「よし、こっち上がったぞ!」
「はい、今すぐ詰めます!」
俺は小屋を出てすぐのところで食材の回復を行っているメイドのラディに、作り上げたばかりの『収納鞄』を渡す。
彼女は途中からやってくることになった、ナージャの腹心のメイドの一人である。
ラディは俺が作り上げた『収納鞄』を取りに来ると、そのまま外へ出て、巧みな包丁捌きで切り落としていた食材をひょいひょいと中へ入れ始める。
そのすぐ隣からは、ぱああっという回復効果の発動する音と光が見えていた。
見ればシュリが、目にもとまらぬ速度で食材を切りまくっている。
こんな風に外ではナージャのメイド達が食料の増産に励んでいるわけだが……意外なことに、中でも一番食料を回復させるペースが速いのはシュリだった。
彼女は食材の回復する量をしっかりと把握しており、これ以上は回復が発動しないというギリギリのラインで食材を切っては再生させていた。
その速度はなんと驚くべきことに普通の『収納鞄』ではあっという間に中身が埋まってしまうほど。
おかげで俺は彼女用に特注で金属製の箱形『収納鞄』を作らなければいけなくなってしまった。
ただそれだけの効果はあり、箱形『収納鞄』は一つあるだけで巨大な里二つ分まかなえるくらいの食料をしまうことができる。その分重たいので持ち運びが大変だったりするが、それを補って余りある効果だ。
――あれから俺はフル体勢で鍛冶に移ることになった。
なんだか当初は軽く考えていたんだが想像していた以上に大事になってしまった。誰かを助けるためだと思えばそう悪いもんじゃないが、疲れるものは疲れるから心の中で泣き言を言うくらいのことは許してもらいたいもんだ。
俺の見通しが甘いせいで、いくつもの誤算が生じてしまい、結果的に想像していたより大量の時間を取られてしまっている。
ドワーフ達の人口ははるかに多かったこと。そしてドワーフの暮らしている領域は俺が想定していたより遙かに広がっており、その全てで食糧問題が発生していたことなど、数え上げればキリがないほどだ。
最初は俺・シュリ・ジルの二人と一匹体勢で回そうとしていたんだが、そんな状況だとすぐに手が足りなくなってしまった。
そこでまず最初にやったのは、ミスリル製の『回復』包丁とフライパンの増産だ。
食料を大量に生産できれば、それだけドワーフ達に食料が回るペースも上がるからな。
元々リアム達に一つずつプレゼントする予定ではあったので、『仮初めの英雄』それぞれにワンセットずつの合わせて四つと、普段使いするための一つの合わせて五つを用意させてもらった。
次に行ったのが人員の確保だ。
食料を増産するための人手と、増産した食糧をドワーフの里まで持ち帰る者達が両方必要だった。
前者はジュリアに連れて来てもらったナージャの腹心のメイド達を使うことになった。
それだけの人員が小屋に泊まれるわけもないので、今では外に仮設小屋まで建てている状態だ。
かなり大規模に食料を増産することになったのはいいが、もう山に隠れ住んでいる感はゼロだ。
そして後者の方はというと……。
「来ました、ウッディさん!」
「用意はしてある! 持って行ってくれ!」
アリーシャの里のドワーフの女性が、メイド達が切って回復させた素材を大量に詰め込んだ『収納鞄』を持って森の中に消えていく。
彼女の護衛をしているドワーフ達がこちらにぺこりと頭を下げてきたので、俺は軽く手を挙げて挨拶だけさせてもらうことにした。
そう、後者の方はとりあえず一番最初に食料問題をなんとかできたアリーシャの里の人間を使うようにしていた。
エルフほどではないとはいえ、ドワーフ達も人種のことはあまり良く思っていないらしいからな。それに同胞同士の方が色々と話が早いだろうという目算もあり、そちらの方は狙い通りに上手いことスムーズに話を通すことができていた。
こんな風に色々と大規模になりながらも、俺達の食糧増産は今のところ上手いところいっていた。
もちろんこれはあくまでも一時しのぎの応急措置だ。
所詮十二三人の作業量では、恒久的に食料問題を解決できるような事態にはならない。
ただしばしの時間が稼げればそれで構わないのだ。
何せ困っている人を助けるのは俺のような普通の鍛治師の領分じゃなく――仮初めの取れた、本物の英雄達の仕事だからな。
その日の夜、俺が作りナージャに渡していた『通信』の魔道具で連絡があった。
とうとうリアム、フェイ、ミラ、ナージャの四人の下に魔道具が行き渡り、連絡を取ることができるようになったのだ。
俺はその日のうちに四人とアポを取り、久しぶりに『仮初めの英雄』の四人と顔を合わせることになったのだった――。