もう会えないのだからこそ、伝えたい。

「わ、私は」

自分から出た声はみっともなく震えていて泣きたくなる。

「向坂さんが、……好き、です」

向坂さんはじっと私を見つめて黙ったままなにも言わない。
引っ込み思案な私の、精一杯の勇気。
どんな言葉が返ってきても、後悔しない。

「……なんでそんなこと、言うんだ」

彼の声は怒りを孕んでいた。
強く握られた拳が細かくぶるぶると震えている。
怒らせた、後悔しないと決めたばかりなのに後悔した。

「そんなこと言われたら、諦められなくなるだろ」

次の瞬間、向坂さんに強く抱き締められていた。
想定外の展開にあたまがついていかない。

「由比が……好きだ」

泣きだしそうな声が上から降ってくる。
私を抱き締める手は心細そうに震えていた。

「由比が好きだ。
このまま帰したくない」

きっと今、私は本当に許されないことへと足を進めようとしている。
あたまの中ではうるさいくらい、警鐘が鳴っていた。

――わかっていて私は。
――この手を伸ばし。
――向坂さんを抱き締め返す。



そのまま、向坂さんが取っているホテルに行った。