俺達はジュリア達が去るのを見守ってから、とりあえず小屋に戻ってきた。
 エルフの里の皆は今頃戦っている頃だろうか……。
「ふわぁ~」
 と大きなあくびが出る。
 明らかに気の抜けている俺に対して、シュリの方は不安そうな様子をしている。
 なぜだろうか……と思ったがすぐにわかった。
 そういえば彼女は、ナージャのことを詳しく知っているわけではないのだ。
「安心して大丈夫だぞ、シュリ。ナージャは天才だ」
「天才……ですか?」
「ああ、少なくとも俺はあいつ以上のヒーラーを見たことがない。ナージャが向かったんだ……里のエルフ達は誰一人、死にやしないさ」
「ラックさんがそう言うんなら……信じます」
 彼女は伏し目がちだった目を開き、薄く笑う。
 俺の言うことを信じてくれようとしているその健気な態度に、思わず心がどきりと高鳴った。
「ちなみに知ってるかはわからないが、ナージャは『仮初めの英雄』のヒーラーだ」
「かりそめのえいゆう……って、『仮初めの英雄』ですか!? あの魔王を討伐した!?」
「なんだ、知ってるのか」
「もちろんですよ! 超のつく有名人じゃないですか!」
「そうか?」
 まだひよっこだった時の頃から知っている俺からするといまいち実感がないんだが、たしかに街でも時折『仮初めの英雄』の話は聞くことがあった。
「『仮初めの英雄』を呼び出せるラックさんって、一体何者なんですか……?」
「ただの鍛冶師だよ」
「ラックさんがただの鍛冶師なわけないじゃないですか!」
 うーん……別に俺自身は普通の鍛治師だと思うんだけどな。
 特別に才能のある鍛冶師でなくとも、恵まれた環境で何年も技術を磨き続ければ俺くらいにはなれると思う。
 やっぱり俺なんか、運が良かっただけの普通の鍛冶師さ。
「まぁ別にそれはいいさ。とりあえず俺は今日から、また何日か作業部屋に籠もろうと思う」
「今度は何を作るんですか?」
「とりあえず替えの包丁とフライパン……後はまぁ、意欲作を一つってところかな」