耳を塞ぎたい衝動をどうにか抑えていた、が。

「この仕事、向いてると思うぞ」

「……は?」

私の口からいかにも間抜けな音が出る。
向いていないのは誰よりも私がよくわかっていた。
それを、向いているなんてこの人はいったい、なにを言っているんだろう。

「教育係の俺が言うんだから間違いないの。
だから信じて頑張んなさい?」

「は、はぁ……」

やっぱり、なにを言っているのかまったくわからない。
けれど私を見つめる、レンズの奥の瞳は優しくて、嘘を言っているようには見えなかった。

「あ、そのチョコ、由比がリラックスできるように魔法をかけといたから、食べるのお勧め」

「えっと……」

手の中のチョコを見つめる。
それはどこにでもあるなんの変哲もない、普通のチョコだった。

「それ食ったら続きやるよー。
俺ちょっと、トイレ行ってくるから、そのあいだに食っちゃいなさい」

「は……い」

ひらひらと手を振りながら向坂さんは去っていく。
食べない理由もないので包装紙を剥いてぽいっとチョコを口に放り込んだ。

「……甘い」