騎士団に冒険者ギルドまで巻き込んだ壮大な茶番劇から数日。
 すっかり夏休みに突入した僕ことソウマ・グンダリは、相変わらずの帽子にマント姿で顔を隠した冒険者"杭打ち"スタイルで、相棒の杭打ちくん3号を持って地下迷宮は86階層をうろちょろしていた。

「……おわり!」
「ぐるぎゃああああああっ!?」

 狙い撃つはいつも同様ゴールドドラゴン。好事家の依頼が珍しく重なって、食い扶持を多く稼げる僕としてはホクホクだよー。
 脳天に叩き込んだ杭は瞬く間にゴールドドラゴンの命を奪い去り、その巨体を赤土の床に倒れ伏せさせた。これで本日2匹目、依頼達成だねー。

「……よーしよしよし」

 倒れたドラゴンの口を強引に開けて、奥歯にある黄金でできた歯を抜き取る。あと体中、あちこち黄金になっている皮膚や内臓も可能な限り抜き取るよー。
 依頼人は奥歯だけでなくゴールドドラゴンの黄金ならなんでも引き取って気前よくお金をくれるから、地味だけど大切な作業なんだよねー。

 持ってきた鞄が黄金で一杯になるくらいにドラゴンの骸を解体して、僕は満足してその場を立ち去る。死体は別なモンスターが食べるなりなんなりして、すぐになくなるかは迷宮内も弱肉強食の食物連鎖ってやつがあるんだと感心しちゃうよー。

「ふー……さてと」

 依頼も達成したし後は帰るだけ……とは今回ならない。実のところ他にも目的があって、僕はこんな地下深くまで潜っていたりする。
 それっていうのもぶっちゃけ、こないだからやたら縁のある超古代文明に関しての独自調査をするつもりでいるんだよねー。

 レオンくんパーティーのとこのヤミくんとヒカリちゃん。オーランドくんと今頃船の上かな? マーテルさん。
 この3人は自称、超古代文明からはるかな時を経てやって来た古代人だ。ホラにしては迷宮深層を彷徨いてたりエウリデ連合王国が確保しようとしてたりと、きな臭さがつきまとっているのがなんとも怪しいね。

 僕としてはロマンのある話だし状況証拠もあるので大いに信じたいわけだけど。それはそれとして、裏付けを取れるならそれに越したことはないとも考えている。
 そんなわけでヤミくんとヒカリちゃんが彷徨いていたという地下86階層まで来ているんだ。あの子達が眠っていたという、迷宮内でも特に異質な玄室を調査するためにね。

「……どっちだったかなー」

 道を覚えてないよー、忘れちゃったよー。
 赤土の床と壁、広く高い空間にいくつと伸びる道のどこを進めばそこに辿り着けるのか。最後に行ったのが何年も前のことだからすっかりルートの記憶が頭から抜け落ちてしまった。いけないいけない。
 念のため持って来といた地図を懐から出して確認する。調査戦隊時代終盤の頃に作成されたこの地図の通りなら、おそらく最短距離はー、と。

「…………こっちかー」

 地図に記してあるマーク、なんかよくわからない部屋だし"?"マークをつけてるそこに向かって歩き出す。
 道中、一つ目巨人のサイクロプスとか爪の鋭いデーモンドラグーンとかに出くわすけど気配を隠して通り過ぎる。一々構ってやれないよー。

 やがて赤土の壁が一箇所だけ、大きく銀色の金属にすり替わっている地点に辿り着く。ここだ……僕が杭打ちでむりやりぶち抜いて開けた穴がある。

 ヤミくんとヒカリちゃんの口ぶりでは、この穴の中の部屋にある棺のようなものの中で二人とマーテルさんは寝ていたことになる。つまりは3年前に来た時よりも3つ分、棺が開いているはずなのだ。

「…………ちょっと怖いかもー」

 いや、むしろかなり怖いかもー。ロマンはロマンとしてあるけどホラーチックな話でもあるからね、こんなのー。
 これで追加で棺が開いてたりしたらもう目も当てられない、つまりは古代文明人がもう何人かいて、迷宮をうろついてるなり下手をするともう地上に出てるかもしれないってことだもの。
 というかそれ以前に。

「3年前の時点でいくつか、開いてたんだよねー棺……」

 今回調査するにあたり過去の記録を引っ張り出して再確認したところ、当時その部屋に足を踏み入れた僕含めた調査戦隊メンバーはたしかに、棺らしき箱がある事自体は把握していた。
 全部で10個。そのうち5個が開封済みで、残る5個が未開封。当時の資料にはそうした報告がたしかに記載されていたのだ。

 それはすなわち3年前にはすでに、5人の古代文明人が覚醒してあの場所を出ていたということを示唆している。そして今なお、未覚醒の古代文明人が2人、眠っているはずなのだ。

「先に目覚めた5人は、どこに行ったのー……?」

 なんともホラーだよー。怖いよー。
 ついこないだまでなんとも思わなかった迷宮が、なんだかひどく恐ろしいものに見えてきた。まあ、何が出ようと僕は杭でぶち抜くだけなんだけど。
 それでも嫌な想像とかしちゃってゾワゾワするところはある。鳥肌を立てつつ僕は、古代文明人の眠る玄室へと急いだ。