そう言えば、今日は満月だ。
 あの公園のブランコから見える満月がとても綺麗だった。また、行ってみようかな。
 思い立ったら即行動。あたしの唯一の長所かもしれない。
 夜に外出をするってだけで、なんだか引け目を感じてしまうのはあるけれど、別に公園に行くだけで、何か悪いことをしようだなんて思っていない。
 だから、たどり着くまでは色々と考えてしまうんだけど、きっとこの前みたいに空を見上げて綺麗な満月が見れたら、あたしはまた頑張ろうって思えるはず。

 誰もいない公園。ブランコにそっと手を伸ばした。キィッと、小さな音さえも大きく響くから、より慎重に座って、真っ直ぐに空を見上げた。
 ちょうど真ん中に、満月が光り輝いている。
 眩しいくらいに月面に反射させた光に目を細めた。

「あ、やっぱり汐谷さんだ」

 突然、名前を呼ばれた方へと視線を下ろした。手を振りながら、公園の入り口から駆け寄ってくるのは、加地くん。

「加地くん……? なんで?」

 この公園はうちからも、うちの学校からも距離がある。知り合いに会うことはまずないだろうって、ずっと思っていた。
 それなのにどうして加地くんが?

「となり、座って良い?」

 空いているもう一つのブランコを指さして聞かれるから、あたしは無言のまま頷いた。

「汐谷さんさ、先月も来てなかった? ここ」
「……え」

 どうして。

「俺さ、もう先月の時点で気が付いてたんだ、フラれること。どうしようもなくなって家にも帰りたくなくて、フラフラしてたら、公園の中に空を見上げている汐谷さんを見つけた。俯いてばっかだったから、あの日が満月だって気づきもしなかった。だけど、真面目で優等生な汐谷さんが満月を見上げながら不安気な表情しててさ、汐谷さんでもあんな顔するんだって思った」

 まだ目尻が赤くなっているような気がするのは、薄暗い月明かりだけが頼りの視界だから。
 加地くんの微笑んだ表情はとても柔らかくて優しくて、まるで月の光に包まれているような、そんな美しさがあった。

「今度は、汐谷さんの悩みも聞かせてよ。ね」

 無性に、泣きたくなった。
 加地くんはもう、前に進もうとしている気がする。あたしも、真面目にばかり生きていたら、もしかしたらつまらないのかもしれない。

「じゃあ、明日からはありのままの自分をさらけ出していこうか、加地くんも、あたしも」

 ふふ、と笑うと、驚いた顔をした後に加地くんも笑ってくれた。

 きっと、明日の十六夜の月はもっともっと、輝いて見えて、特別な日になるような気がする。