俺が購入した山は、かなりの僻地にある。
 人間の領域では最南端と言って良い場所で、ぎりぎり王国領に入っているという人間の住処というより魔物の生息地帯といった方が正しそうな場所だ。
 なんでも凶悪な魔物が出るような場所らしく、おかげで値段は二束三文だった。
 魔物が出る一人で僻地で暮らしていけるのかと尋ねれば、俺はこう答えよう。
 ぶっちゃけた話、一人で生きていくだけならどうとでもなる……と。
 エンチャントを使えば衣食住どれも問題なく揃えることはできるし、古代魔族文字のおかげで自衛するには過剰なくらいの戦闘能力も身に付けることができた。
 とりあえずしばらくは、一人でじっくりと鍛冶に打ち込める環境がほしい。
 人が来れないくらい厳しい環境なら、誰かに邪魔されることもなくしっかりと鍛冶に集中することができるだろう。
 リアム達が忙しく動いている中で一人ゆっくりしに行くのに少々罪悪感がないではないが……魔王に届くだけの武器を作ってみせたのだから、しばらく己の研究に打ち込むくらいのことを望んでも罰は当たるまい。
 まぁ長々と説明をしたが、俺にとっては人目につかないというのが何より大切なわけだ。
 ただ当然ながら王都から辺境伯領へ向かうためには、人里を通っていく必要がある。
 流石に補給やぐっすり眠れる宿なしで、目的地への最短距離を突っ走れるほど身体が強いわけじゃないからな。
 王都を抜けてから半月ほど、およそ半分ほどの行程が済んだところで、俺は問題に直面していた。その問題というのが――
「盗賊、ですか……」
「ええ、どうも傭兵上がりでなかなか強敵らしく……辺境伯家の騎士団が来るまでは南の街道は封鎖されておりまして」
 現在俺がいるのは、辺境伯領の真ん中あたりにあるレルドーンという街だ。
 ここから更に南下してアルリリという街へ向かおうとしているんだが、現在暴れ回っている盗賊団の根城がその辺りにあるらしく、街道封鎖が実施されてしまっていたのである。
 詳しい事情を聞くため、冒険者ギルドで受付嬢から詳しい話を教えてもらっていたのだ。
 なんでも頭がかなりの強さらしく、レルドーンに在留していた騎士団達相手に対等以上に渡り合ったという。ランクでいうと、B程度の強さはあるということだった。
 魔王が倒されたとはいえ、世界から悪人が消えたわけではない……ってことか。
「援軍がやってくる前に襲われる可能性もあるのではないですか?」
「ええ、ですので現在街には厳戒態勢が敷かれております。また、冒険者達による討伐隊を組織しておりまして、こちらは準備でき次第出発する予定です」
 こちらに攻め込んでこないのは……戦闘力が高いのが頭だけだからだろうか?
 もちろん情報が少ないので、判断するのは軽率だが……。
「現在やってきたばかりのラック様に対して強制力はないのですが……もしよければ盗賊の討伐依頼を受けてはもらえないでしょうか?」
 俺は一応、冒険者ライセンスを持っている。
 ランクはC。
 Sまで上がっているリアム達と比べると大したことはないが、一応自分の身を守れるくらいの強さは持っている。
 しっかし、盗賊討伐か……本気で剣を数本も打てば盗賊程度ならどうとでもなるとは思うんだが……ここで下手に目立って釘付けになるのは避けたい。
 もちろん街の人達の命が危ないとなれば、全力で武器を放出してなんとかするつもりだが……なんとかならないものだろうか。
「『雷剣』のジュリアの得物さえ壊れていなければ、盗賊程度に遅れは取らなかったのでしょうけど……」
 ……なぬ?