最終日の今日、空いた時間を見つけては片付けを手伝っているが、みんながなくしたと思っていたものが次々と出てきて、あれはあながち嘘ではなかったらしい。
そして終業時間がきてみんなが帰ってふたりっきりになっても、終わっていないというわけだ。
「次のセンターでも同じ状態にしたら、いくら次席でも怒られますよ」
「そうだよなー。
わかってるんだけどな」
はぁっと再び、向坂さんの口からため息が落ちる。
転勤先で彼はいまよりひとつ上の役職に昇進するのが決まっていた。
二十代で次席、かなりのエリートだ。
「だいたい、いままでどうしてたんですか?
……結婚、する前とか」
自分で口にしておきながら一瞬、胸の奥でちくりと痛みを感じたけれど気づかないフリをする。
「あー……。
大学で親元離れたときから亜澄が一緒だからなー。
完全ひとり暮らしの経験はないんだ、俺は」
ははっ、と向坂さんは自嘲気味な笑いを漏らした。
〝亜澄〟とは彼の――奥さんだ。
「……そうなんですね」
「ああ。
幼なじみで親公認だったし、もうそうなるのが当たり前だとなにも考えずに大学卒業と同時に結婚した。
……ほんと、なにも考えてなかったな」
そして終業時間がきてみんなが帰ってふたりっきりになっても、終わっていないというわけだ。
「次のセンターでも同じ状態にしたら、いくら次席でも怒られますよ」
「そうだよなー。
わかってるんだけどな」
はぁっと再び、向坂さんの口からため息が落ちる。
転勤先で彼はいまよりひとつ上の役職に昇進するのが決まっていた。
二十代で次席、かなりのエリートだ。
「だいたい、いままでどうしてたんですか?
……結婚、する前とか」
自分で口にしておきながら一瞬、胸の奥でちくりと痛みを感じたけれど気づかないフリをする。
「あー……。
大学で親元離れたときから亜澄が一緒だからなー。
完全ひとり暮らしの経験はないんだ、俺は」
ははっ、と向坂さんは自嘲気味な笑いを漏らした。
〝亜澄〟とは彼の――奥さんだ。
「……そうなんですね」
「ああ。
幼なじみで親公認だったし、もうそうなるのが当たり前だとなにも考えずに大学卒業と同時に結婚した。
……ほんと、なにも考えてなかったな」