生命を弄び、結界自らが生み出したモノに追い詰められ、滅びを迎えることとなった古代文明。
レリエさんの悲嘆のこもったつぶやきを、誰もが気の毒に見るしかできない。たしかに古代文明の人達の自業自得なんだろうけど、今ここにいるレリエさんやヤミくんヒカリちゃん、マーテルさんには直接関係のないことだ。
滅びから逃れるために何万年もの時を超えてきた彼女達は、今や現代を生きる僕らの同胞だよー。
そんな思いで見ていると、レイアは次いで説明を続けた。
「ともかく、生み出されたソレらは圧倒的なスピードをもって繁殖、増殖を繰り返し、瞬く間に古代文明世界を埋め尽くしました。人類はそれをもって、決定的な滅亡を迎えたわけですね」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
決定的な滅亡。そう聞いてびっくりして声を上げたのがレオンくんだ。
僕もびっくりだよー……人類なら今ここにいるじゃん。今ここにある世界に生きる人間達こそ、なんのかんので生き延びた古代文明人がどうにかこうにか繋げてきたものなんじゃないのー?
「人類が滅んだって、それじゃ今ここにいる俺達はなんなんです? 人類じゃないっていうんですか?」
「いえ、あなた方は人類ですよ、間違いなく……古代文明にとっての最後の希望。それが結実した結果の今。そしてあなた達なんです」
「ちんぷんかんぷんでござるー」
もったいぶる話しぶり。レイアめー、ちょっとネタバラシを楽しんでるだろー!
レオンくんはもちろんのこと、サクラさんだって頭に疑問符を浮かべて首を傾げている。古代文明は滅んだけど僕らは人類。彼らにとっての希望の結実、と。
意味わかんないー。早く説明しろー。
急かすようにレイアを見て唇を尖らせて不満を示すと、彼女は苦笑いとともにやがて、おもむろに語る。
最後の希望。その意図するところを。
「……滅びを迎えることが確定した古代文明人は、せめて人類が残るようにと塔を立てました。世界各地に何本も何本も、天高く、空をも突き抜けるほどに高い塔をね」
「塔……」
「そしてその塔同士を連結させて、ある種のバリアを張ったんです。空から降ってくるあらゆるものをそこで受け止めて堆積する、星そのものを覆う膜という感じですね」
星を覆う、膜……イメージとしてはなんとなく思い浮かぶものがある。球形状のこの星に、大きな袋を覆い被せたって感じだろうか。
でもなんでそんなことを? 膜なんて張っても、神に対してはなんにもならないんじゃないのかなあ?
僕は疑問に思ったけれど、さりとてそうしてる間にも説明は続く。
ひとまずは全部聞き終えてから尋ねることにしよう。もしかしたら後になって膜の秘密が話されるかもだし。いわゆる伏線回収ってやつかなー?
「そして残った人類はみな、その塔に逃げ込んだのです……人類が土壇場で作ることに成功したシェルターとしての、古代文明最後の希望」
「神から逃げ遂せたと言うのか? できたとも思えんが……」
「世界を滅ぼした神も巨大化していたとはいえ、その塔の頂上にまでは届きませんでした。人類にとっては不幸中の幸い、というにはあまりにも遅きに失した話ですけど」
ベルアニーさんによる疑問にも余裕を持って首を横に振る。このへんの質疑応答はしっかり予想してたみたいだね。あるいは彼女自身、過去に疑問視していたのかもしれない。
世界を滅ぼすほどの厄災が、たかだか塔の100や200くらいどうとでもできなかったんだろうか? その答えは、ある意味当たり前といえば当たり前の理由にこそあった。
「早い話、神には飛行能力がなく、ただ捕食できる地上生物を求めるだけの獣に等しかったんです。加えて塔そのものが極めて強固だったというのもあり、突破することができなかった。単純な話ですね」
「塔の強度はともかく、空を飛べなかった? 神というほどならばそのくらいは……いえ。そういうことですか」
納得したようにレイアに理解を示すシアンさん。
飛行能力がないことを訝しむのは彼女だけじゃなかったけれど、彼女は誰より先にそのことを納得したみたいだ。
神、なんて大層な呼ばれ方をしてるのに空も飛べないなんて……と、僕も不思議に思うけど、シアンさんには何かしら理解できるとこがあったんだろう。
彼女は神妙に目を閉じ、諳んじるように自らの考察を口にした。
「結局ソレは本当の神、全知全能たるものなどではなくあくまでも"神"と古代文明に呼称されていたモノに過ぎない、と。客観的に見れば単なる生物の一種に過ぎないのですね」
「うん、そういうことだよシアンさん。神と呼んだモノに追い詰められて滅ぼされた古代文明は、けれど最後の最後、決定的な絶滅だけには抗えたんだ……他ならぬその神の、生物としての不完全性がゆえにね」
なるほど、神って言っても本物じゃないし、当然できることできないこともあるってことか。
そしてそのできないことゆえに古代文明人は、ひいては人類は絶滅を免れたと。なんて綱渡りだったんだかねー、まったく!
レリエさんの悲嘆のこもったつぶやきを、誰もが気の毒に見るしかできない。たしかに古代文明の人達の自業自得なんだろうけど、今ここにいるレリエさんやヤミくんヒカリちゃん、マーテルさんには直接関係のないことだ。
滅びから逃れるために何万年もの時を超えてきた彼女達は、今や現代を生きる僕らの同胞だよー。
そんな思いで見ていると、レイアは次いで説明を続けた。
「ともかく、生み出されたソレらは圧倒的なスピードをもって繁殖、増殖を繰り返し、瞬く間に古代文明世界を埋め尽くしました。人類はそれをもって、決定的な滅亡を迎えたわけですね」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
決定的な滅亡。そう聞いてびっくりして声を上げたのがレオンくんだ。
僕もびっくりだよー……人類なら今ここにいるじゃん。今ここにある世界に生きる人間達こそ、なんのかんので生き延びた古代文明人がどうにかこうにか繋げてきたものなんじゃないのー?
「人類が滅んだって、それじゃ今ここにいる俺達はなんなんです? 人類じゃないっていうんですか?」
「いえ、あなた方は人類ですよ、間違いなく……古代文明にとっての最後の希望。それが結実した結果の今。そしてあなた達なんです」
「ちんぷんかんぷんでござるー」
もったいぶる話しぶり。レイアめー、ちょっとネタバラシを楽しんでるだろー!
レオンくんはもちろんのこと、サクラさんだって頭に疑問符を浮かべて首を傾げている。古代文明は滅んだけど僕らは人類。彼らにとっての希望の結実、と。
意味わかんないー。早く説明しろー。
急かすようにレイアを見て唇を尖らせて不満を示すと、彼女は苦笑いとともにやがて、おもむろに語る。
最後の希望。その意図するところを。
「……滅びを迎えることが確定した古代文明人は、せめて人類が残るようにと塔を立てました。世界各地に何本も何本も、天高く、空をも突き抜けるほどに高い塔をね」
「塔……」
「そしてその塔同士を連結させて、ある種のバリアを張ったんです。空から降ってくるあらゆるものをそこで受け止めて堆積する、星そのものを覆う膜という感じですね」
星を覆う、膜……イメージとしてはなんとなく思い浮かぶものがある。球形状のこの星に、大きな袋を覆い被せたって感じだろうか。
でもなんでそんなことを? 膜なんて張っても、神に対してはなんにもならないんじゃないのかなあ?
僕は疑問に思ったけれど、さりとてそうしてる間にも説明は続く。
ひとまずは全部聞き終えてから尋ねることにしよう。もしかしたら後になって膜の秘密が話されるかもだし。いわゆる伏線回収ってやつかなー?
「そして残った人類はみな、その塔に逃げ込んだのです……人類が土壇場で作ることに成功したシェルターとしての、古代文明最後の希望」
「神から逃げ遂せたと言うのか? できたとも思えんが……」
「世界を滅ぼした神も巨大化していたとはいえ、その塔の頂上にまでは届きませんでした。人類にとっては不幸中の幸い、というにはあまりにも遅きに失した話ですけど」
ベルアニーさんによる疑問にも余裕を持って首を横に振る。このへんの質疑応答はしっかり予想してたみたいだね。あるいは彼女自身、過去に疑問視していたのかもしれない。
世界を滅ぼすほどの厄災が、たかだか塔の100や200くらいどうとでもできなかったんだろうか? その答えは、ある意味当たり前といえば当たり前の理由にこそあった。
「早い話、神には飛行能力がなく、ただ捕食できる地上生物を求めるだけの獣に等しかったんです。加えて塔そのものが極めて強固だったというのもあり、突破することができなかった。単純な話ですね」
「塔の強度はともかく、空を飛べなかった? 神というほどならばそのくらいは……いえ。そういうことですか」
納得したようにレイアに理解を示すシアンさん。
飛行能力がないことを訝しむのは彼女だけじゃなかったけれど、彼女は誰より先にそのことを納得したみたいだ。
神、なんて大層な呼ばれ方をしてるのに空も飛べないなんて……と、僕も不思議に思うけど、シアンさんには何かしら理解できるとこがあったんだろう。
彼女は神妙に目を閉じ、諳んじるように自らの考察を口にした。
「結局ソレは本当の神、全知全能たるものなどではなくあくまでも"神"と古代文明に呼称されていたモノに過ぎない、と。客観的に見れば単なる生物の一種に過ぎないのですね」
「うん、そういうことだよシアンさん。神と呼んだモノに追い詰められて滅ぼされた古代文明は、けれど最後の最後、決定的な絶滅だけには抗えたんだ……他ならぬその神の、生物としての不完全性がゆえにね」
なるほど、神って言っても本物じゃないし、当然できることできないこともあるってことか。
そしてそのできないことゆえに古代文明人は、ひいては人類は絶滅を免れたと。なんて綱渡りだったんだかねー、まったく!