「身体強化……」

 と誰も聞こえないように唱えると、俺の体は一瞬赤く光りだす。

 身体強化。
 
 魔力を筋肉に注ぎ込んで圧倒的力を発揮できるようにするスキルだ。

 筋肉の細かいところまで魔力を注入しないといけないから、コントロールに相当気を使わないといけない。
 
 凄まじい身体能力を手に入れる代わりに筋肉に相当負担をかけてしまうため、同時にヒールも使わないといけない難しい複合スキルである。
 
 俺は地面を蹴り上げて二人の少女を襲っている男二人を蹴り上げた。
 
「ウッ!」
「オッ!」

 奇声をあげて勢いよく飛ばされる二人の男は岩にぶつかってしまう。

 俺にお腹を蹴られたデブのカメラマンはお腹を抑えて激痛に苛まれいて、頭を蹴られた爽やかイケメンは気絶している。

「……」
「……」

 横になった二人は目を丸くして俺を見上げている。

 姉と思しき少女は、肩まで届く亜麻色の髪が乱れていることにも気づかに、鮮烈な青い瞳で俺を捉え続ける。
 
 並の映画女優なんかと比べ物にならないほどの整った目鼻立ちからは、人を寄せ付けない孤高なオーラを漂わせている。
 
 だが、上着を脱がされたため、真っ白な肌は見える。

 そして実に巨大な胸を青いブラが包んでおり、谷間がこれ見よがしに自分の存在を主張している。

 俺は姉から視線を外して、今度は妹の方を見る。

 頸まで届く柔らかい亜麻色の髪が微かに揺れ、赤色の瞳からは強烈な視線が放たれていた。

 顔自体は非常に整っているが姉と比べて多少幼げだ。
 
 だが、体の方は姉に負けずとも劣らない。

 象牙色の艶のある肌と凶暴な胸を包む赤色のブラ。

 とても綺麗な姉妹だ。

 俺の妹も相当可愛い方だと自負するが、この二人の美しさはまるで次元が違う。

 いかん。

 今は緊急事態だ。

 二人を助けにきたのに、二人の美貌に見惚れてしまっては本末転倒だ。

 二人は血を流しているんだ。

 早く治療をしないと。

 だが、その前にミノタウロスの方を先に倒さないといけない。

 俺は唇を強く噛み締めてから言う。

「ちょっと待ってください……」

「「……」」

 横になっている美人姉妹二人は震えながらも顔を俯かせる。

「ムオオオオオオ!!!!!」

 そんな俺たちを待ってましたと言わんばかりに、攻撃を仕掛けてくるミノタウロス。

 ミノタウロスは拳で金髪男が貼ったと思われる防御膜を拳で打つ。

 やがて防御幕にヒビが入り、完全に破壊されてしまう。

 ミノタウロスを数十秒間足止めできる防御幕を貼ったんだ。

 きっと、俺に頭を蹴られた金髪爽やか男も相当なやり手なのだろう。

 そんなことを思いながら、俺は走ってくるミノタウロスの前に立つ。

「モオオオオオ!!!!」

 ミノタウロスは自分の拳にありったけの魔力を込めて、俺に攻撃を仕掛けてきた。

 魔力によって赤く光るミノタウロスのパンチ。

 俺は手を開いてミノタウロスのパンチを素手で受け止めた。

「っ!?」

 ミノタウロスが目を丸くして俺を見つめてくる。

 それと同時に、衝撃波がこのSSランクのダンジョンを駆け巡り、砂埃が漂い始める。

「あまり時間ないからさ。今からでも遅くない。早く去れ」

 無意味な殺傷はしたくない。

 その意味も込めてミノタウロスにお願いしたのだが、

 やつは俺を見下した表情をして口角を吊り上げた。

「ムオオオオオオ!!!」

 と叫んでから今度はキックで俺に攻撃を仕掛ける。

 筋肉まみれのミノタウロスの足。

 きっと一発食らっただけでSランクの探索者も即死だろう。

 だが、身体強化を使っている俺からしてみれば、ミノタウロスの動きはナマケモノレベルにすぎない。
 
「ひょっと……」

 俺は小さくジャンプをして、ミノタウロスのキックを避けることに成功する。

 ついでに俺はジャンプを利用し、20メートルほどのミノタウロスのお腹の方へ近づく。

「むっ!?」

 突然近寄られたことで戸惑うミノタウロス。

 俺は右手だけを使い、前へならえの時のように伸ばした。
 
 そして、

「ふう……」

 呼吸を整える。

 それから

 右腕と手に魔力と力を込めて

 小さく唱えた。

ワンインチパンチ(・・・・・・・・)……」


パアアアアア!!



「ブエエ!!!」

 俺のワンインチパンチを食らったミノタウロスはお腹は急激に凹み、断末魔を上げながら凄まじいスピードで飛ばされてしまう。

 洞窟の壁に突き刺さるようにぶつかるミノタウロスは白い目を向いている。
 
 ワンインチパンチ。

 至近距離で圧倒的ダメージを与えられる技術。

 小卒の俺は専門機関でスキルを学ぶことはできない。

 だから、映画やネット資料などを参考に自分で工夫して作り上げたスキルだ。

 ミノタウロスを倒した俺は美人姉妹二人の方へ近づいた。

「……」
「……」

 二人は目をパチパチさせながら俺を穴が開くほど見つめている。

 にしても二人ともひどい傷だ。

 姉の方は脇の方から血が出ており、妹の方は太ももの内側から血が流れている。 

 具合は姉の方がやばそうだ。

 時間がない。

 俺は迷いなく二人を抱き抱える。

「「っ!!!!」」

「魔力ブースト……」

 魔力ブースト。
 
 魔力を一気に燃焼させて、推進力を得る俺が作り上げたスキル。
 
 足裏に魔力ブーストをかけると、戦闘機のように飛ぶことも可能だ。

 二人を抱えて飛ぶ俺。

 お腹を抑えているため、二人の柔らかすぎる柔肉が俺の腕を食い込むように動く。

 特に、二人の巨大な胸が時折俺の腕に触れるたびに、名状し難い感覚が伝えられる。

 だけど、大きさは違えど妹ので慣れているんだ。

 動揺してはならない。

 やっと、入り口付近に到着した。

 ここならばモンスターの邪魔は入るまい。

 俺は二人を早速下ろした。

 二人は持ってきた自分達の上着をぎゅっと握りしめて俺をまた見つめている。
 
 俺はしゃがみ込んで姉の脇腹を右手で触り唱える。

「パワーヒール……」

「っ!!」
 
 姉の方は俺の手が触れた瞬間、黄金色の光りが現れた。

 それと同時に姉は体をひくつかせた。
 
 いくら助けているとはいえ、見ず知らずの男の手だ。

 きっと不愉快なのだろう。

「すみません。もうすぐ終わりますのでちょっとだけ我慢してください」
「……いいえ。ありがとうございます」
 
 俺は姉の方である友梨さんからの返事を聞いて安堵のため息をついた。

 俺のヒールによって友梨さんの脇腹にある傷口はなくなって綺麗になった。
 
 血さえ拭けば大丈夫そうだ。

 俺は早速立ち上がり、妹である奈々さんの方へ行き、右手で彼女の太もも内側を触る。

「っっ!!!」

 すると、今度は姉以上に体がびくんとなってしまった。

「だ、大丈夫ですか!?」
「ひゃ、ひゃい!だだ、大丈夫なので、そのままお願いします……」

 甲高い声で俺に言う奈々さん。

「わかりました。パワーヒール」
 
 と返事をして、俺は彼女の太ももの内側にヒールをかける。

「とても強力なヒールですね……こんなの初めて……」

 妹は感心したようにぼーっと俺の手を見つめてきた。

 ヒールを終えた俺。

 すると、ある事実に気がついた。

「あ、スマホ」

 俺は立ち上がって、浮遊スキルで浮かせているスマホを手に取った。

 ロックがかかっている(・・・・・・・・・・)スマホを俺はポケットの中に入れる。

 そして、まだ横になっている二人に向かって言う。

「治療は終わりました。ついでにパワーヒールをかけたので、動けると思います」

 そう。

 普通のヒールなら傷だけ治すはずだが、パワーヒールなら滋養強壮の効果もあるのだ。

 俺の言葉を聞いた二人は、立ち上がる。

 にしても、本当に綺麗な姉妹だ。

 ちょっとみるだけでも、なぜか吸い込まれてしまいそう。

 下心がある男なら、きっと例外なくさっきの状況下ではあの二人と同じ選択をするのだろう。

 服を着ている二人。

 やっと一段落したか。

 そう思っていると、俺の頭に妹の顔が浮かんできた。

「あ、そういえば……」

 俺は目を丸くして、呟いた。

 すると、二人が俺を見て何かを呟く。

「あの……」
「ありがと……」

 だが、俺は彼女らをスルーして口を開いた。

「すみません!俺、急用があるので!お先に失礼します!警察に通報してから早く家に帰って安静にしてくださいね!」

 俺は踵を返して歩き始める。

「え?!」
「ちょ、ちょっと!」

 二人は目を丸くして、焦っているような面持ちだが、俺の方がもっと焦っている。

 もうすぐ妹が帰ってくるんだ。

 早くご飯作らないと。

 妹は食いしん坊だ。

 でも、その前に……

 俺は後ろに振り向いて美人姉妹の顔を見て言う。

「無事でよかったです!」


「「っ!!!!」」


 俺は踵を再び返して家へと向かった。


X X X

姉妹side

「……」
「……」

 ダンジョンの入り口で立ち尽くす二人。
 
 姉の友梨は治療してもらった左脇腹にそっと自分の右手を添える。
 
 すでにピンク色に染まった頬を隠すことも忘れて、自分の爆の付く右胸を自分の左手で鷲掴みにした。

 そして青色の瞳を光らせ、

「はあ……やっと見つけたわ(・・・・・・・・)

 妹の奈々は癒してもらった自分の太ももの内側(・・・・・・)を摩り始める。

 だんだん気分が高まる奈々。

 彼女は色っぽく息を吐いて、赤色の瞳を潤ませた。

「お父様……あのお方なら……っ!」

 二人の興奮は時間が経っても収まるどころかより強くなってゆく。

 二人のお腹(・・)からは電気が走り、やがて凶暴な胸(・・・・)を経て頭の上にまで駆け上る。

 まるで何かに取り憑かれたような表情をした二人はスマホを取り出していじり(・・・)始めた。