シアン会長とサクラさんをこないだよろしく席に案内し、ケルヴィンくんの淹れた紅茶とセルシスくんの買ってきた茶菓子でもてなす。
 ケルヴィンくんは紅茶を淹れるのがとても上手で、文芸部でお話する時の楽しみにもなっているほどの腕前だ。そしてセルシスくんは実家の伝で美味しいお菓子を頻繁に持ってきてくれて、これがまたお茶に合うこと!
 
「とても美味しいわ。淹れ方がお上手なのね」
「いやはや、お褒めに預かり恐縮ですよ会長」
「んー美味しいでござるー。貴族印のお茶菓子は、さすがに砂糖もドッサリ使ってそうでござるねー」
「私自身はあまり、甘みのきついものは好みではないのですがね……ほぼ毎日ソウマくんが美味しそうに食べてくれますから、こちらとしても持参し甲斐がありますよ」
「い、言わないでよー。美味しいのはもちろんそうだけどー……」
 
 素敵な友達二人の強力タッグによる、素晴らしいティータイム。シアン会長もサクラさんも、紅茶とお菓子に舌鼓を打って楽しんでいる。
 美味しいでしょー! 友人達が褒められて、僕もなんだか鼻が高いや!
 
 放課後、お仕事に向かう前のほんの一時間程度をこうして友人達と過ごすのは今や僕の生活の中で外せない時間だ。
 僕は冒険者だしケルヴィンくん、セルシスくんも学内外に他の交友関係があったりするので毎日ってわけにはいかないけど、それでも3人集まれる時にはこうしてのんびりするのが日々の楽しみになっている。
 
 そんな憩いの時間をシアン会長、サクラさんとも共有できるなんてとても光栄なことだ。
 僕らは顔を見合わせて、誰からともなく笑い合った。
 
「本当に仲のいい三人組でござるねー」
「ふふ、なんだか羨ましいです」
 
 ゲストのお二人もそんな僕らを見て笑い合う。なんだかすごく、すごーくいい感じの空気。
 いつまでもこの時間が続けばいいのにーってつい、思っちゃうくらい素敵な時間だよー。でもあくまでお二人はゲストで、特にシアン会長は僕に何やら用事があってお越しになったんだ。どうしたって、その話はしなきゃいけないよね。
 
「ふう。さて、そろそろ本題に入りましょうか」
 
 紅茶の入った来客用のティーカップを静かに、物音一つ立てず机に置いて、シアン会長がそう切り出した。
 それに伴い緩みきっていた空気がぱしーっと引き締まり、僕含めみんな、サクラさんさえもおやと目を丸くしつつ居住まいを正す。
 
 すごいなー、これが会長のカリスマってやつかー。
 おそらくは侯爵貴族の令嬢としての振る舞いから自然と放たれるものなんだろうけど、気品や優雅さがすごいから自然と気圧される感じだよー。
 
 冒険者として、新人でこのレベルの威圧ができるのはとてつもないアドバンテージだろうねー。ある程度実力差がある相手には通じないだろうけど、そうでなければモロに威圧を受けて動けなくなっていると思うし。
 まあでも今のところ、その肝心の実力が心もとなさそうだしね。単純な地力を伸ばしてこそ、シアン会長の貴族としてのカリスマは実用性のある武器として機能する、という感じだろうなー。
 
 冒険者としての視点からついつい、シアン会長の今の威圧について感想を抱く。
 けれど次の瞬間、僕はまたソウマ・グンダリに戻されることになるのだった。
 
「グンダリくん……いえ、この際その、ソウマくんとお呼びしても? 私だけグンダリくんと呼ぶのは、仲間はずれのようで寂しいですから」
「! ぜ、ぜひぜひ! ぼぼぼくはソウマです! ソウマくんですー!」
「ありがとうございます、ソウマくん。私のこともエーデルライトでなく、シアンと呼んでくださいね。会長をつける必要もありませんから」
「は、はいー!」
 
 ふわわわ! お、お互い名前呼びだよー!?
 シアン会長、いやさシアンさん! 僕のこともソウマくんって!!
 これもういけるんじゃないかな、いっていいんじゃないかな!? 僕、青春に手が届くんじゃないかなー!?
 
「今のうちに言っておくが早とちりするなよソウマくん」
「何考えてるのか丸わかりだけどソウマくん、こないだの先走った挙げ句の爆死を思い返せよソウマくん」
「なんとなく二人の物言いから察せるでござるが、ソウマ殿は前のめりな姿勢をもうちょい糾すべきかもでござるねー」
「ああああ何も言ってないのに総ツッコミいいいい」
 
 たぶん言われちゃうだろうなって気はしてたけど! サクラさんにまで言われるとは思わなかったからダメージはいつもの1.3倍だよー!?
 一瞬浮かれて勢いのままに告白まで行きそうになったけど、3人がかりの制止にどうにか我に返る。爆死呼ばわりは遺憾ながら、たしかにこの場面でそんな焦ってもろくな未来を迎えない気がしてならない。
 
 危ないところだったよー……友人達とサクラさんに感謝感謝。
 ふうーと胸を撫で下ろすと、シアンさんはまたクスクス笑って、僕達へと言った。
 
「本当に、昔からのご友人みたいに仲が良いですね……これでしたら、私の提案に皆さんも参加していただいたほうがいいかもしれません」
「て、提案?」
「ええ」
 
 そこで一度切ってから、シアンさんは真剣な眼差しを向けてくる。
 強い想いの籠もった眼差しだ。彼女はそして、その瞳のままに僕へと提案したのだった。
 
「ソウマくん。私の構想する、新しい大迷宮深層調査戦隊に入りませんか?」