「ビビ、貴様……まさか本当に人間を連れてくるなどと!!」
 里の中へ入ったビビを取り囲むように、大量のエルフの男衆が現れる。
 遠くには若手のリーダー格であるビビを疎ましく思っている長老衆達の姿があり、更に遠巻きにビビのことを心配するエルフの姿達まで見える。
 男衆達はエルフの中で強力な発言権を持っている長老衆子飼いの精鋭達だった。
 彼らは本来であればビビよりも格上の相手。
 けれど彼らを前にしても、ビビはまるで臆することはなかった。
「きっさまぁ……ふざけているのか!?」
 彼女の手には――包丁とフライパンが握られている。
 道中何度も使い続けることで、その二つの金物はビビの手に驚くほど馴染んでいた。
「この不届き者を引っ捕らえよ!」
 遠くから聞こえてきた長老衆の声を聞いた男達が動き出す。
 ビビへ襲いかかる全方位からの攻撃を――彼女は見事なフライパン捌きでいなしていく。「はあああああっっ!」
 フライパンによる『概念防御』はあらゆる攻撃を防いでみせる。
 そして逆の手で持つ包丁による『絶対切断』によってエルフの男達は瞬く間に倒れていった。
 本来であればただ万物を割断することのできるだけの能力である『絶対切断』を、ビビは完全に使いこなしてみせる。
 今の彼女は『絶対割断』を範囲と威力を指定して発動させることで、男達を峰打ちで倒していた。
 それは正しく、包丁が彼女を持ち主として認めたということであり……まるでそれに対抗するかのように、フライパンの『概念防御』の範囲も戦いの中で広がっていった。
「す、すごい……」
「格好いい……」
 それは正しく、包丁とフライパンを持った戦乙女によるワルツであった。
 金物にこだわりのある主婦層だけでなく、彼氏を作ったことのない年若い女の子から既に料理をしなくなった年寄り達までの視線を釘付けにする。
 本来であれば敵対していたはずの長老衆ですら、気付けばビビのことを視線で追ってしまっていた。
 気付けばその場所に立っているのはビビ一人となっており……彼女は両手に持った包丁とフライパンを両手でクロスさせる。
「既に結界は張り直した。いくぞ皆……なんとしてでも魔物達を倒し、里の平和を取り戻すのだ」
「「「う……うおおおおおおおおおおおっっっ!!!」」」
 気付けばそこにいる者達全員の心をわしづかみにしていたビビの先導の下、皆はその手に弓と剣……そしてなぜか包丁とフライパンを持って魔物達へと向かっていく。
 あらかじめジュリアが敵の掃討を始めてくれていたおかげで、敵の数は目に見えて減っていた。
 エルフ達は、鬼気迫る様子で見事魔物達へ突撃していく。
 エルフの里をかけた戦いの火蓋が、切って落とされるのだった――。