「ぐ、偶然ですね」
「はい。とても偶然です。まるで天の導きのように」
早苗さんは頬を緩めて俺を優しく見守るように見つめる。
「お時間大丈夫ですか?よろしければ一緒にお茶でも」
時間か。
レッドドラゴンを燃やし尽くしたせいでお肉の確保はできなかったが、50万円が手に入った。
よって、デパートなどで美味しいものを買って帰ったら料理をする手間が省ける。
それにまだ午後4時くらいだ。
断る理由はないだろう。
「はい……少しなら」
と言ったら、早苗さんは俺の瞳をじっと見つめたのち、また微笑む。
まるで今の間で俺の考えが全て読み込まれたかのような感じがした。
敵意はないけど、油断してはならない相手であるに違いない。
俺は早苗さんの高級車に乗せられてホテルっぽい建物にある高級バーにきた。
こんなおしゃれなところに入ったことは初めてで、緊張する。
そんな俺を見て早苗さんはおっとりとした雰囲気を漂わせながら口を開く。
「緊張しなくていいですよ。ごめんなさいね。若者はカフェとか、そういったところを好むわよね?」
「いいえ!むしろこっちこそすみません!きょどりすぎて……」
「ううん。気にする事はないわ。ただ、普通のカフェだと、どうしてもファンに見つかってしまって」
「ファン?」
俺が小首を傾げていると、早苗さんがまた俺の目をじっと見つめてきた。
「うふふ、映画には興味ないですか?」
「映画ですね……すみません。そういうのに疎い……あ、まさか」
彼女の顔を見て俺はnowtubeの広告を思い出した。
確か、大河ドラマっぽい映画で主演をやっている女優と酷似している。
そこで着物を着ていたんだよな。
すごく綺麗だった。
確か名前は桐枝早苗。
「桐枝早苗……」
「ふふ、仕事の時は旧姓を名乗っていますけど、家族と一緒にいるときは躑躅早苗です。紛らわしいので、早苗って呼んでください。私もゆうくんって呼びますから」
「……」
初対面なのに、名前で呼び合うように持って行くなんて、さすが女優だ。
「……早苗さん」
「さんはいらないと思いますけど」
「え?」
「冗談ですよ」
「あはは」
完全に主導権を握られてしまった。
でも、仕方ない。
相手は俺より遥かに年上で女優だ。
一体彼女はなぜ俺をお茶に誘ったんだろう。
と疑問に思っていると、早苗さんは俺の思考を読んだように言葉を発する。
「いつか、ゆうくんと話がしたいと思ってました。一体何が友梨と奈々をあんなにさせてしまったのか」
「え?」
「ふふ、なんでもありませんわ。それより、私、あなたに伝いたいことをあります」
「なんでしょうか」
俺がコーヒーを一口飲んでから視線で続きを促すと、早苗さんは自分の両手を絡ませて、とても潤ったエメラルド瞳で俺を捉える。
「こういうことをいうの、差し出がましいとは思いますけど……」
「……」
一体何を言おうとしているんだろう。
きっと緻密に計算し尽くされた言葉なのだろう。
そう思っていたら、早苗さんはまるで愛くるしい子供を見守る親のように微笑みながらいう。
「きっとお亡くなりになったご両親は天国であなたを誇らしく思っているに違いありませんわ」
「っ!!!!」
心臓が飛び出るかと思った。
この人は一体何を……
「ゆうくんの生い立ちからすると、悪い道に進むこともできたはずなのに、ご両親と交わした約束を守るためにまっすぐ頑張るその純粋な心……私、あのライブを見て、とても心が熱くなりました」
「……」
悪い道。
それは探索者の中で、反社会的思想を持つものが集まるテロ集団を指すことだろう。
「だから心配です。いずれ、ゆうくんと理恵ちゃんに悪いことを企む大人たちが現れるはずだから……」
「……今までそんな人はいませんでしたけど」
「今まではそうでしたけど、ゆうくんの凄さを全ての日本人が知ってしまったから、昔とは大違いです」
「……そんなもんですか?」
「はい。お二人はとても危険な状態にあります……私たちもですけど……」
「ん?」
最後の言葉は聞き取れなかったけど、俺と理恵は今危ないってことなのだろうか。
俺が考えを巡らせていたら、早苗さんの顔色が急に悪くなった。
俺は心配になったので問うてみる。
「大丈夫ですか?」
「はい……そこでですね」
早苗さんは一旦切って、スマホを取り出し、俺に差し出した。
「連絡先を交換しましょう。もし、ゆうくんに困ることがあれば、いつでもお助けしますので」
「い、いや……俺なんかのために……」
「ううん。ゆうくんだからこそ、助けるんですよ」
「……」
早苗さんの優しい微笑みに、俺は逆らうことができなかった。
連絡交換を済ませた俺たち。
「これからも、私の娘たちをよろしくお願いします。友梨と奈々はとっても楽しみにしてますよ。ゆうくんともっと仲良しになることを」
「早苗さんの娘さんたちは、とても綺麗で、人気もあるから別に俺なんかと……」
そう。
奈々はチャンネル登録者数500万超えの大人気インフルエンサーで、友梨さんは1000万越えだ。
彼女らはきっと俺が知らないような世界や人たちをたくさん知っているだろう。
俺が目を逸らしていうと、早苗さんは俺の手を自分の両手でぎゅっと握り込んでくれた。
「そんなことありませんよ」
「……」
「さがくんのような人ばかりで……」
「っ」
「友梨と奈々、ゆうくんに守られてとても喜んでいます。主人が亡くなってから二人とも、いつも不安がっていたんですもの……でも、あの日の二人はまるで、主人のそばにいた時のような様子でした。まあ、一つ違うところもあるんですが」
「……」
友梨さんと奈々の父は死んでしまったのか。
俺は二人をとても恵まれた人たちだなと思っていたが、悲しみを抱えて生きていたんだ。
つまり、
俺と理恵と一緒だ。
柄にもなくそんなことを思っていると、早苗さんがまた言葉を発する。
「友梨と奈々は近くにいます。連絡先も教えますので、一緒に遊んであげてください。時間さえあればあの二人は間違いなくゆうくんの誘いに乗ってくれます」
「本当に……いいですか?」
「ふふ、」
俺が確かめるように問うと、彼女は妖艶な笑みを浮かべて周りを見回す。
そして、俺の手をぎゅっと握っている自分の両手に力を入れて、俺の手をはちきれんばかりの早苗さんの豊満な胸に持って行った。
「っ!!!!!」
まるでマシュマロを連想させるほどの極上の柔らかさに俺は上半身がびくんと震える。
これはやばい。
柔らかすぎる。
飲み込まれる……
布ごしとは言えど、これは……
「はい!私は友梨と奈々の母ですよ。他に誰の許可がいるんですか?」
「……すすすす、すみません。俺、夕食買わないといけないんで……妹が待っています」
「ふふふ、そうね。妹は大事だから。理恵ちゃんは甘いものが好きだったりしますか?」
「……妹はなんでも食べます」
「だったら、美味しいデザートのクーポンをアインアプリで送ります。一緒に食べてください」
「……またお会いしましょう」
「はい。また連絡しますから」
俺は早苗さんの胸から手を離し、お辞儀してからこの高級バーを後にした。
X X X
早苗side
祐介が去って数分が経った。
早苗は自分のコーヒーが入っているコップを触りながら余韻に浸かる。
「うふふ……主人と初めて出会った時を思い出すわ……」
と言って、早苗は祐介が口をつけたコップに視線を向ける。
そのコップを見た早苗は舌を出して自分の唇を舐め始めた。
「レロレロ……はあ……この私が素を見せるなんて……」
早苗は蕩けるような表情で自分のコーヒーを祐介のコーヒーコップの注いだ。
「まだ、ちゃんとしたお礼もしてないのに」
「はい。とても偶然です。まるで天の導きのように」
早苗さんは頬を緩めて俺を優しく見守るように見つめる。
「お時間大丈夫ですか?よろしければ一緒にお茶でも」
時間か。
レッドドラゴンを燃やし尽くしたせいでお肉の確保はできなかったが、50万円が手に入った。
よって、デパートなどで美味しいものを買って帰ったら料理をする手間が省ける。
それにまだ午後4時くらいだ。
断る理由はないだろう。
「はい……少しなら」
と言ったら、早苗さんは俺の瞳をじっと見つめたのち、また微笑む。
まるで今の間で俺の考えが全て読み込まれたかのような感じがした。
敵意はないけど、油断してはならない相手であるに違いない。
俺は早苗さんの高級車に乗せられてホテルっぽい建物にある高級バーにきた。
こんなおしゃれなところに入ったことは初めてで、緊張する。
そんな俺を見て早苗さんはおっとりとした雰囲気を漂わせながら口を開く。
「緊張しなくていいですよ。ごめんなさいね。若者はカフェとか、そういったところを好むわよね?」
「いいえ!むしろこっちこそすみません!きょどりすぎて……」
「ううん。気にする事はないわ。ただ、普通のカフェだと、どうしてもファンに見つかってしまって」
「ファン?」
俺が小首を傾げていると、早苗さんがまた俺の目をじっと見つめてきた。
「うふふ、映画には興味ないですか?」
「映画ですね……すみません。そういうのに疎い……あ、まさか」
彼女の顔を見て俺はnowtubeの広告を思い出した。
確か、大河ドラマっぽい映画で主演をやっている女優と酷似している。
そこで着物を着ていたんだよな。
すごく綺麗だった。
確か名前は桐枝早苗。
「桐枝早苗……」
「ふふ、仕事の時は旧姓を名乗っていますけど、家族と一緒にいるときは躑躅早苗です。紛らわしいので、早苗って呼んでください。私もゆうくんって呼びますから」
「……」
初対面なのに、名前で呼び合うように持って行くなんて、さすが女優だ。
「……早苗さん」
「さんはいらないと思いますけど」
「え?」
「冗談ですよ」
「あはは」
完全に主導権を握られてしまった。
でも、仕方ない。
相手は俺より遥かに年上で女優だ。
一体彼女はなぜ俺をお茶に誘ったんだろう。
と疑問に思っていると、早苗さんは俺の思考を読んだように言葉を発する。
「いつか、ゆうくんと話がしたいと思ってました。一体何が友梨と奈々をあんなにさせてしまったのか」
「え?」
「ふふ、なんでもありませんわ。それより、私、あなたに伝いたいことをあります」
「なんでしょうか」
俺がコーヒーを一口飲んでから視線で続きを促すと、早苗さんは自分の両手を絡ませて、とても潤ったエメラルド瞳で俺を捉える。
「こういうことをいうの、差し出がましいとは思いますけど……」
「……」
一体何を言おうとしているんだろう。
きっと緻密に計算し尽くされた言葉なのだろう。
そう思っていたら、早苗さんはまるで愛くるしい子供を見守る親のように微笑みながらいう。
「きっとお亡くなりになったご両親は天国であなたを誇らしく思っているに違いありませんわ」
「っ!!!!」
心臓が飛び出るかと思った。
この人は一体何を……
「ゆうくんの生い立ちからすると、悪い道に進むこともできたはずなのに、ご両親と交わした約束を守るためにまっすぐ頑張るその純粋な心……私、あのライブを見て、とても心が熱くなりました」
「……」
悪い道。
それは探索者の中で、反社会的思想を持つものが集まるテロ集団を指すことだろう。
「だから心配です。いずれ、ゆうくんと理恵ちゃんに悪いことを企む大人たちが現れるはずだから……」
「……今までそんな人はいませんでしたけど」
「今まではそうでしたけど、ゆうくんの凄さを全ての日本人が知ってしまったから、昔とは大違いです」
「……そんなもんですか?」
「はい。お二人はとても危険な状態にあります……私たちもですけど……」
「ん?」
最後の言葉は聞き取れなかったけど、俺と理恵は今危ないってことなのだろうか。
俺が考えを巡らせていたら、早苗さんの顔色が急に悪くなった。
俺は心配になったので問うてみる。
「大丈夫ですか?」
「はい……そこでですね」
早苗さんは一旦切って、スマホを取り出し、俺に差し出した。
「連絡先を交換しましょう。もし、ゆうくんに困ることがあれば、いつでもお助けしますので」
「い、いや……俺なんかのために……」
「ううん。ゆうくんだからこそ、助けるんですよ」
「……」
早苗さんの優しい微笑みに、俺は逆らうことができなかった。
連絡交換を済ませた俺たち。
「これからも、私の娘たちをよろしくお願いします。友梨と奈々はとっても楽しみにしてますよ。ゆうくんともっと仲良しになることを」
「早苗さんの娘さんたちは、とても綺麗で、人気もあるから別に俺なんかと……」
そう。
奈々はチャンネル登録者数500万超えの大人気インフルエンサーで、友梨さんは1000万越えだ。
彼女らはきっと俺が知らないような世界や人たちをたくさん知っているだろう。
俺が目を逸らしていうと、早苗さんは俺の手を自分の両手でぎゅっと握り込んでくれた。
「そんなことありませんよ」
「……」
「さがくんのような人ばかりで……」
「っ」
「友梨と奈々、ゆうくんに守られてとても喜んでいます。主人が亡くなってから二人とも、いつも不安がっていたんですもの……でも、あの日の二人はまるで、主人のそばにいた時のような様子でした。まあ、一つ違うところもあるんですが」
「……」
友梨さんと奈々の父は死んでしまったのか。
俺は二人をとても恵まれた人たちだなと思っていたが、悲しみを抱えて生きていたんだ。
つまり、
俺と理恵と一緒だ。
柄にもなくそんなことを思っていると、早苗さんがまた言葉を発する。
「友梨と奈々は近くにいます。連絡先も教えますので、一緒に遊んであげてください。時間さえあればあの二人は間違いなくゆうくんの誘いに乗ってくれます」
「本当に……いいですか?」
「ふふ、」
俺が確かめるように問うと、彼女は妖艶な笑みを浮かべて周りを見回す。
そして、俺の手をぎゅっと握っている自分の両手に力を入れて、俺の手をはちきれんばかりの早苗さんの豊満な胸に持って行った。
「っ!!!!!」
まるでマシュマロを連想させるほどの極上の柔らかさに俺は上半身がびくんと震える。
これはやばい。
柔らかすぎる。
飲み込まれる……
布ごしとは言えど、これは……
「はい!私は友梨と奈々の母ですよ。他に誰の許可がいるんですか?」
「……すすすす、すみません。俺、夕食買わないといけないんで……妹が待っています」
「ふふふ、そうね。妹は大事だから。理恵ちゃんは甘いものが好きだったりしますか?」
「……妹はなんでも食べます」
「だったら、美味しいデザートのクーポンをアインアプリで送ります。一緒に食べてください」
「……またお会いしましょう」
「はい。また連絡しますから」
俺は早苗さんの胸から手を離し、お辞儀してからこの高級バーを後にした。
X X X
早苗side
祐介が去って数分が経った。
早苗は自分のコーヒーが入っているコップを触りながら余韻に浸かる。
「うふふ……主人と初めて出会った時を思い出すわ……」
と言って、早苗は祐介が口をつけたコップに視線を向ける。
そのコップを見た早苗は舌を出して自分の唇を舐め始めた。
「レロレロ……はあ……この私が素を見せるなんて……」
早苗は蕩けるような表情で自分のコーヒーを祐介のコーヒーコップの注いだ。
「まだ、ちゃんとしたお礼もしてないのに」