ドワーフの里は基本的に、鉱山の中に作られている。
 傍から見ると大量に空いている、巨大な蟻の巣とでも形容すべき大きな空間が、彼らが里と呼ぶ居住スペースになっている。
 最初はいちいち鉄鉱石を里まで運んでから精錬をしていたのだが、そのうちにそれなら鉄鉱山の近くでそのまま精錬をした方が楽ではないかと居を移し、更にそれが発展する形で鉱山そのものに住む形が定着するようになった。
 そんなことをすれば落盤事故や健康被害が馬鹿にならないのではないかと思われるかもしれないが、そちらも問題はない。
 何せ彼らは天性の手先の器用さを持っており、それをものづくりに使った際には格別の力を発揮させる。
 坑道と居住用の洞穴をしっかりと分けて、落盤が起きぬよう鉄で補強するくらいはお手の物。
 少なくとも現在人種が使っている魔力文字やエルフ魔力文字では作れぬような魔道具を作ることができる彼らは、『浄化』や『濾過』などの魔道具を稼働させることで鉱業による健康被害を請けることなく生活を続けることが可能であった。
 己の興味の赴くままに製作活動に打ち込むためにしばしば寝食を忘れる彼らではあるのだが、ここ最近はそんなことも言っていられないような自体になってきた。
 ――未曾有の食糧難が、ドワーフ達の里を直撃したのだ。
 病気に無縁な頑健な肉体を持つ彼らであっても、流石に空腹には敵わない。
 その原因は不明。
 しかし今年度の秋に収穫するはずの作物は、ほとんど全てが駄目になってしまったのだ。
 今までなら収穫できていたはずの大麦や燕麦、各種野菜は黒ずみ見る影もないような見た目になってしまい、またかじったネズミが死んでしまうほどの強烈な毒素まで持ってしまっていた。
 今まで溜めていた備蓄があるからなんとかなっているものの、このままでは……誰もがそんな危機感を覚えながら、動くことができないでいた。
 そんな中、精力的に動く一人の少女と、その彼女を裏で動かしている男の名は、電撃的な速度でドワーフ達のネットワークを通じて広がっていく。
 その理由は単純にして明快だ。
 何せ彼女達こそが――誰も融通することができなかったはずの大量の食料を、分け隔てなく配ってみせる……救世主だからである。