ワインは好きだけど、すぐに酔ってしまうからぐいぐいはいけない。

「そうか?
出世が早いとそこで頭打ち、なんてことはよくあるからなー。
それにこの明太ディップをこれから気軽に食べられなくなるんだと思うと、あまり嬉しくない」

ちょうど届いた明太ディップに、付いている大根をくぐらせて彼はガリッと囓った。

元長(がんなが)のラーメンももう食べられないだろー、御茂千屋(おもちや)のもつ鍋も。
それにこっちは魚が旨いからなー」

この食べ物への執着は、さすが向坂さんだ。

「でも一番は、あっちには由比がいないからなー」

「……はい?」

つい、まじまじと顔を見てしまう。
向坂さんはぐいっとグラスのワインを飲み干し、瓶から手酌で注いだ。

「由比がいないとものが見つけられないからな。
由比は俺以上にものの場所を把握してくれていたから」

「はぁ……」

わかっていたことなのに、残念な気持ちでいっぱいになった。
向坂さんが特別私を可愛がってくれたのは、自分が教育係だったのと、すぐにものを見つけてくれるからだ。

「だから向こうではちゃんと、整理整頓を心がけたらいいんですよ」