「ラック殿――ラック殿ではないか!!」
 ウィチタの街でナージャへ文を出そうとしていたところに現れたのは、鬼気迫る様子でこちらに駆けだしてきたジュリアさんだった。
 話を聞いてみると、なんとかして恩を返すべく俺のことをあちこちと探し回っていたらしい。
 その過程でいくつもの難関クエストをクリアし、今ではSランクに最も近い女傑とまで言われるまでになっているそうだ。
 街と街の間の道を高速で移動すべく『雷化』まで完全にマスターしてしまったというのには、流石の俺も驚いた。
 見ればその様子は以前とは明らかに変わっていた。
 独特の風格というか……経験に裏打ちされた自信のようなものがしっかりと見て取れる。
 俺が作った剣がその変化のきっかけになったというのだから、やっぱり鍛冶師はやめられない。
「何かしてほしいことはないか!? 色々と鍛冶に使えそうな素材を集めたり、金を貯めたりしてきたんだ!」
 どうやら成長のきっかけを作ってくれた俺になんとしてでも恩返しをしたいらしい。
 お金や素材に関しては今は別に求めてないが、幸い今俺の隣には助けを求めている人がいる。
 ジュリアさんはソロでAランクを誇る実力者だ。彼女の力は、確実に助けになってくれるだろう。
 ……いやちょっと待てよ? 高速移動ができるのならもしかして……
「実はですね……」
 というわけで俺は彼女に、二つのお願いをした。
 まず一つ目は、エルフの里の近くでの魔物の討伐してもらうこと。エルフの里の結界を超えることはできないが、その周りに居る魔物を討伐してもらえるだけでも非常に助かる。
 そして二つ目は――彼女に、ナージャへ文を届けてもらうこと。
「委細了解した! 任せてくれ!」
「あっ、ちょっ……」
 なんとかして押しつけようとしたのだが、依頼料は受け取らずに雷の速さで消えていってしまった。
 それならご厚意に甘えさせてもらうことにしよう。
 せめて剣のメンテナンスくらいは、ロハでやらせてもらうことにするか。
 彼女は『雷化』の能力を完全に制御下に置いているらしく、恐ろしいことにたったの二日で手紙が返ってきた。
 しかもなんとそれだけではなく……。
「あ、どうも……お久しぶりです、ラックさん」
 四角い旅籠のようなものに入ったナージャまで、一緒にやって来たのだった――。