配属三日で弱音が出た。
いや、研修中にもうすでに、無理だと感じていた。

「ゆーい」

呼ばれて顔を上げる。
向坂さんが机の上にあごをのせ、しゃがみ込んで私を見ていた。

「疲れたか?
まだ三日目だもんな」

私と視線をあわせ、にぱっと笑って彼が立ち上がる。
私が辞めたい理由がここにもある。
教育係の彼が――無駄に格好いいのだ。

「あの、えっと」

「ん?」

眼鏡越しに目をあわせた、彼の首が僅かに傾く。
いままでひっそりと生きてきた私にとってこんなキラキラ大会社ってだけでも疲れるのに、さらに上司で教育係の顔面偏差値が高いなんて、HPを削られまくるに決まっている。

「疲れたときは糖分補給。
おじさんがいいものをあげよう」

ごそごそとスーツのポケットをあちこち探ったかと思ったら、手品のように目の前へ一口チョコが差し出された。

「これ食って元気出せ」

「はぁ……」

どうしていいかわからずに手の中でもらったチョコを弄ぶ。

「由比はさー」

机に手をついて私を見下ろす彼の口から出た言葉に、つい手がピクッと反応する。

もしかして説教?
もう辞めるからそんなに追い打ちかけないで。