最初はビクビクしながら料理をしていたシュリだったが、効果に慣れてくるとあっという間に使いこなし始めてしまった。
 元々高い身体能力との相乗効果で、驚くべきことに調理時間は五分もかかっていない。
 だというのに今俺の目の前には、フルコースもかくやというほど大量の料理がほかほかと美味しそうな湯気を上げていた。
「いただきます!」 
 とろとろのスープに、フォークを軽く押すだけで切れてしまう煮込み料理、シャキシャキノ葉野菜のサラダの上にはすっぱめのドレッシングとローストされた肉が乗りがカルパッチョ風に。
 正直全ての品が、俺の男飯とは比較にならないくらいに上手かった。
 ガツガツと、ちょっとはしたないと自分でも思ってしまうほどのハイペースで食べ進めていってしまう。
 使うのは初めてのはずなのに、まるで熟練の主婦のようにシュリは俺のハイスペック調理器具を使いこなしている。もしかするとシュリは、俺が想像していた以上に料理上手なのかもしれない。
「なぁシュリ」
「はい、なんでしょうか?」
「何か作ってほしい調理器具があったら言ってくれ。作らせてもらうから」
「えっと……それじゃあお言葉に甘えて……」
 俺はシュリに言われた金物を最優先で作ろうと心に決める。
 一度彼女の料理を味わってしまえば、二度とあの調味料をかけただけの肉には戻れそうにない。
「そういえばシュリは今日は何をするんだ? 家には『浄化』がかかってるから掃除はさほど時間をかけずに終わるだろうし、ゆっくりしてるのか?」
「いえ、でしたらジル……さんと一緒に山を探検しようかと思いまして」
 様付けはやめてほしいという本人からの意思で、どうやらジルはさん付けという形で落ち着いたらしい。
 にしても山の散策か……。
「もしよければ俺もついていっていいか?」
「はい、もちろん一緒に来てくれるなら心強いですが……鍛冶の方に影響はありませんか?」
「ああ、しばらく外に出てなかったからな。少しリフレッシュした方がいいかと思って」
 鍛冶は金属との対話であり、そこには当然ながら高い独創性や創作性を求められる。
 作業の性質上、ずっと根を詰めすぎているだけだと、どうしても煮詰まってしまうことも多いのだ。
 山の中を歩くというのは、適度な気晴らしにはちょうどいいだろう。
 というわけで今日はジルとシュリと一緒に、山を散策してみることにしよう。