疲れ果てて眠りに落ちたのは、カーテンの隙間から白く光が差し込みはじめた頃だった。



早朝の改札の前で、黙って立ち尽くす。
私の手を握る蓮も黙っている。

「……じゃあ、元気でな」

「……蓮も元気で」

見上げた彼の、眼鏡の向こうの瞳は真っ赤に充血していた。
きっと私も同じ目で彼を見ているだろう。

少しずつ、絡んだ指が離れていく。
全部離れた瞬間、蓮に力強く抱き締められた。

「千華が好きだ!
愛している。
本当は離したくない」

「蓮……」

彼を見上げ、精一杯の笑顔を作る。

「蓮は奥さんのところに行かなきゃ。
そうですよね?」

「……ああ」

力なく蓮の腕が離れる。
嘘だ、本当はもっと蓮に抱き締めていてほしい。
私だってずっと一緒にいたい。
でもこれ以上、蓮に罪を重ねさせられない。

「いち、にの、さんで別れましょう?
絶対に振り返っちゃダメです。
いいですね?」

「そうだな」

蓮の指がそっと、私の目尻を撫でる。
その行為はもっと涙を誘うが、必死に耐えた。

「じゃあ」

「いち」

「にの」

「さん!」

ふたり同時のかけ声と共に後ろを向く。