結局サクラさんは今回、先日の件の謝罪と僕への挨拶をしに、わざわざ部室にまで来てくださったみたいだった。
まだ他にも話したいことはあるでござるけどー、と言いながらも立ち上がる彼女を、僕はキョトンと見上げた。
「急に乗り込んできてあれこれ矢継ぎ早に話すのも不躾でござろ? また後日、こちらの部室か冒険者ギルドでお見かけしたときには他のことについても話すでござるよ」
「あ、はい。分かりました」
「ちなみに拙者はここの学校の生徒会の副顧問でもあるゆえ、そちらから会いに来てくださるならいつでも生徒会室を訪ねてくれるといいでござるよー」
「あ、いえ。それは止めときますー」
生徒会室って生徒会長いるじゃん……僕の一度目の初恋の人じゃん……
入学式で見た姿に即一目惚れした僕を、即オーランドくんと目の前で楽しげに話し始めたことで即失恋させるに至った何もかもが即時即殺なスピードスター生徒会長。
割とマジで過去一の美女だったけど、だからこそ僕なんかが懸想するなんてそもそもおこがましい相手だったのだ。
ちなみに生徒会長については、僕の他にも似たような感じで即一目惚れして即失恋した男子学生がわんさかいて今ではモテないくんグループとしてたまに慰労会をする仲だ。
僕と同学年である以上、必然的にオーランドくんの被害者という仲間意識を持つ他ないからね!
脳味噌を粉砕された仲間として強い絆で結ばれた集まりなものの、そもそもそんなことで集うなよって感じもみんな自覚しているため集まる頻度はそこまで高くはない。
集まったところで辛気くさい話しかできないからねー……あっ涙出そう。
「急に目を潤ませてどうしたでござるか……え、拙者と離れるの嫌でござるの? ちょっと惚れっぽすぎやせぬでござる?」
「あ、いえこれはちがくて、でもサクラさん美人だしお付き合いしたい気持ちはあります!!」
「いや拙者特別講師でござるし。生徒とそういうのはちょっと……」
「ああああモラルの壁ええええ」
ぐうの音も出ない! 人間はそういうの大事にするんだよねー、もう!
はいはい11度目の失恋ですー! あー! あー! なんか叫びたいなー! あー!
「ほれ見たことかソウマくん! 言わんこっちゃない!」
「3日ぶり11回目、これはひどい……」
「ううううううううー! うえええええええー!!」
ケルヴィンくんとセルシスくんが庇うようにひしと抱き着いてくるけどなんにも嬉しくないー!
そして3日ぶりって言うなよジュリアちゃんのこと思い出して余計ダメージくらうだろー! うあー!!
机に突っ伏して泣く僕と、僕を庇ってくれるけど夏だし密着するのは暑苦しいからやめてほしいケルヴィンくんとセルシスくん。
馬鹿三人組としか言いようのない我ながら酷いものを披露してしまってるけど、サクラ先生は呆れたため息を吐きながらけれど、優しい声色でそんな僕らに声をかけてくれた。
「別に嫌いとは言ってないでござるよ、ソウマ殿」
「うえ……?」
「さっき言ったでごさるが拙者は講師でござるから、生徒とそういうのは無理でござる。ただ、今回についてはそういう理由なだけでソウマ殿個人についてはむしろ好感が持てると思ってるでござるよー」
「……うええ!?」
ま、まさかのお言葉! そそそそれってつまり、立場的に駄目なだけでそれがなければ行けるってことー!?
バッと身を起こしてサクラさんを見る。絶望から希望、あまりの移り変わりの速さに見るからに苦笑を浮かべている彼女は、不意に僕の頭に掌を載せてきた。
小さい、けれど温かくて柔らかい掌。
「ソウマ殿について、いろいろな人から話を聞いてある程度、どういう状況にあるのか知っている拙者だからこそ言わせてもらうでござるが……お主はもっとたくさん、恋をするべきでござるよ」
「え、えぇ……?」
「実るにせよ実らぬにせよ、あるいは別の形に落ち着くにせよ。その経験がきっとソウマ殿を豊かにしてくれるでござる」
僕のことを……ソウマ・グンダリという一個人を見て言ってくれているのが伝わってくる、とても優しい眼差し。
オーランドくんやリンダ先輩にキレていたのと同じ目なのこれ? ってくらい柔らかな慈愛を湛えた瞳が、僕をまっすぐに捉える。
恋をしなさい、実るかどうかはさておいて。
そう告げる彼女はそして、いたずらげに笑って言うのだった。
「拙者は……そうさなあ。ソウマ殿がたくさんの経験を得て、たくさん素敵な思い出を得て。そうして素敵な学園生活を過ごしていくのを見守りたいでござるねー。お主の歩む、かけがえのないこの3年という青春を、でござるなー」
「え。って、てことはもし、素敵な学園生活ってのを過ごした上で僕が好きって言ったら……」
「ん……その時はしっかり受け止めて、考えさせてもらうでござるよ。生徒としてでなく、一人の人間として」
「…………!!」
ふぉおおおおっ!! これっ、これは好感触なんじゃないかでござるよー!?
まさかの条件達成までチャンス据え置き! これはまたとないアピールチャンスではないでしょうか!?
「ケルヴィンくん! セルシスくん! 青春を楽しめたら僕にも春が!!」
「ハハハ、良かったなソウマくん。これほどの美人がそうなるまでにフリーでいるとも思わないけどな」
「ははは、なんなら今この時点でも実はちゃんとパートナーの人がいて君をあしらってるだけの可能性だって大いにあるぞソウマくん」
「ああああどーしてそういうこと言うのおおおお!?」
あしらわれているだけなんてそんなことは分かってるよー! ちょっとくらい夢見せろよー!!
どこまでも現実を突き付けてくる悪友二人に、僕はやはりうがー! と叫ぶのだった!
まだ他にも話したいことはあるでござるけどー、と言いながらも立ち上がる彼女を、僕はキョトンと見上げた。
「急に乗り込んできてあれこれ矢継ぎ早に話すのも不躾でござろ? また後日、こちらの部室か冒険者ギルドでお見かけしたときには他のことについても話すでござるよ」
「あ、はい。分かりました」
「ちなみに拙者はここの学校の生徒会の副顧問でもあるゆえ、そちらから会いに来てくださるならいつでも生徒会室を訪ねてくれるといいでござるよー」
「あ、いえ。それは止めときますー」
生徒会室って生徒会長いるじゃん……僕の一度目の初恋の人じゃん……
入学式で見た姿に即一目惚れした僕を、即オーランドくんと目の前で楽しげに話し始めたことで即失恋させるに至った何もかもが即時即殺なスピードスター生徒会長。
割とマジで過去一の美女だったけど、だからこそ僕なんかが懸想するなんてそもそもおこがましい相手だったのだ。
ちなみに生徒会長については、僕の他にも似たような感じで即一目惚れして即失恋した男子学生がわんさかいて今ではモテないくんグループとしてたまに慰労会をする仲だ。
僕と同学年である以上、必然的にオーランドくんの被害者という仲間意識を持つ他ないからね!
脳味噌を粉砕された仲間として強い絆で結ばれた集まりなものの、そもそもそんなことで集うなよって感じもみんな自覚しているため集まる頻度はそこまで高くはない。
集まったところで辛気くさい話しかできないからねー……あっ涙出そう。
「急に目を潤ませてどうしたでござるか……え、拙者と離れるの嫌でござるの? ちょっと惚れっぽすぎやせぬでござる?」
「あ、いえこれはちがくて、でもサクラさん美人だしお付き合いしたい気持ちはあります!!」
「いや拙者特別講師でござるし。生徒とそういうのはちょっと……」
「ああああモラルの壁ええええ」
ぐうの音も出ない! 人間はそういうの大事にするんだよねー、もう!
はいはい11度目の失恋ですー! あー! あー! なんか叫びたいなー! あー!
「ほれ見たことかソウマくん! 言わんこっちゃない!」
「3日ぶり11回目、これはひどい……」
「ううううううううー! うえええええええー!!」
ケルヴィンくんとセルシスくんが庇うようにひしと抱き着いてくるけどなんにも嬉しくないー!
そして3日ぶりって言うなよジュリアちゃんのこと思い出して余計ダメージくらうだろー! うあー!!
机に突っ伏して泣く僕と、僕を庇ってくれるけど夏だし密着するのは暑苦しいからやめてほしいケルヴィンくんとセルシスくん。
馬鹿三人組としか言いようのない我ながら酷いものを披露してしまってるけど、サクラ先生は呆れたため息を吐きながらけれど、優しい声色でそんな僕らに声をかけてくれた。
「別に嫌いとは言ってないでござるよ、ソウマ殿」
「うえ……?」
「さっき言ったでごさるが拙者は講師でござるから、生徒とそういうのは無理でござる。ただ、今回についてはそういう理由なだけでソウマ殿個人についてはむしろ好感が持てると思ってるでござるよー」
「……うええ!?」
ま、まさかのお言葉! そそそそれってつまり、立場的に駄目なだけでそれがなければ行けるってことー!?
バッと身を起こしてサクラさんを見る。絶望から希望、あまりの移り変わりの速さに見るからに苦笑を浮かべている彼女は、不意に僕の頭に掌を載せてきた。
小さい、けれど温かくて柔らかい掌。
「ソウマ殿について、いろいろな人から話を聞いてある程度、どういう状況にあるのか知っている拙者だからこそ言わせてもらうでござるが……お主はもっとたくさん、恋をするべきでござるよ」
「え、えぇ……?」
「実るにせよ実らぬにせよ、あるいは別の形に落ち着くにせよ。その経験がきっとソウマ殿を豊かにしてくれるでござる」
僕のことを……ソウマ・グンダリという一個人を見て言ってくれているのが伝わってくる、とても優しい眼差し。
オーランドくんやリンダ先輩にキレていたのと同じ目なのこれ? ってくらい柔らかな慈愛を湛えた瞳が、僕をまっすぐに捉える。
恋をしなさい、実るかどうかはさておいて。
そう告げる彼女はそして、いたずらげに笑って言うのだった。
「拙者は……そうさなあ。ソウマ殿がたくさんの経験を得て、たくさん素敵な思い出を得て。そうして素敵な学園生活を過ごしていくのを見守りたいでござるねー。お主の歩む、かけがえのないこの3年という青春を、でござるなー」
「え。って、てことはもし、素敵な学園生活ってのを過ごした上で僕が好きって言ったら……」
「ん……その時はしっかり受け止めて、考えさせてもらうでござるよ。生徒としてでなく、一人の人間として」
「…………!!」
ふぉおおおおっ!! これっ、これは好感触なんじゃないかでござるよー!?
まさかの条件達成までチャンス据え置き! これはまたとないアピールチャンスではないでしょうか!?
「ケルヴィンくん! セルシスくん! 青春を楽しめたら僕にも春が!!」
「ハハハ、良かったなソウマくん。これほどの美人がそうなるまでにフリーでいるとも思わないけどな」
「ははは、なんなら今この時点でも実はちゃんとパートナーの人がいて君をあしらってるだけの可能性だって大いにあるぞソウマくん」
「ああああどーしてそういうこと言うのおおおお!?」
あしらわれているだけなんてそんなことは分かってるよー! ちょっとくらい夢見せろよー!!
どこまでも現実を突き付けてくる悪友二人に、僕はやはりうがー! と叫ぶのだった!