罪とするところが根本的にズレていた。レイアの言うことが今ならよく分かる。
孤児院と調査戦隊を比べたことなんかじゃない。そもそも調査戦隊を仲間とさえ思っていなかった。大切なものだと思ってこそいたけど、それでも信頼する相手とも、相談できる人達とも思ってなかったんだ。
あれだけ絆を掲げていたみんなに対して。僕も、その輪の中にいたのに。僕こそが誰よりも、絆を軽んじていたんだ。
その結果が今のこれ。僕は独り善がりにすべてを壊して、そしてその糾弾のため、3年の時を経てレイアが目の前にいる。
「僕、僕は……なんて、ことを。そんな、つもりじゃなかった。なかったのに、なんで、なんで」
大事だった。大切だった。そのつもりだった。
……所詮つもりはつもり、だった。結局僕は誰一人、何一つ本当の意味では大事じゃなかった。
だから平気な顔をしてみんなに告げない、それで僕だけ抜ければすべて丸く収まる、なんて考えていたんだ。
なんてことをしてしまったんだ。
ここまで言われてようやく理解した僕の、本当の罪。その真実に頭の中がグチャグチャになる中で、レイアはけれど、静かにつぶやいた。
すべてを飲み込んだ、そんな微笑みで。
「ソウくん、聞いて。私達はお互い、罪を犯した」
「あ……う、う」
「ソウくんは私達になんの相談もしてくれなかった。一緒に悩もうとも、抱えようとも、解決しようとも言ってくれなかった。そして私達は、それを言わせなかった。みんな口先だけで君に絆を持ちかけて、理解させたつもりになって、いい気になって君のことを一つも理解しようとしなかった」
「そんなことっ! ぼ、僕は、僕が」
「真実だよ。これが調査戦隊の真実。絆なんて嘯いて、それを人の事情も斟酌せずに押し付けて……上っ面の、薄っぺらなものを大事にしてしまった結果、本当に重要なことを見落とした末に自滅した愚かな集団。それが大迷宮深層調査戦隊なんだ」
「…………!!」
あまりにも自虐に走るレイアに、何も言えない。その資格がない。
彼女にここまで言わせたのは僕だ。言いわけのしようがない。絆の英雄に、誰よりも仲間を愛した人に、それらを上っ面の薄っぺらだとまで言わせてしまった。
あまりにも申しわけない。血の気が引くとともに歪む視界、潤む地面を見下ろす僕に、けれど、と彼女の声が響いた。
「────けれど。私はようやくだけど気づいた。ソウくんも、時間がかかったけど分かってくれたと思う。なら、ここからやり直せる」
「……やり、なおす?」
「調査戦隊じゃない。絆の英雄とかレジェンダリーセブンとかでもない。レイア・アールバドとソウマ・グンダリはお互い、ようやくリスタート地点に立てたんだ。すべてを知って、過ちを悔いて。それでようやく私達は0に戻れたんだよ」
その声の明るさが、ひどく場違いに思えた。涙を拭いて顔を上げれば、少し離れたところには笑顔。
太陽よりも眩しくて、花のように可憐で。あの頃たしかに憧れた、レイアの笑顔がそこにあったんだ。
「やり直そう! お互い、みんなひっくるめてもう一度ゼロから! ついに地下世界にも到達できたし、冒険はむしろここからが本番だよー!?」
「レイア……な、何を言って」
「暗い話はここまでって言ってるの! ここからは未来の、明るい話をするんだ! ──未来に進もう! 後ろ向きでも、俯いていても雨が降っていても。私達の時間はいつだって明日に向かっているんだ!! だったら私達は雨に打たれてもなお、地獄の底にあってもなお、明日を夢見て生きていくことができる!!」
力強い言葉。過去に立ち返り、振り返り、そして後悔して反省した彼女の、どこまでも突き抜ける蒼天のような声。
僕に、調査戦隊に勧誘してきた時のようだ……あの時も僕はこうして、彼女を見上げ、彼女はこうして、笑っていた。
「絆の英雄の言う通りだぜ、杭打ちー!」
「ちょっとくらいの行き違いで思い詰めてんじゃねえよ、それでも冒険者かー!?」
「ソウマさん、ソウマさんならきっとやり直せるよ!」
「つーか化け物みてーに強いくせして何凹んでんだ! 万年底辺冒険者舐めてんのか、あーっ!?」
周囲の冒険者達からも飛んでくる、野次……めいた声援。
いやもうほとんど野次なんだけどさ。それでも僕に対して、エールを贈ってくれているのが分かる。
「ソウマくん! 君は真面目すぎるんだ、もう少し楽に考えると良い!」
「そうよ、ソウマくん……人は何度だってやり直せる。私達古代文明人も、そうやってどうにか後世に何かを残せた」
「とりあえず目の前の英雄ぶっ飛ばせでござる! なんかさっきからドヤ顔で説教垂れてるの腹立つでござる! ござござ!」
「えぇ……?」
新世界旅団の仲間達からも、温かい言葉が投げかけられる。一人を除いて。
いやいや、サクラさん怖いよー……レイアの態度に腹立ててるよー、案外血の気多いよー……
孤児院と調査戦隊を比べたことなんかじゃない。そもそも調査戦隊を仲間とさえ思っていなかった。大切なものだと思ってこそいたけど、それでも信頼する相手とも、相談できる人達とも思ってなかったんだ。
あれだけ絆を掲げていたみんなに対して。僕も、その輪の中にいたのに。僕こそが誰よりも、絆を軽んじていたんだ。
その結果が今のこれ。僕は独り善がりにすべてを壊して、そしてその糾弾のため、3年の時を経てレイアが目の前にいる。
「僕、僕は……なんて、ことを。そんな、つもりじゃなかった。なかったのに、なんで、なんで」
大事だった。大切だった。そのつもりだった。
……所詮つもりはつもり、だった。結局僕は誰一人、何一つ本当の意味では大事じゃなかった。
だから平気な顔をしてみんなに告げない、それで僕だけ抜ければすべて丸く収まる、なんて考えていたんだ。
なんてことをしてしまったんだ。
ここまで言われてようやく理解した僕の、本当の罪。その真実に頭の中がグチャグチャになる中で、レイアはけれど、静かにつぶやいた。
すべてを飲み込んだ、そんな微笑みで。
「ソウくん、聞いて。私達はお互い、罪を犯した」
「あ……う、う」
「ソウくんは私達になんの相談もしてくれなかった。一緒に悩もうとも、抱えようとも、解決しようとも言ってくれなかった。そして私達は、それを言わせなかった。みんな口先だけで君に絆を持ちかけて、理解させたつもりになって、いい気になって君のことを一つも理解しようとしなかった」
「そんなことっ! ぼ、僕は、僕が」
「真実だよ。これが調査戦隊の真実。絆なんて嘯いて、それを人の事情も斟酌せずに押し付けて……上っ面の、薄っぺらなものを大事にしてしまった結果、本当に重要なことを見落とした末に自滅した愚かな集団。それが大迷宮深層調査戦隊なんだ」
「…………!!」
あまりにも自虐に走るレイアに、何も言えない。その資格がない。
彼女にここまで言わせたのは僕だ。言いわけのしようがない。絆の英雄に、誰よりも仲間を愛した人に、それらを上っ面の薄っぺらだとまで言わせてしまった。
あまりにも申しわけない。血の気が引くとともに歪む視界、潤む地面を見下ろす僕に、けれど、と彼女の声が響いた。
「────けれど。私はようやくだけど気づいた。ソウくんも、時間がかかったけど分かってくれたと思う。なら、ここからやり直せる」
「……やり、なおす?」
「調査戦隊じゃない。絆の英雄とかレジェンダリーセブンとかでもない。レイア・アールバドとソウマ・グンダリはお互い、ようやくリスタート地点に立てたんだ。すべてを知って、過ちを悔いて。それでようやく私達は0に戻れたんだよ」
その声の明るさが、ひどく場違いに思えた。涙を拭いて顔を上げれば、少し離れたところには笑顔。
太陽よりも眩しくて、花のように可憐で。あの頃たしかに憧れた、レイアの笑顔がそこにあったんだ。
「やり直そう! お互い、みんなひっくるめてもう一度ゼロから! ついに地下世界にも到達できたし、冒険はむしろここからが本番だよー!?」
「レイア……な、何を言って」
「暗い話はここまでって言ってるの! ここからは未来の、明るい話をするんだ! ──未来に進もう! 後ろ向きでも、俯いていても雨が降っていても。私達の時間はいつだって明日に向かっているんだ!! だったら私達は雨に打たれてもなお、地獄の底にあってもなお、明日を夢見て生きていくことができる!!」
力強い言葉。過去に立ち返り、振り返り、そして後悔して反省した彼女の、どこまでも突き抜ける蒼天のような声。
僕に、調査戦隊に勧誘してきた時のようだ……あの時も僕はこうして、彼女を見上げ、彼女はこうして、笑っていた。
「絆の英雄の言う通りだぜ、杭打ちー!」
「ちょっとくらいの行き違いで思い詰めてんじゃねえよ、それでも冒険者かー!?」
「ソウマさん、ソウマさんならきっとやり直せるよ!」
「つーか化け物みてーに強いくせして何凹んでんだ! 万年底辺冒険者舐めてんのか、あーっ!?」
周囲の冒険者達からも飛んでくる、野次……めいた声援。
いやもうほとんど野次なんだけどさ。それでも僕に対して、エールを贈ってくれているのが分かる。
「ソウマくん! 君は真面目すぎるんだ、もう少し楽に考えると良い!」
「そうよ、ソウマくん……人は何度だってやり直せる。私達古代文明人も、そうやってどうにか後世に何かを残せた」
「とりあえず目の前の英雄ぶっ飛ばせでござる! なんかさっきからドヤ顔で説教垂れてるの腹立つでござる! ござござ!」
「えぇ……?」
新世界旅団の仲間達からも、温かい言葉が投げかけられる。一人を除いて。
いやいや、サクラさん怖いよー……レイアの態度に腹立ててるよー、案外血の気多いよー……