数日後
俺のやることに変わりはない。
名門校に通う理恵の面倒を見たり、バイトをやったり、配信をやったりと。
だけど、躑躅家の人たちのおかげで、俺の負担は確実に減った。
友梨姉と奈々は配信活動を前より減らした。
疲れているらしい。
なので、暇ある時は俺の家に遊びに来て理恵とともに時間を過ごしてくれる。
仲のいい3姉妹のような絵図を見るたびに頬が緩む。
そして
「おお、入った。すごい額だな」
銀行アプリで残高を見た俺は目を丸くした。
八桁。
実感が湧かない。
だけど、これは現実だ。
理恵は学校で授業中で、今の俺は特に予定はない。
頭に浮かぶのは
借金返済。
俺は早速銀行へ向かい、高砂さんの口座に借りた分の金額と利息分をの金額を足して振り込んだ。
そして手土産を買い、早速高砂コーヒーへ向かう。
「あ、祐介くん?」
中年イケメン高砂さんが俺を見て驚いた顔をする。
「あ、祐介っ!……」
高砂さんの姪である有紗姉が俺を見て挨拶をしようとするが、何かを思い出したようで、急に怯えながら高砂さんの背中に隠れた。
なんだ?
俺は手土産に買ってきたケーキをテーブルに置いて、頭を下げる。
「金を貸してくれて本当にありがとうございました!お金は利息も含めて高砂さんの口座に振り込みました!」
彼はしばし口を噤んでから口を開く。
「ふ、君は今日をもってクビだ」
「え?」
予想外の事を言われて、俺は小首を傾げる。
「もう君がここで時給1300円もらいながら働く理由はない。祐介くんはもっと色んなことができる」
「……」
冷たい口調で言われ、俺は落ち込んだ。
確かに現実的に考えたら、彼の言う通りだ。
配信で稼ぐ額とバイトで稼ぐ額には雲泥の差があるのだ。
でも、このまま彼との関係を終わらせるのは嫌だ。
俺が窮地に立たされた時に雇ってくれた恩人だ。
俺が悔しい顔をしていると、彼はサムズアップしてにっこり笑う。
「別に従業員じゃなくても、時間さえあればいくらでも来れるだろ?」
「そ、そうですね」
「なんだ。有名になったからもう俺たちとはお別れか?」
彼はニヤニヤしながら俺の脇腹を小突いた。
「違いますよ!これからもいっぱい遊びに行きますから!」
「もしよかったら、店の宣伝よろしくな。この高砂コーヒーを世界に通じる有名なコーヒー屋にしたいんだ」
「あはは、わかりましたよ」
さすが大手商社の元部長。
実に商魂逞しい。
話を終えた俺は店を出た。
そして、俺はある場所を目掛けて突き進んだ。
理恵のために物をいっぱい盗んだことのあるスーパーだ。
俺はスーパーの奥にある事務室へと行く。
「おお、祐介じゃないか」
「……西村さん」
「ははは、もう伝説の拳様って言った方がいいかね」
「祐介でいいですよ」
と、俺が笑って言うと、西村社長は俺を応接室に連れて行った。
俺はお札が入った封筒を社長に差し出した。
「ほお、これはなんだい?」
「俺が盗んだ弁当や食材の代金です。もらってください」
「……」
社長は封筒を凝視してから、俺の方に戻す。
「もらえない」
「なぜ」
「祐介くんにはやってほしい事があっての」
「やってほしい事……」
社長は老人独特の余裕のある表情をしていう。
「これから祐介くんは色んな人に出会うんじゃろ。中には礼儀正しい人もいれば、非常識な人もいる」
「はい……」
「だけどよ、みんなそれぞれバックグラウンドがあって事情があるんだ」
「……」
「だから昔の君みたいな人が現れたら、感情に任せて裁こうとせず、ちゃんと胸の内を聞いてあげる優しさと心の余裕を持ってくれ。だとしたら救われる人はきっと増えるんじゃろ」
そんな人が果たして現れるかどうかは疑問だが、社長の言葉には反論を許さないオーラがあるように思える。
「わかりました……」
俺の返事に満足した社長は、慈しみの目を向ける。
「いくら時間が経っても、君が物を盗んだ事実はなくならない。だけど、今の君なら堂々と胸を張って振る舞っていいんじゃい」
「……」
感情が込み上げてきた。
おかげで心が軽くなった気がする。
これでいよいよ長年俺を悩ませてきた悩みの種を潰した気がする。
果たして、俺は昔の自分のような人間が現れたとしても今の西村社長のように振る舞えるのだろうか。
そう自分に質問を投げかけてみる。
俺はスーパーを後にした。
余韻に浸かるようにため息をつきながら道を歩く俺。
今日は躑躅家で焼肉パーティーがある。
「買い物しないといけないし、西村社長のスーパーで久しぶりに買い物でもすっか」
と言って俺は踵を返した。
そしたらうるさい音と共にスマホが鳴る。
「この音は防災速報!?」
俺は早速スマホ画面を確認する。
『(緊急速報)現在がキングアイスドラゴンが浅草駅周辺で暴れています。至急避難してください』
またSSランクのモンスターか!?
しかも浅草?
「早く行かねば」
またあのテロ組織による犯行か
俺のやることに変わりはない。
名門校に通う理恵の面倒を見たり、バイトをやったり、配信をやったりと。
だけど、躑躅家の人たちのおかげで、俺の負担は確実に減った。
友梨姉と奈々は配信活動を前より減らした。
疲れているらしい。
なので、暇ある時は俺の家に遊びに来て理恵とともに時間を過ごしてくれる。
仲のいい3姉妹のような絵図を見るたびに頬が緩む。
そして
「おお、入った。すごい額だな」
銀行アプリで残高を見た俺は目を丸くした。
八桁。
実感が湧かない。
だけど、これは現実だ。
理恵は学校で授業中で、今の俺は特に予定はない。
頭に浮かぶのは
借金返済。
俺は早速銀行へ向かい、高砂さんの口座に借りた分の金額と利息分をの金額を足して振り込んだ。
そして手土産を買い、早速高砂コーヒーへ向かう。
「あ、祐介くん?」
中年イケメン高砂さんが俺を見て驚いた顔をする。
「あ、祐介っ!……」
高砂さんの姪である有紗姉が俺を見て挨拶をしようとするが、何かを思い出したようで、急に怯えながら高砂さんの背中に隠れた。
なんだ?
俺は手土産に買ってきたケーキをテーブルに置いて、頭を下げる。
「金を貸してくれて本当にありがとうございました!お金は利息も含めて高砂さんの口座に振り込みました!」
彼はしばし口を噤んでから口を開く。
「ふ、君は今日をもってクビだ」
「え?」
予想外の事を言われて、俺は小首を傾げる。
「もう君がここで時給1300円もらいながら働く理由はない。祐介くんはもっと色んなことができる」
「……」
冷たい口調で言われ、俺は落ち込んだ。
確かに現実的に考えたら、彼の言う通りだ。
配信で稼ぐ額とバイトで稼ぐ額には雲泥の差があるのだ。
でも、このまま彼との関係を終わらせるのは嫌だ。
俺が窮地に立たされた時に雇ってくれた恩人だ。
俺が悔しい顔をしていると、彼はサムズアップしてにっこり笑う。
「別に従業員じゃなくても、時間さえあればいくらでも来れるだろ?」
「そ、そうですね」
「なんだ。有名になったからもう俺たちとはお別れか?」
彼はニヤニヤしながら俺の脇腹を小突いた。
「違いますよ!これからもいっぱい遊びに行きますから!」
「もしよかったら、店の宣伝よろしくな。この高砂コーヒーを世界に通じる有名なコーヒー屋にしたいんだ」
「あはは、わかりましたよ」
さすが大手商社の元部長。
実に商魂逞しい。
話を終えた俺は店を出た。
そして、俺はある場所を目掛けて突き進んだ。
理恵のために物をいっぱい盗んだことのあるスーパーだ。
俺はスーパーの奥にある事務室へと行く。
「おお、祐介じゃないか」
「……西村さん」
「ははは、もう伝説の拳様って言った方がいいかね」
「祐介でいいですよ」
と、俺が笑って言うと、西村社長は俺を応接室に連れて行った。
俺はお札が入った封筒を社長に差し出した。
「ほお、これはなんだい?」
「俺が盗んだ弁当や食材の代金です。もらってください」
「……」
社長は封筒を凝視してから、俺の方に戻す。
「もらえない」
「なぜ」
「祐介くんにはやってほしい事があっての」
「やってほしい事……」
社長は老人独特の余裕のある表情をしていう。
「これから祐介くんは色んな人に出会うんじゃろ。中には礼儀正しい人もいれば、非常識な人もいる」
「はい……」
「だけどよ、みんなそれぞれバックグラウンドがあって事情があるんだ」
「……」
「だから昔の君みたいな人が現れたら、感情に任せて裁こうとせず、ちゃんと胸の内を聞いてあげる優しさと心の余裕を持ってくれ。だとしたら救われる人はきっと増えるんじゃろ」
そんな人が果たして現れるかどうかは疑問だが、社長の言葉には反論を許さないオーラがあるように思える。
「わかりました……」
俺の返事に満足した社長は、慈しみの目を向ける。
「いくら時間が経っても、君が物を盗んだ事実はなくならない。だけど、今の君なら堂々と胸を張って振る舞っていいんじゃい」
「……」
感情が込み上げてきた。
おかげで心が軽くなった気がする。
これでいよいよ長年俺を悩ませてきた悩みの種を潰した気がする。
果たして、俺は昔の自分のような人間が現れたとしても今の西村社長のように振る舞えるのだろうか。
そう自分に質問を投げかけてみる。
俺はスーパーを後にした。
余韻に浸かるようにため息をつきながら道を歩く俺。
今日は躑躅家で焼肉パーティーがある。
「買い物しないといけないし、西村社長のスーパーで久しぶりに買い物でもすっか」
と言って俺は踵を返した。
そしたらうるさい音と共にスマホが鳴る。
「この音は防災速報!?」
俺は早速スマホ画面を確認する。
『(緊急速報)現在がキングアイスドラゴンが浅草駅周辺で暴れています。至急避難してください』
またSSランクのモンスターか!?
しかも浅草?
「早く行かねば」
またあのテロ組織による犯行か