地脈の詰まりの原因となっているのは、ドワーフの領域を越えていった先にあった湿原だった。
特定したその場所へ向かうと……そこには、地平線を埋め尽くすほどに大量の魔物の姿が見えている。
魔物の数は五千を優に超えている。恐らくは一万も超えているだろう。
魔物達にはまったくといっていいほどに共通項がなかった。
蜥蜴のような鱗と頭を持つリザードマンから、捕食した魔物の特徴を手に入れることのできるキマイラ、更には骨だけのドラゴンであるスケルトンドラゴンなど……魔物達はグループを成すこともなく、なんの統一性もなく並んでいる。
「プシュウ……」
「フシュルルル……」
「ガルルル……」
ただ全ての魔物に共通して言えるのは、彼らの瞳が濁っており――その頭に、赤と紫色をしたキノコが生えていることであった。
「これは……ミラ、知ってる?」
「恐らく生物を支配下に置く大型菌類でしょうね……差し詰めトードストゥール・コマンダーといったところかしら」
ミラが使い魔を使って偵察させたところ、最奥に居る大型魔物の頭部、人間サイズの金色の混じったキノコが生えているらしい。
恐らくその巨大なキノコが、全ての魔物達を胞子を使って操っているのだろう。
眼前にいる、視界を埋め尽くすほどの大量の魔物達。
けれどそれを見ても、誰一人臆してはいなかった。
「腕っ節でどうにもならないことじゃなくて助かったぜ! 要は――」
ミラがグルグルと槍を回転させてから、その石突を地面に打ち付ける。
「こいつら全員ぶち殺せばいいってことだろ!」
「乱暴だけど……まぁ、その通りね」
「よし……戦闘準備」
たった一言、リアムがそう呟くだけで、四人の纏う雰囲気が一変する。
先ほどまでピクニック気分でニコニコとしていた時と比べるとその身体から発されるオーラが、桁違いに膨れ上がっていた。
リアムの全身から噴き出す魔力を目の当たりにした魔物達が、後じさりをする。
胞子に冒されまともな思考能力のないはずの魔物達が、そのわずかに残っている本能で彼女の危険性を感じ取ったのだろう。
「胞子の飛散は気にしなくても大丈夫です」
ナージャの祝祷術によりリアム達の全身が光に包まれ、一切の状態異常が無効となる。
リアムは腰に提げていた剣――ラックが手ずから作り上げた最強の一振り、聖魔剣カオティックレイを鞘から引き抜き、その愛らしい見た目からは想像のつかないほど凄絶な笑みを浮かべる。
「さぁ……やろうか」
その圧倒的なまでの武威に、魔物達が後じさりする。
そして戦闘は始まり……一時間にも満たぬわずかな間で、全ては終わり。
ナージャによる地脈の正常化によって、ドワーフ達を襲っていた食糧問題は、解決をみせるのであった―――。