ギルド長のからかいだか皮肉だかスキンシップだかもテキトーに受け流すことにして、僕は今回ここにレリエさんをお連れした理由についてお話した。
 つまり先の三人の古代人同様に冒険者登録をしてもらい、正式な冒険者になることでギルドの庇護下、保護下という扱いにしてもらえないかというお願いだねー。
 
「ヤミくん、ヒカリちゃん、マーテルさんに続いて確認できる4人目の古代人。在野に置いてたら間違いなくエウリデがこないだよろしく確保に来るだろうし、ギルドで押さえといてほしいなーって」
「それと、現代における最低限の身分保障も登録すれば成立するとお聞きしました。数万年もの古から目覚めた私は、当然寄る辺のない逸れものですから……社会に溶け込めるだけの、基盤がほしいのです」
「でしょうな。先だってのあなたのご同輩方も、発見した冒険者を頼って登録しに来ましたから事情はもちろん理解します。我々ギルドは喜んで受付いたしますとも。ですが……」
 
 社会的立ち位置を獲得したいというレリエさんの頼み、それそのものは快く受け入れつつもしかし、ギルド長は彼女と並んでソファに座る僕に視線を向けた。
 うん……? レリエさんじゃなく、僕のほうに何かあるのかな? 首を傾げていると、リリーさんが何か察してギルド長の言葉に続く。
 
「……これまでの古代人の方々は、いずれも冒険者登録後には第一発見者のパーティーに身を寄せています。ヤミくんヒカリちゃん兄妹はレオン・アルステラ・マルキゴス率いるパーティーに、マーテルさんはオーランド・グレイタスの元に。その流れで行くとレリエさんはソウマくんの庇護下に置かれるわけだけど」
「彼は彼でややこしい身の上だからな。冒険者として、戦士としては間違いなく世界で五本の指に入る天才だが、来歴ゆえの因縁があちらこちらにありすぎる火薬庫のような男でもある」
「世界で五本!? ソウマくん、そんなすごい人なんですか!?」
「えへー!」
 
 レリエさんの驚きの視線が心地よくて照れちゃう。そーなの僕ってばこれでも強いんだよー! それはそれとして叩けばいろいろ埃が出てきたりもするけどー。
 ことここに至ればさすがに、僕の何が問題なのかも分かってくるよー。つまるところレリエさんという問題のある立場の人間が、僕という問題しかない立ち位置の人間と行動をともにすることで起きるトラブルがネックなんだねー。
 
 自慢じゃないけど、僕ほど方々から恨みを買ってそうな冒険者もそうそういない気がするよー。
 というのが概ね調査戦隊解散に端を発していて、エウリデ連合王国内の政治屋はせっかくの調査戦隊を失ったことで恨んでくるし、騎士団連中は言わずもがなだし。

 大半の冒険者達は同情したり味方してくれてはいるけれど、いつかは調査戦隊入りしたかったのにーって恨んでくる人はやっぱりいる。
 加えてこれは推測だけど、その調査戦隊の元メンバー達からも憎まれてるんだろう。少なくとも好かれている理由も自信もないしー。

「とまあ、こんな感じで3年前の調査戦隊解散からこっち、僕ってばちょっぴり嫌われ者だったりするんですよー」
「調査戦隊についてはともかくそれ以外は概ね事実です、レリエさん。彼は不可抗力とはいえ一つのパーティーを崩す選択をして、その結果少なくない人達の不興を買ってるの」
「そんな……脅迫されてそんなの、そんなことって……!」
 
 そんな話を、過去のアレコレについてもかるーく説明しながらお話しすると、レリエさんはありがたいことに僕の側に立った目線でいてくれるみたいだった。
 優しい人だよー、これはやはり15回目の初恋だよー。僕の現状に憤ってくださる姿はとても素敵だ。さすが古代人は優しいんだねー。何がさすがなのかは知らないけどー。
 
 よっぽど僕を気の毒がってくれているのか、優しく肩に手を置いたりてくれてるよー! うひょー!
 
「この子はまだ子供じゃないですか……! それを寄ってたかって追い詰めて、酷すぎませんか? それとも当世では、これが普通なのですか?」
「酷すぎるし普通じゃないわ、レリエさん。だから大多数の冒険者は彼に対して、子供であることは知らないにしても極めて同情的よ。いつかは自分達も同じ目に遭わされるんじゃないかって恐れもあるから、国に対して反抗的な姿勢を先鋭化させてもいるわね」
「ただ、そもそもグンダリ自体が普通ではないからこそ引き起こされたことでもあるのだ。強すぎた、目立ちすぎた、特殊すぎた。出る杭は打たれるという、世の必然が彼にも当て嵌まったということになる」
「調査戦隊でも完全に特別枠だったからねー、僕。戦隊内でも不満を持たれてたところはあるよー」

 入団の経緯からして僕だけなんか、おかしい成り行きだったらしいからねー。
 スカウトされた人自体はたくさんいるけど、リーダーと副リーダーがしつこく通い詰めた挙げ句最終的には当時の戦力を総動員して抑えにかかったのなんて僕だけらしいし。

 レイアに少年愛疑惑がかけられたくらいには執着されてた自覚はある。
 そういうところとか、やっぱり僕の異様な強さや生まれ育ちが積み重なってあの脅迫に繋がっちゃったんじゃないかなーって思うところも、今の僕にはあるねー。

「いつの時代も、人は人を排斥する……たとえそこが楽園であっても、ですか」
「楽園に住む者にとり、今いるそこが楽園だという実感もありはしないということです。あなたから見てこの世界は、楽園なのですかな?」
「間違いなく。私達がかつて夢見て、しかし届かなかった場所そのものに思えます。緑なす大地、風吹く世界。私達が、壊してしまう前の世界」
 
 ベルアニーさんの質問に、レリエさんはまた泣きそうな顔をしてつぶやく。
 ああっ、泣かないでー! 何があったか知らないけど笑っててよー! 僕は肩に置かれた手に自分の手を重ねて、慰めるように擦る。
 彼女は少し、笑いかけてくれた。