僕のなんかすごいとこー、という名目でただただ異常者扱いされただけな気がする一時から解放されて、僕らは下校することにした。
 昼からは軽く冒険しよっかーって話をしてるので、みんなで仲良くお昼ごはんを食べてから新世界旅団だけで迷宮に潜るんだねー。ちなみにギルドにパーティーとしての登録はしてないからこれは完全に自主的な活動の名目になるよー。
 
「モンスターの素材とかゲットしても依頼主がいないから換金はしづらいけど、代わりに素材を自由に使えるから武器や防具といった装備品に使えるわけだねー」
「なるほど……日々の生活を依頼をこなす形で賄いつつ、より上を目指すために自主的な迷宮探索を行う必要があるわけね、ソウマくん」
 
 下校してすぐのところにある商店街の学生用定食屋で、向かい合って僕はレリエさんに軽い説明をしていた。それぞれ目の前にはででーん! ととんでもない量のパンとスープとステーキ。
 普通のお店なら3人前はあろうかという量なんだけどこれでこの店だと1人前なんだからすごいよね。なんでも体育会系の学生や学生冒険者に向けて量を盛っていった結果こうなったらしいけど、それでいて料金は学生用の据え置き価格なんだから庶民の味方だよー。
 
 とはいえこんな量食えるか! ってことでケルヴィンくんとセルシス、レリエさんは3人で分け合ってるねー。せっせと小皿に分けて親友達に食事を与えているレリエさんが甲斐甲斐しくてかわいいよー、青春の光景だよー。
 反面に僕とサクラさん、あとジャージから冒険者用の軽装に着替えたシアンさんは普通にこの量を一人で食べきれる。冒険者は身体を動かすからね、食べてなんぼな世界でもあるわけだし、食べる時はとことん食べるのが鉄則なんだねー。
 
「私も、無理してでも食べきったほうがいいかもしれないけど……」
「そこまでする必要はないでござるよー。食えもしないのに詰め込んで、逆に体調崩しながら迷宮に潜るほうがよっぽどやべーでござるし、そこの判断は自分でするでござるよー」
「そうね、レリエさんの食べられる量でいいのよ。私だって普段はここまで食べないのよ? ……朝から死ぬほど動いて、お腹ペコペコだから食べるだけで」

 昨日なったばかりとはいえ、冒険者として生きることになったレリエさんがそんなことを気にして言う。真面目さんですごく素敵だけど、サクラさんやシアンさんの言う通り無理してまで食べる必要なんてどこにもないんだよー。
 必要な分だけ食べればいいんだよー。そしてシアンさん、お腹を擦りながら恥ずかしそうに頬を赤くしてるのがかわいいよー。サクラさんをちょっぴり恨めしげに見てるあたり、文武両道で品格兼ね備えた完璧生徒会長さんでも朝からの訓練は相当ハードだったってことだろう。

 視線を受けてサクラさんがケラケラ笑って答える。

「シアンは今後この量がデフォルトになるでござるから腹ァ括るでござるよー? オフならともかく、冒険に赴くのに少食のSランク冒険者なんて聞いたことないでござるからねー。最低限そのくらいには到達してほしいでござるから、今のうちにエネルギーを蓄える癖をつけとくでござるよー」
「わかってるわよ。はあ、太らないかしら……」
「太るほど生温い訓練をさせるつもりもないでござるー。覚悟するでござるよー、ござござー」
 
 冗談めかして言うけど、これガチなやつだねー。
 サクラさんは本気でシアンさんを、可及的速やかにSランククラスの実力者に仕立てるつもりでいるよこれー……
 
 僕としてもそりゃあ、団長として見込んだ人が強さ的にも上になってくれるんならそれに越したことはないんだけど、無理や無茶をさせないかと気が気じゃないよー。
 だってヒノモトの戦士はやりすぎがどーした! ってのがポリシーなところあるしねー。ワカバ姉とかひどかったもん、新入りにひたすら訓練課して扱き倒して、見かねたレイアとウェルドナーのおじさん──レジェンダリーセブンの一人でかつて調査戦隊の副リーダーだった人だ──に止められたりしててさー。
 
 それと同じことが今、眼前で繰り広げられるんじゃないかと内心で冷や冷やだよー。
 ヒノモトの気質を知ってるのかケルヴィンくんとセルシスくんともども怖怖と見守っていると、サクラさんはそんな自然に気づいて慌てて両手を振ってきた。
 
「な、なんか勘違いしてるでござろ!? 拙者そこまで無茶な特訓はさせないでござるよ!?」
「もうその言い方からして怪しい」
「怖い」
「ヒノモト人は最初は優しいのに、慣れてきたら豹変するって実体験からの確信が僕にはありましてー」
「どこのどいつでござるかそんな陰湿なヒノモト人は! って……ワカバ姫でござるよねそれ……」
「うん」
 
 僕の中でヒノモト人のイメージが深刻に汚染されていることを受けて、サクラさんがガックリと肩を落とした。原因が彼女もよく知るヒノモトのSランク冒険者にあるんだからそりゃー、ねえ?
 落ち込むサクラさんを慰めるべきか、それともヒノモト人の苛烈さが今後自分を襲うかもしれないことに怯えるべきか。微妙な顔をするシアンさんにもまとめて生暖かい目を向けて僕は、特盛のステーキを口にした。