 遠くから霧島の声が聞こえた気がするが、俺は無視する。

 戸惑うキングアイスドラゴン。

 それもそのはず。

 やつを瞬時に蒸発させるほどの熱と光を俺は生じさせたのだ。

 どうしてそんなことが出来るのか。

 魔力融合。

 それは体内のマナを圧縮することによって得られるエネルギー。

 ただ単に圧縮するだけなら、マジックボールのようなしょぼいものになる。

 だけど、魔力を構成する根源自体を変化させるほどの強い力で圧縮すれば、爆発的なエネルギーと光が生まれる。

 一億度くらいだろうか。

 だけど、この境地に達するためには、膨大な魔力がいる。

 膨大な魔力を使い、マナ圧縮するという極めて非効率的な行為。

 俺が開発したスキルだ。

 けれど、やつはキングアイスドラゴン。

 氷属性を持つモンスターの中で頂点に君臨するモンスター。

 当然、やつは自分が頂点にして最強である認識を持っている。

 ゆえに、

「キイイイイイイ!!!!!」

 やつは冷気を口と手に含ませ、俺の方へと走ってくる。

 愚かなやつだ。

 大人しくSSランクのダンジョンへ帰ったら命は助かるものを。

 俺は拳を強くにぎり、光の手を伸ばした。

 すると、やつの拳を俺の掌がぶつかる。

「き、キイイイイ!!!」

 俺の手に触れた途端、やつの拳は溶け始める。

 今度は尻尾で俺を打とうとするが、俺は身体強化でやつの尻尾に蹴りを入れる。

「っ!!!」

 飛ばされたキングアイスドラゴン。

「……ダンジョンみたいに悠長に戦っている暇なんかない」

 そう。

 ここは人がいっぱいいるところだ。

「キイイイイイ!!!」

 だが今のキックで降参してくれると思ったが、むしろ逆効果だ。
  
 どうやらプライドに傷がついたのは荒波だけじゃないようだ。

 やつは翼を広げ、飛び上がる。

 そして、ツノにありったけの魔力を注ぎ込んだ。

「キイイイイ!!」

 そしたら、ツノは青い光を帯び、一つの光球のようなものが現れた。

「っ!あれは……」
 
 あの光の球が爆発すれば、この浅草一体に住む生き物は残らず凍死してしまう!

 キングアイスドラゴンの魔力の結晶。

 アイスデットボール(俺がつけた)

 やつの必殺技だ。

 俺は身体強化を使い、アイスデットボールへ手を伸ばす。

 Sランクとて、一瞬で凝ってしまいそうな冷気だ。
 
 だが、

「はああああああ!!」

 俺の拳に宿っている魔力融合も引けを取らない。

 青い光と白い光。

 二つの光は螺旋のように絡まり合い、空へと飛んでいき、

 爆発する。
 
「っ!防御膜」

 と、俺は素早く防御膜を二つの光に張った。

 だが、

 1mm以下の小さな青い光が抜けてしまう。

「……」

 その1mmの青い光は爆発した。

 結果、

 約半径3キロ以内に雪が降り始める。
 
 あんな点のようなものでも、こうだ。

 もし、アイスデットボールが全部爆発したらと思うとゾッとする。

「き、キイイイ……」

 力尽きたキングアイスドラゴンは凝った隅田川に墜落し、息を弾ませる。

 幸い、二つの光はなくなり、水蒸気だけが防御膜の中にあるのみだ。

 俺はやつのお腹の上に降り立つ。

「キイイイイイ!!!」

 やつは俺を睨んで、手を上げた。

 俺を殺す気だ。

 SSランクのモンスターは大体こんな感じだ。

 実にしぶとい。

 俺はそんな奴らを

 ずっと狩ってきた。

 俺は魔力融合を使い、拳を光らせる。

 そして、例のポーズを取り、深呼吸した。

ワンインチパンチ(・・・・・・・・)

 身体強化、魔力融合が合わさった俺の必殺技。

「キエエエエエエエッ!」
 
 やつは断末魔をあげる。

 そして俺が発した熱によって散って行った。

 だけど、雪はまだ降っている。

 俺は天を仰いだ。

 数えきれないほどのドローンが俺を撮影していて、特殊部隊員らが口をぽかんと開けながら俺を見つめている。

 そういえば、10人くらいいたんだよな。

 邪魔したら荒波みたいに蹴り上げようと思っていたが、静観するという賢い選択をとったことで、特殊部隊員らは無事のようだ。
 
 その瞬間、

「ふふふ、やっぱり君はすごい」
「っ!?誰だ!?」

 俺の目の前に美女が現れた。

 この俺が気付けないなんて。

 気配を消したのか。
 
 だとしたら、相当なやり手だ。

 長い金髪、引っ付いた紺色のズボン、胸のところがはだけたワイシャツ、高い身長、整った目鼻立ち、赤い瞳。

 早苗さんに匹敵するほどの美貌だ。

 彼女は穴が開くほど俺の瞳を見つめ、涎を垂らした。

「ん……君の全てが欲しいわ」