「本当に、久しぶりだな……そこまで時間は経ってないはずなのに、どこか懐かしさすら感じるよ」
「ええ、本当に……」
『仮初めの英雄』でヒーラーを務めていたナージャは、そういってたおやかに笑う。
少女のように愛らしかった笑顔は、今ではどこか怪しげな色香を漂わせている。
以前送別会をした時はしっかりとしたイブニングドレスを着ていたが、今の彼女は俺の見慣れている神官服をその身につけていた。
既に説明は済んでいるらしく、ある程度情報を共有したらそのままエルフの里へ向かうことになった。
「でも頼んでおいてなんだが……本当にいいのか?」
「ええ、大丈夫です。子爵といっても、実務はほとんど文官の方に投げていますので。少し屋敷を空けるくらいのことは、なんでもありませんよ」
「ほっ、そうか……助かるよ」
ちなみに今回俺とシュリ、ジルは里へは行かずにこの山で待機をすることになる。
エルフの里に向かうまでの道のりはかなりの難関らしく、またたどり着いたとしても、恐らく里の中に入ることは許されない。
長期間森の中でも問題なく活動でき、かつエルフの里を襲っている魔物達を退けられるくらいの実力のある者でなければ、今回のミッションをこなすのは難しいのだ。
俺はできることをしておこうと思い、あらかじめ用意しておいた各種魔道具をナージャに渡していく。
やはりというか、彼女が一番驚いたのは俺が作れるようになった『収納鞄』であった。
「後でリアム達から羨ましがられるでしょうね、ふふっ」
話もそこそこに、ナージャ・ビビ・ジュリアの三人は急いでエルフの里へ向かう。
ちなみにその運搬方法は、はちゃめちゃな力業だ。
「うおおおおおおおおおおおっっ!!」
『雷化』したジュリアが、絶縁体である轟雷ウナギの革張りの籠を引いて、ものすごい勢いで走り去っていく。ただそれだけである。
あっという間に消えキランと光を残して消えていった三人の姿を、俺は見えなくなるまでじっと見つめるのだった。
「頑張ってくれ……皆……」
「エルフの里の皆さんが、救われますように……」