マーテルさんの確保……っていうかもうはっきり言うけど誘拐だよねこれ。誘拐に際して冒険者を使うつもりらしい国の言い分に、誰あろうシミラ卿が大きくも深ーいため息を吐いた。
「先日の騒動について、エウリデ連合王国政府としては迷宮都市の冒険者ギルドに対し、反逆罪を適用することさえ視野に入れていた。双子の引き渡しに反抗したばかりか、騎士団員が負傷して帰ってきたことで随分と大臣が吠えていたよ」
「騎士団員はシミラ卿がやったじゃないのー」
「表沙汰にできないから冒険者の仕業ということにする、だそうだ。ちなみに杭打ち、お前については誰からも一言たりとも言及はなかったぞ。3年前にお前の取り扱いを間違えて最悪の事態を招いてしまったこと、彼らは半ばトラウマにしてしまっているのさ」
「それを聞かされて僕にどうしろと……」
お偉いさん達が僕にビビってる、なんて聞かされても反応に困るよー。さぞかし微妙な顔と反応をしたんだろう僕に、シミラ卿は喉を鳴らしてくつくつと笑った。
久々に見る楽しそうな笑みだ。本当に今の、騎士団長って役割は彼女にとって不相応なんだなと痛感するよ。
調査戦隊に所属していた彼女だから、国側の人材でありながらも価値観や考え方はむしろ冒険者に近いんだよね。
そうでなくとも元々の気質が騎士的じゃないっていうか、案外はっちゃけるタイプのお姉様だから余計、今のこの立ち位置が窮屈なんじゃないかなって思う。
さておき、ギルド長は椅子にもたれかかり頭を掻いた。いかにも紳士然とした格好と態度なんだけど、これで実はここのギルドで一番血の気が多いんだから面倒くさいんだよこの人ー。
今もほら、何でもない風だけど青筋立ててるし。絶対キレてるよこれー!
静かに、けれど気迫を込めながら老爺は僕らに告げる。
「言うまでもないがそのような魂胆に加担するつもりはない。冒険者を人攫いか何かと勘違いされてもらっては困るのだし、そもそもマーテルとやらはオーランド・グレイタスの保護下で冒険者登録もすでに済ませてある。つまりは同胞だ」
「同胞を、平気で人を物扱いしたり脅迫して追放したりする連中に売り渡すなどと……それこそ冒険者の名折れでござるなぁ」
「そういうことだ。ましてや我々を、未知を求めるのが本懐の冒険者を金で動かそうなど言語道断であろう」
「……………………」
グサー! 3年前ものの見事にお金に釣られて調査戦隊追放を受け入れた僕の心に大ダメージ!!
サクラさんはともかくギルド長、これ僕への当てつけとしても言ってない? 帽子とマントの奥から彼に視線を向けると、いやらしい話でこのおじいさん、ニヤリと僕に笑いかけてきた。
ほらやっぱりじゃんヤダー!
だからあんまり会いたくないんだよこの人、3年前のことで国はもちろん僕に対しても思うところあるみたいなんだもんー!!
一気にアウェイ感を増した部屋から、僕は今すぐにでも退散して家に帰ってお風呂入って美味しいご飯を食べてぬくぬくのベッドでぐっすり寝て次の日の朝日を最高な気分で拝みたくなる。
そもそもなんで僕を呼んだのこれー。意味が分からないよこれー。
シアンさんの次くらいに無関係だと思うー、と内心で思っていると、ギルド長が続けて言った。
「我々はもう二度と、卑劣に屈する同胞を出してはならない。たとえ国が相手であろうともだ。よってこの依頼は当然、引き受けない……と、言いたいところだが」
「ござ? 何か問題でも?」
「ここで別の問題が起きた。そのマーテルが事態を察知し、逃亡を図っているのだ。おそらく彼女を保護したとかいう、グレイタスの倅も一緒にな」
その言葉に、少しの沈黙が部屋を包んだ。僕も絶句というか、反応に困っちゃって何も言えないでいるよー。
どうやら事態はすでに動き出してるらしい。ていうかオーランドくん、今日普通に学校で見かけたんだけどなあ。学校が終わってから逃亡を開始したってことなのかな?
気になる仔細をギルド長に代わり、シミラ卿が説明する。
「2時間前、それらしき二人組が街の外へ出たと先程、迷宮都市の駐在騎士から連絡があった。先日の双子を巡る騒動を知って、次は自分とでも思ったのかもしれん。北口から出たところから察するに行き先は……」
「……国境。エウリデから北上して海洋国家トルア・クルアに向かうつもりでござるな。そこから海路を使って大陸脱出でも図るんでござろうか?」
内陸国であるエウリデ連合王国は、四方を別の国に囲まれているわけだけど……
その中でも北部に隣接しているトルア・クルアという国は迷宮都市からも比較的近く、今からここを出発しても一日くらいで国境を越えられるくらいの距離しかない。
そしてそのトルア・クルアはサクラさんの言う通り海洋国家で、面した海から世界各地に交易路を作って船による行き来を盛大に行っている貿易大国なんだよね。
当然旅客船なんかも毎日とんでもない数、行き来しているわけなのでそれにさえ乗ればもう、エウリデの追手なんて知ったこっちゃなくなる。
マーテルさんと一緒に逃げているらしい推定オーランドくんはたぶん、それを狙ってるんだろうねー。一緒に行くのか船に乗せるだけ乗せて帰るつもりなのかは知らないけれど、中々いい判断だし好感の持てる行動だと思う。
そうだよねー誰が好き好んで物扱いしてくるような連中に、助けた人をむざむざと渡すもんか。今回ばかりは彼にこそ義があるよー。
冒険者として強い共感を得ていると、向かいのシアンさんが困惑もしきりにつぶやくのが見えた。
「グレイタスくんも、船旅に付き合うつもりでしょうか……まさかそんな、彼は冒険者であると同時に学生ですよ?」
「助けた女とともに理不尽な国からの逃避行。冒険者の、それも年頃の男としては燃えるシチュエーションでござろうなあ。ましてやあのガキンチョはほれ、スケコマシでござるし」
「………………………………!」
ちょ……ちょ、超! 羨ましいよー!!
え、何その青春劇! ボーイミーツガールからの逃避行って、もはや物語じゃん! こってこてのジュブナイルじゃん!!
オーランドくんを支持するのはするのだけど、僕の憧れる青春をことごとく見せつけてくるのはつらいよー。
応援したい気持ちと応援したくない気持ちがせめぎ合うー! 僕にもそんなイベント起きないかなー! と、そんなことをついつい思っちゃうよー。
「先日の騒動について、エウリデ連合王国政府としては迷宮都市の冒険者ギルドに対し、反逆罪を適用することさえ視野に入れていた。双子の引き渡しに反抗したばかりか、騎士団員が負傷して帰ってきたことで随分と大臣が吠えていたよ」
「騎士団員はシミラ卿がやったじゃないのー」
「表沙汰にできないから冒険者の仕業ということにする、だそうだ。ちなみに杭打ち、お前については誰からも一言たりとも言及はなかったぞ。3年前にお前の取り扱いを間違えて最悪の事態を招いてしまったこと、彼らは半ばトラウマにしてしまっているのさ」
「それを聞かされて僕にどうしろと……」
お偉いさん達が僕にビビってる、なんて聞かされても反応に困るよー。さぞかし微妙な顔と反応をしたんだろう僕に、シミラ卿は喉を鳴らしてくつくつと笑った。
久々に見る楽しそうな笑みだ。本当に今の、騎士団長って役割は彼女にとって不相応なんだなと痛感するよ。
調査戦隊に所属していた彼女だから、国側の人材でありながらも価値観や考え方はむしろ冒険者に近いんだよね。
そうでなくとも元々の気質が騎士的じゃないっていうか、案外はっちゃけるタイプのお姉様だから余計、今のこの立ち位置が窮屈なんじゃないかなって思う。
さておき、ギルド長は椅子にもたれかかり頭を掻いた。いかにも紳士然とした格好と態度なんだけど、これで実はここのギルドで一番血の気が多いんだから面倒くさいんだよこの人ー。
今もほら、何でもない風だけど青筋立ててるし。絶対キレてるよこれー!
静かに、けれど気迫を込めながら老爺は僕らに告げる。
「言うまでもないがそのような魂胆に加担するつもりはない。冒険者を人攫いか何かと勘違いされてもらっては困るのだし、そもそもマーテルとやらはオーランド・グレイタスの保護下で冒険者登録もすでに済ませてある。つまりは同胞だ」
「同胞を、平気で人を物扱いしたり脅迫して追放したりする連中に売り渡すなどと……それこそ冒険者の名折れでござるなぁ」
「そういうことだ。ましてや我々を、未知を求めるのが本懐の冒険者を金で動かそうなど言語道断であろう」
「……………………」
グサー! 3年前ものの見事にお金に釣られて調査戦隊追放を受け入れた僕の心に大ダメージ!!
サクラさんはともかくギルド長、これ僕への当てつけとしても言ってない? 帽子とマントの奥から彼に視線を向けると、いやらしい話でこのおじいさん、ニヤリと僕に笑いかけてきた。
ほらやっぱりじゃんヤダー!
だからあんまり会いたくないんだよこの人、3年前のことで国はもちろん僕に対しても思うところあるみたいなんだもんー!!
一気にアウェイ感を増した部屋から、僕は今すぐにでも退散して家に帰ってお風呂入って美味しいご飯を食べてぬくぬくのベッドでぐっすり寝て次の日の朝日を最高な気分で拝みたくなる。
そもそもなんで僕を呼んだのこれー。意味が分からないよこれー。
シアンさんの次くらいに無関係だと思うー、と内心で思っていると、ギルド長が続けて言った。
「我々はもう二度と、卑劣に屈する同胞を出してはならない。たとえ国が相手であろうともだ。よってこの依頼は当然、引き受けない……と、言いたいところだが」
「ござ? 何か問題でも?」
「ここで別の問題が起きた。そのマーテルが事態を察知し、逃亡を図っているのだ。おそらく彼女を保護したとかいう、グレイタスの倅も一緒にな」
その言葉に、少しの沈黙が部屋を包んだ。僕も絶句というか、反応に困っちゃって何も言えないでいるよー。
どうやら事態はすでに動き出してるらしい。ていうかオーランドくん、今日普通に学校で見かけたんだけどなあ。学校が終わってから逃亡を開始したってことなのかな?
気になる仔細をギルド長に代わり、シミラ卿が説明する。
「2時間前、それらしき二人組が街の外へ出たと先程、迷宮都市の駐在騎士から連絡があった。先日の双子を巡る騒動を知って、次は自分とでも思ったのかもしれん。北口から出たところから察するに行き先は……」
「……国境。エウリデから北上して海洋国家トルア・クルアに向かうつもりでござるな。そこから海路を使って大陸脱出でも図るんでござろうか?」
内陸国であるエウリデ連合王国は、四方を別の国に囲まれているわけだけど……
その中でも北部に隣接しているトルア・クルアという国は迷宮都市からも比較的近く、今からここを出発しても一日くらいで国境を越えられるくらいの距離しかない。
そしてそのトルア・クルアはサクラさんの言う通り海洋国家で、面した海から世界各地に交易路を作って船による行き来を盛大に行っている貿易大国なんだよね。
当然旅客船なんかも毎日とんでもない数、行き来しているわけなのでそれにさえ乗ればもう、エウリデの追手なんて知ったこっちゃなくなる。
マーテルさんと一緒に逃げているらしい推定オーランドくんはたぶん、それを狙ってるんだろうねー。一緒に行くのか船に乗せるだけ乗せて帰るつもりなのかは知らないけれど、中々いい判断だし好感の持てる行動だと思う。
そうだよねー誰が好き好んで物扱いしてくるような連中に、助けた人をむざむざと渡すもんか。今回ばかりは彼にこそ義があるよー。
冒険者として強い共感を得ていると、向かいのシアンさんが困惑もしきりにつぶやくのが見えた。
「グレイタスくんも、船旅に付き合うつもりでしょうか……まさかそんな、彼は冒険者であると同時に学生ですよ?」
「助けた女とともに理不尽な国からの逃避行。冒険者の、それも年頃の男としては燃えるシチュエーションでござろうなあ。ましてやあのガキンチョはほれ、スケコマシでござるし」
「………………………………!」
ちょ……ちょ、超! 羨ましいよー!!
え、何その青春劇! ボーイミーツガールからの逃避行って、もはや物語じゃん! こってこてのジュブナイルじゃん!!
オーランドくんを支持するのはするのだけど、僕の憧れる青春をことごとく見せつけてくるのはつらいよー。
応援したい気持ちと応援したくない気持ちがせめぎ合うー! 僕にもそんなイベント起きないかなー! と、そんなことをついつい思っちゃうよー。