【完結】ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─

 突然現れたレジェンダリーセブンが一角、ウェルドナーさんとその部下達によって次々、王城の者達が捕縛されていく。
 衛兵も、貴族も王族もお構いなしだよー……これってまさか、革命とかクーデターとかってやつ? 思ってたよりも過剰な動きに、思わず僕もビビっちゃうよー。

 と、そんなウェルドナーさんのすぐ近くにまた一人、知り合いが現れた。巨大な槍を振るって貴族達を軽く吹き飛ばしていく、まるで縦横無尽の嵐。
 先日会ったカイン・ロンディ・バルディエートさんその人が、王城制圧がされていく中で再び姿を見せていたんだ。

「やあ、我が友。数日ぶりだね?」
「カインさんも……」
「結局来たの? 二人とも。住民の避難はどうなったの?」
「万事恙無く。ベルアニーさん率いる冒険者ギルドともうまく連携できましたよ」

 レイアが呆れたような素振りで二人に問いを投げ、そしてウェルドナーさんとカインさんはそれにしれっと答えを返す。至って自然なやり取りで、そこにさしたる感情はない。
 本当に、レイアさえ想定してない動きをこの2人がしていたならば彼女はもっと怒っているだろう。

 つまりはこれ、少なくとも流れとしてはそこまで予定を外しているわけでもないってことになるんじゃないかな。
 最初からこの3人は、エウリデに戻るとなった時点でこの現状に近い絵を描いていたんだ……エウリデ王族および貴族を確保して、事実上国政を掌握する絵を。
 
「ぐううっ離せっ! 愚か者め、余を誰だと心得ている!?」
「お山の大将。そして不倶戴天の敵……ってところかね? 少なくともアンタを敬うなんぞする気は一つもない」
「右に同じ。敬われるには徳ってものが、あまりに足りてなかったよあなた方は」

 ウェルドナーさんの鞭に拘束されたままそれから逃れようと身を捩らせ、エウリデ王が叫ぶ。己の権威権勢の一切通じない武力の前になすすべのない姿は、いっそ哀しみさえ感じさせるものだよー。
 そんな彼に、カインさんも相応に冷たい。貴族であるはずの彼をしてさえ、今のエウリデはもはや忠義を捧げるに値しないってことか。

「…………どうにも複雑ですね、貴族としては」
「騎士としても複雑だ。主君だった方の、終わりをこうして見ることになるとは」

 一方でシアンさんやシミラ卿の表情はすごく複雑そうだよー。そりゃそうか、自分達や自分達の家が王と仰いでいた男が今、思い切り追い詰められてるんだもんね。
 でも止めたりはしないあたり、二人も納得というか区切りはつけてるんだろう。冒険者として、あるいは処刑寸前まで貶められた元騎士団長として……彼女らにとってもエウリデ王は、許せるラインを超えたって考えても良いのかも知れない。
 
 レイアが今や囚われとなった王を見下ろし、静かに告げた。
 
「ラストシーン・ギールティ・エウリデ……あなたには今後、民に主権を譲るための法整備を整えていってもらいます。長い年月をかけてゆっくりと、民達に権利意識を浸透させていくのです。広く国民が参加できる議会もじき、作ってください」
「……バカな、民主主義だと!? ふざけるな、愚民どもになぜこの国を、余のエウリデをくれてやらねばならん!? やつらはあくまで余の所有物なのだぞッ!」

 まさかの宣言に叫ぶエウリデ王の、気持ちを今回ばかりは僕も理解するよ。シアンさんもサクラさんもシミラ卿も、リューゼさえも目を丸くしてレイアを見ている。もちろん僕もだ。

 民主主義──王族貴族だけでなく、あまねく一般市民まで含めたあらゆる民に平等に政治参画権を与える国制度、だったかな。
 たしかそれこそリューゼがクーデターに参加したカミナソールが今や民主制国家として動き出しているはずだよー。エウリデもあの国同様、王国民すべてに政治に参加するチャンスを与える国にさせようって言うの?

「あなたが名君なればまだしも、愚にもつかない無能であればこそです。民主主義にも問題はありましょうが、少なくともあなたやあなたの子孫に揃ってひれ伏すよりははるかにマシだと信じます」
「あんた曰くの愚民よりも愚かなんだよ、あんたらは。認めるんだな」
「…………バカなァァァァァァッ!?」

 断末魔じみた叫びも、こうなると誰一人としてまともに相手するものはいない。
 ラストシーン・ギールティ・エウリデ。その名はおそらく歴史に残るだろうね。連合王国だったエウリデの、主権を国民に譲渡する動きを示した王として。

 あるいはエウリデ王国における最後の王としてさえ、語られるようになるかも知れない。
 それが名君として語られるのか、あるいは暴君としてか。そこは知らないし後世の歴史家次第なんだろうけど……今ここにいる僕に言えそうなことはたった一つ。

 今日、この場、この時において。
 エウリデ連合王国が決定的な転機を迎えたのだろうということだけだよー。
 事実上の傀儡政権。冒険者によるクーデターが今、なしくずし的ではあれど成功しちゃった缶がある。
 捕縛されたエウリデ王は今後、王とは名ばかりの存在に過ぎなくなる。レイアはじめそれを望む冒険者達によって偽りの玉座に座り、どれだけ時間がかかるかは分からないけれど国民に主権を移すための法整備、国政制度を整えていくんだ。

 カミナソールに続き、民主主義へと向かうのだ。
 少しずつ 少しずつ国民に政治意識を浸透させて、参政への意欲を高めさせることでいつか、それが花開くんだ。
 シアンさんが唖然としつつもつぶやいた。

「民主主義……それを本当に、この国に導入する、と?」
「何世代もかけて、長い話になるだろうけどね。結局今の民達もなんだかんだと王族貴族に従って生きてきた以上、一朝一夕には政治体制を変えることはできないからさ」

 独り言だったろうそれを拾ったのは当のレイアだ。愕然とするシアンさんを見て微笑みつつ、ハッキリとした意志と言葉で応える。

 まさにお貴族様でもあるシアンさんにとって、今でなくともいつか国制が国民主体になっていくってのはどうにも受け入れづらいところはあるだろう。それは当然だよー。
 彼女に限らずそういう人達はきっと、貴族や市民の中にも大勢いて……

 そうした人達のことも考えてレイアは、急速な変革ではなくゆっくり、少しずつ世の中を変えようというんだろうねー。
 朗らかな笑顔とともに、シアンさんへと続けて語りかける。

「少しずつ、人々の意識を変える方向にエウリデにはなっていってもらえればなって思うよ……ええとシアンさん、だっけ」
「! ……レイア・アールバドさん」

 向き直るレイアとシアンさん。ちょっとお互い距離のある、けれど微笑みあったまま視線を合わせている。
 ……なんだろう、この緊張感。ちょっと怖いよー?

 心なしか周囲の人達が何歩か後退しているし、僕も倣い下がろうとする。
 ところがそれを遮るかのようにレイアが発した第一声は、他ならぬ僕の名前だったんだからたまんないよー。

「ソウくんがお世話になってるみたいだね。新世界旅団……なんか悔しいかも」
「えっ」
「ソウくんを立ち直らせるの、私の役目だと思ってたんだけどなあ。勝手によそに女作って、勝手に立ち直ってるなんてショックー。結局私ってばもう、過去の女ってことなのかなー?」
「れ、レイア?」
「おりょ? 修羅場でござる? 修羅場でござるか? ごーざござござ!」

 あっ、なんかやばい気がしてきた! 逃げたい、逃げよう、でも逃げられなさそう!
 すごく人聞きの悪いことを言うレイアに、シアンさんは相変わらず無言で微笑んだまま。こっちもこっちで怖いよー。

 サクラさんはサクラさんで、面白がってへんてこな笑いを漏らしているし! 修羅場を喜ばないでよー!
 ござござ笑いのそんな彼女だったけど、それもレイアが反応するまでだった。サクラさんに視線を向けて、朗らかに言い放つ。

「あなたのことも聞いてますよサクラ・ジンダイさん……ワカバからね」
「ござござござ、ござっ!? え、姫が!?」
「ちゃっかりソウくんの隣に居座るとかズルいって、彼女言ってましたよ。あはは、今まさに私も感じてますよ。ずいぶん仲良しさんなんですねー?」

 声は笑ってるけど目は笑ってない。そんな笑顔でサクラさんをじっと見つめるレイア。
 えぇ……? そんなキャラじゃないでしょ、君ー。演技だろうけど、3年の空白期間に何かがあって本気でこんな顔を見せるようになった可能性もあるから判断がつかない。怖いよー。

 可哀想にサクラさんてば、ワカバ姉に陰口叩かれてたのと今のレイアの顔のダブルパンチですっかり硬直しちゃってる。特にワカバ姉が覿面みたいだ。あの人を敵に回すの怖いもんね、分かるよー。

「!? 誤解、誤解でござる!」
「あはは! いやあ愉快だねー新世界旅団って! これがソウくんの新しい仲間達かーあははー!」
「えぇ……?」

 慌てて居住まいを正して身の潔白を訴えるサクラさん。今までになく必死なその姿から、何やらこう、いかにワカバ姉に弱いかが伺えるよねー。
 で、レイアのほうは案の定というか、普通にジョークだったみたいでいつもの明るいレイアの笑顔に戻る。はあ、良かったよー。
 
 ……まあでも、新世界旅団を気に入ったっぽいのは本当みたいだ。仲間達を見る目は優しく温かい。
 シアンさん、サクラさん、そして僕。この場にはいないけどモニカ教授にレリエさんもだ。今の僕を支えてくれて、今の僕が守るべき仲間達。パーティメンバー。
 
 かつて彼女こそがその立ち位置だったんだ。レイアと目が合う。
 3年前に何度も見つめた青い瞳。誰よりも大切だった、僕の一番の友達で相棒だった人。
 今でも大事に思っているのは変わらないよ、たとえもう、そんな資格がなかったとしても。
 
 心を込めて見つめれば、彼女はそっと笑い返してくれる。
 久しぶりに見る、透き通った笑みだった。
 久しぶりの再会なのは何もレイアだけじゃない。カインさんとはこないだ会ったばかりだからそれはともかく、ウェルドナーさんのほうは本当にレイア同様、3年ぶりの顔合わせになる。
 茶髪の刈り上げルックスのマッチョ、彫りも深くてダンディなナイスミドル。それがウェルドナー・クラウン・バーゼンハイムさんだ。

 レイアにとっては実の叔父、そして調査戦隊から今に至るまで変わらず寄り添い続けて支えてきてくれた腹心中の腹心。
 そんな彼は当然だけど僕にはあまり、いい顔を向けはしないでいる。ていうか言っちゃうと若干不機嫌だよー。

「グンダリ……3年ぶりだな」
「ご、御無沙汰です、ウェルドナーさん」

 厳しい視線を向けてくる彼に、僕はなかなか視線を合わせられない。レイアと同じかそれ以上に僕を恨んでいるだろう人なんだ、どの面下げてって話だよ、ほんとー。
 正直、今この場で殴り飛ばされても一発二発は甘んじて受けようとさえ思うよ。それ以上になるとカウンター入れると思うけど、そこまでは彼に与えられて然るべき当然の権利だと思うし。

 ごくり、とつばを呑む。
 周囲もヒヤヒヤした感じで僕らを見てくる中、ウェルドナーさんはふう、と息を吐き、そして言った。

「お前の事情も分かってる。そこまで怒っちゃいない……まったく怒ってないわけでもないけどな」
「……ご迷惑をおかけしました。レイアも、ごめんなさい。僕は3年前、本当に取り返しの付かないことをしたと──」
「まあまあ! その話はまた後にしよ、ソウくん!」

 穏やかな顔つきのウェルドナーさんは、けれど瞳の奥には複雑な色を宿したままだ。いろいろ、我慢してくれてるんだよー。
 それが余計申しわけなく、僕は意を決して土下座でもなんでもして謝ろうと口を開いた。その矢先、レイアが割って入って僕に抱きついて制止してくる。

 至近距離にとんでもない美女の顔。
 普段の僕なら慌てるなり喜ぶなり浮かれるなりだけど、今この時ばかりはそんなリアクションを取ることもできずただ、彼女の顔をすぐ傍から見つめてつぶやくしかできない。

「レイア……いやでも、僕は」
「またまやらなきゃいけないことがあるからさ。ソウくんとの話はそこが一段落してからにしようよ。ねえ、叔父さん?」
「そうだな……俺もレイアも言いたいことは同じだ。全部片付けてからレイアとお前が腹を割って話して、改まった話はそれからにした方が良いさ。お互いにな」
「ウェルドナーさん……」

 化物を倒して、エウリデ王を捕らえて、この国が少しずつ変わっていく予感を抱かせて。それでもまだ、僕との決着は後にして、先にやらなきゃいけないようなことがあるんだろうか?
 ……レイア達がエウリデに舞い戻ってきた理由、それそのものに関することなんだろうね、きっと。

 是非もない。そもこの件については僕に意見する権利も資格もないんだ、彼女達の予定に沿って、今は話を聞くことにしよう。
 力なくも納得した僕を、一度優しく抱きしめてレイアは離れた。その際に何故かシアンさんとサクラさんを見て笑ってたけどなんなんだろう? 二人の顔がちょっと強張ってるし。こわいよー。
 ともあれ数歩分、距離を空けてレイアがウェルドナーさんへと告げた。 

「さてと。叔父さん、ここは任せてもいいかな。私はソウくんやソウくんの関係者の人達にあれこれ説明したいし」
「もちろんだ、エウリデについては俺やカインに任せろ……貴族連中もここから制圧して、少しでもマシなやつに国政をさせにゃならん。そのへんの雑務は俺達で請け負うさ」

 どうやらこの場はウェルドナーさんに任せて、レイア自身は僕ら相手にいろいろと話しを打ち明けるつもりみたいだ。
 わざわさこう言うからには、何かしら協力してほしいことがあったりするんだろうね。

 ウェルドナーさんとカインさんも揃って頷き、拘束されているエウリデ王を見やる。完全に心が折れたのか力なく沈む彼の姿は、王の恰好をしただけのただの中年にしか見えない。
 すっかり腑抜けた国王に舌打ち一つして、ウェルドナーさんはぼやくように言った。

「まあ看板は変わらずこの馬鹿野郎だから、民達はしばらく変化を実感することはないだろうが……そのくらいゆっくりやらないと、ただただ国が乱れるだけなんだろうな」
「そうだね……政治体制を緩やかに変革するのは、平和裏にやるんだったら長い目で見ていかなきゃならないんだよ。いくつもの国を見てきて、そのことは私達もよく分かってるつもりだよね」
「違いない」

 叔父と姪、顔を見合わせて笑う。エウリデをなるべく穏便な形で、緩やかに時間をかけてでも平和的に変えていくことに異論もないようで、周囲の彼女達の部下も頷いている。
 この3年、レイア達もレイア達なりにいろいろ見てきたんだろうね……なんとなしそれが伺えるやり取りだよー。
 
「さて。じゃあソウくんはじめ新世界旅団に戦慄の群狼、あとベルアニーさんにも話をしようか……私達がこのタイミングでエウリデに来た、その理由をね」
 
 翻って僕に告げるレイア。
 エウリデへ戻ってきた理由。その目的について、彼女の口からいよいよ聞き出せる時が来たんだね。
 レイア達、元調査戦隊中核メンバーがこのタイミングでこの国へと戻ってきた理由。
 それをこれから包み隠さず話すと宣言したレイアに、リューゼがおずおずと尋ねた。僕ら相手にはありえないくらい慎重で丁寧な態度だ。

 こいつ、昔からレイア相手には単純に舎弟めいた態度だったからねー……3年経って、自分も一団率いるリーダーにまでなったのにそこだけは変わらないみたい。

「あ、姉御……ウェルドナーさんにカインのやつまで含めて、なんでこんな良いタイミングで来たんですかい? 狙ってたとか?」
「さすがに狙ってはないよー。ただちょっと、思ってもない動きがあったから面食らいはしたけど」

 そんな彼女にレイアも苦笑いして首を横に振る。
 まあさすがにタイミングを見計らってやってきた、なんてことはありえないか。あまりに都合が良かったから若干疑ったけど、今回のエウリデの動きは誰にとっても予想外だったんだね。
 
「まずは場所、移動しよっか……うーん。ベルアニーさんやモニカ教授にもいてほしいし、あの人も呼んで王城のどこか部屋をお借りしちゃおっか!」

 こともなげにレイアが言う。場所を変えるのはそうすべきだけど……王城の適当な部屋を借りるって、かなり突拍子もないよー?
 なんか3年前よりずっと奔放な気がするよー、レイア、いろいろ吹っ切れたって感じだねー。僕としては生き生きしてるようだから嬉しい限りだけど、原因を辿ればそもそも僕に行き着くのは複雑だよー。

 いろいろもんにょりする内心を押し殺しつつ、僕はレイアに問いかけた。

「お借りしちゃおっかって、レイア……できるの? そんなこと」
「もう王様は実質王様じゃないからいけるでしょ、たぶん!」
「ふ、複雑です……」
「貴族の家の者としては、な……」

 あっけらかんと言い放つレイアに、複雑なのがシアンさんとシミラ卿だ。
 二人とも貴族の人だものね、仮にも仕えていた主君をこうまで適当に扱われるのは、妥当だと理屈の上では分かっていても、納得に苦しむところもあるんだろう。

 ただ、そのへんについては僕らが口を挟める部分でないのもたしかだ。だって僕らは貴族じゃないし、エウリデ国王なんてはじめからどうでもいいと言えばどうでもいい存在だったし。
 結局、どうあれ答えを出すのは各々自身しかないんだよー。特に自分の本質的な部分、基盤となる箇所についての悩みならなおのこと、ねー。
 
「さ、行こうみんな! この世界の成り立ち、そしてさっきの"神"とエウリデ……古代文明。そして何より地下に広がる大迷宮。それらの答え合わせをする時がきたんだ!」

 悩める貴族をあえて放置して、レイアは高らかに宣言した。
 答え合わせ……これまで世界にとっても謎だった古代文明や大迷宮に対しての、一つの解答をレイアは持っているって言うの?

 冒険者として疼く好奇心を抑えられない。それは貴族として悩む二人も同様だ。
 こうして僕らはレイアの言葉に、答え合わせに臨むために彼女に続いて王城内へと進入していった。

 王城内をずんずん進むレイアに、立ち尽くす兵士達や貴族達も何もできず話せずだ。状況が理解できず、ただ何か、とんでもない異変が起きていることだけは察して動けずにいるんだねー。
 そんな彼らに次々と、レイアの部下達が大勢で取り囲んで説得していく。なるべく穏便に済ませたいんだろうけど、武器を片手に話してるんだからほぼ脅迫だよー。

「貴族達もさすがに、多勢に無勢ともなれば大人しいか……」
「あんまり手荒なのは好きくないんだけどね。でもここの貴族だけはこのくらいしないと、ろくに人の話も聞きやしないから」
「あの、アールバドさん。なるべく流血沙汰だけは避けていただけますと……」
「ん、それは任せてシアンちゃん。私達はあくまで彼らに、新しい時代に未来を譲り渡してほしいだけだから。既得権益を多少は崩しちゃうかもだけど、決して誰一人殺しはしないから安心して」
「は、はあ……」
 
 何をどう安心しろっていうんだかね、レイア……シアンさんもあからさまに不安がってるよー。
 既得権益を崩すなんて貴族が最も嫌うことだし、今この時は大人しくても絶対あとから騒ぎ出すよ。そしたら内戦かもしれないんだけど、そこんとこどう考えてるんだろう?
 
 思わず質問すると、レイアはあははーと苦く笑いながら、それでもどこか冷たい目で虚空を見つめた。
 遠い何処かを眺めるようにしながら、端的に応える。
 
「そのへん、今から話す内容にもかかるから後で話すけど……間違いなく貴族達は私達の要求に従うよ。従うしかない」
「…………?」
「罪を背負っているのは王族だけじゃないってこと。この国の上層部はね、大体罪塗れなんだよ」
 
 言いながらも僕らは一際大きな扉の前に辿り着く。
 覚えのある部屋だ……3年前にも何度か訪れたことのあるサロン、談話室だね。
 
 レイアが勢いよく開けるとそこはもぬけの殻だ、誰もいない。
 貴族の一人もいるかと思ったけど、さっきまですぐ近くを化物が暴れてたのにのんきにお話なんてしちゃいないか。
 
「ん、ここで良いよね。とりあえず座って待っててよ、ベルアニーさんはじめ、関係者の皆さんを呼んでくるから」
 
 僕らを適当な席に座らせ、自分はさっさと部屋を出ていく。
 ベルアニーさん達を呼びに行ったんだろうね。フットワークが軽いなー。
 結局レイアが戻ってくるのは、そこから十分くらいしてからのことだった。
「ふむ……まさか本当に戻ってきていたか、英雄。変わりないようで何よりだ」
「あははは……お久しぶりです、ギルド長。3年前はいろいろとお世話になりまして」

 戻ってきたレイアが談話室に連れてきた、ギルド長ベルアニーさんがレイアに声をかけた。他にも何人もやってきてるんだけど、いずれも席について一息ついてからのやり取りだよー。
 ベルアニーさんからしても夢か幻かってとこだろうねー……3年前にあんなことがあったパーティの、元リーダーが今また姿を見せているんだから。

 いかにも珍妙なものを見たような顔で、けれど彼の目は鋭く光った。
 嘘偽りは許さないと言わんばかりの眼光でレイアを見据え、世間話のようなノリで問いかける。

「バーゼンハイムにバルディエートもきているのだろう? ラウドプラウズにグンダリ、ワルンフォルース卿に教授も含めれば、もはやほとんど調査戦隊が復活するかのような勢いだな、アールバド」
「ありえませんよ。もう調査戦隊はこの世にありません。3年前に解散しました……私達全員の過失によって。それがすべてです」
「レイア、それは」
「まあまあ、良いから良いから」

 この場にいる元調査戦隊メンバーの数を思えば、いやもうこれ調査戦隊の復活も同然だよねー? って言いたくなる気持ちも分からなくはないかな。
 ただ、レイアはそんな軽口を温和ながら一刀の下に断じた。調査戦隊なんてすでにこの世にはなく、3年前に終わった過去なんだって言い切ったんだ……その責任を、自分達調査戦隊メンバー全員にあるとさえ示唆して。

 これには僕も思わず抗議の声をあげたものの、やはり当の本人に宥められてしまった。
 自分達全員の過失だなんて、そんなことあるはずないのに。アレは間違いなくエウリデ王と、貴族と、そして僕の三者にすべての責任がある。

 どんな事情があろうと絶対にそこだけは変わらないはずなのに……レイアはどうして、こうも頑なに?
 理解できずに居た堪れなさだけが募る僕をよそに、彼女はさてと話を変えた。
 
「それよりも、わざわざこんなところに皆さんをお呼び立てしたのは他でもありません。我々が今般、この国へ戻ってきた本命の理由……その目的を果たすためです」
「目的って……それでなんで俺等が呼ばれるんだ?」
「さすがに場違いよねえ……」
「ぴぇぇぇぇぇぇ」

 いよいよ話の核心へと至る……その前に、なんで自分達がここにいるんだろう? ってひそひそ話で怯え竦む声が聞こえた。僕もよく知ってる、友人みたいな冒険者達だ。
 "煌めけよ光"のレオンくんをはじめとするみなさんが、何故だかこの場にいるんだ。ヤミくんにヒカリちゃんだっているよー。

 まあたぶん、古代文明からやって来たってことで厳密にはこの双子が呼ばれていて、レオンくん達は二人の保護者ってことで随伴してるんだろう。
 レイアも申しわけなさそうに微笑みながら、彼らに対して謝罪した。
 
「ええと、"煌めけよ光"のみなさんには急な話でごめんなさい。ただ、ことはあなた達……ううん。あなた達とともにいるそちらの双子さん達にも関わってるから」
「…………超古代文明のことですね」
「その通り。君は、ええと……お名前を伺っても?」

 そんな中、ヤミくんは冷静に事態を把握しているみたいだった。レイアの目的が古代文明絡み、つまりは自分やヒカリちゃんにも関わる話だと察して、レイア相手に落ち着いてコミュニケーションを図ろうとしているよー。
 
「ヤミです。こちらは姉のヒカリです」
「ヒカリです。よ、よろしくお願いいたします」
「ご丁寧にありがとう! 私はレイア・アールバド。よろしくね! ……ごめんね、怖がらせて」

 礼儀正しく挨拶する双子に、子供に優しいレイアはそりゃもうほっこりした様子で柔らかく微笑んで応えた。それからすぐに、申しわけなさそうに頭を下げる。
 古代文明絡みということで嫌でも緊張せざるを得ない双子を、痛ましく思ったんだろう。努めて誠実な瞳と表情で、彼女は真摯に告げる。
 
「絶対に君達に危害は加えない。それは私と、私の仲間と、培ってきた絆に誓う」
「姉御が絆に誓うつったらそいつぁ絶対だ。信じて委ねろや、ガキンチョども──あいてっ!?」
「リューゼちゃん、こんな子ども達を怖がらせるようなことはしないの! あなたはもう、3年前からだけど何かあるとすぐに威圧するよね! もう!!」
「す、すんません……」
 
 馬鹿だなあ。いらない軽口を挟んだリューゼってば、当たり前だけどレイアに思い切り頭を叩かれてるよー。
 舎弟仕草は良いけど時と場合、相手を考えないと。子供相手にイキって恫喝寸前の物言いをするレジェンダリーセブンなんてありとあらゆる角度からアウトだよねー。
 次いでレイアは、もう一人この場にいる古代文明人へと目を向けた。
 ベルアニーさんや教授とともにやって来ていたレリエさんだ。世界的英雄に見つめられて硬直する彼女に、当のレイアは微笑んで尋ねる。

「それと。ええと、あなたも古代文明から来られた?」
「は、はい。レリエです。ソウマくんのおかげで、数万年の眠りから覚めまして」
「ソウくんが……そっか。そういうことですか」
「……?」

 何かを納得した様子で頷く。僕をちらりと見たのが印象的だけど、何? 僕になんかあるのー?
 気になるけれど今は我慢だ、どうせもうじきすべてがあきらかになるだろうし、その時に分かるかもしれないし。

 っていうかもしかしたら"美人さんにだけ声かけてるよこのスケベ……"的な視線だったかもしれない。怖いよー。
 レリエさんはじめ今、僕の周囲にいる人達が揃って美人さんなのは認めるけど偶然だよー。ぶっちゃけ超幸せだけど断固として偶然なんだよー。

 視線で言いわけできないかなーと彼女を見るもできるはずもなく、なんならその時にはすでにレイアは別なほうを向いてしまっていた。
 レリエさんに向けても、双子同様に自己紹介をしてるね。

「レイア・アールバドです。よろしくお願いしますね、レリエさん」
「よろしく……ええと、敬語はいりませんよ」
「ありがとう! それなら私もいらないよ、レリエさん。お互い対等にいこう?」
「そ、そうね……よろしく、レイアさん」

 レリエさんのほうはどうしても緊張してるけど、それでもさすがは"絆の英雄"、さっさと打ち解けようとグイグイ押してるよー。
 こういうコミュニケーション力の強さは3年経っても変わらないね。なんだかホッとするー。

 ひとしきり笑い合ってから、レイアは一つ咳払いをしていよいよ全員を見回した。僕ら新世界旅団の面々に元調査戦隊メンバー、ベルアニーさん。そして煌めけよ光の人達にレイアの部下が何人か。
 大体20人くらいかな、みんな席について彼女が切り出すのを待っている。それを受けて、彼女はついに話を本題へと進めた。
 
「さて! それじゃあ話を始めましょうか、みなさん。エウリデとか古代文明とか、あと大迷宮についての話を。あ、でもその前に一応まずは私達の3年、調査戦隊解散後のことから話すべきですね。すべてはそこから始まったので」

 すべてはそこから始まった。そう語るレイアの表情はひどく静かで凪いでいて、落ち着き払っている堂々とした姿だ。
 調査戦隊解散は、少なくとも僕にとってはすべてが終わった事件だったんだけど、レイアにとってはむしろスタート地点だった、と? ……そう思えるだけの何かがきっと、この3年にあったんだろうねー。

 そんな立場にいないとは承知しつつも、なんだかワクワクするよ。レイアはこの3年、どんな冒険をしてその末に何を見つけたんだろうか。
 僕がこの3年を、少なくとも冒険者としてはほとんど惰性だけで過ごしてきたからすごく興味があるよー。

 期待の眼差しで彼女を見る。他の、この場にいる知り合いの人達も大なり小なり似たような感じだ。元調査戦隊リーダーのそれから先の話、なんて垂涎ものだもんね。分かるー。
 そうした瞳の数々に、レイアは薄く微笑みながらも続けて話していく。時は遡ること調査戦隊解散後。すべてが一旦終わってからの、彼女視点からの話だ。
 
「……紆余曲折を経て解散した調査戦隊だけど。その後私は叔父であるウェルドナーさんと一緒に海を渡りました。冒険者として1からスタートを切ろうと思ったんです。キャリアの積み直しってやつですね」
「何故海を……エウリデでもリスタートは図れたろうに。いやむしろ、お前達の名声を考えればまたすぐにでもポスト調査戦隊を作れたはずだ」
「その調査戦隊から、離れるべきだと思ったんですよベルアニーさん」

 冒険者としての再起。ウェルドナーさんと二人してのリスタートへの志を、わざわざ心機一転しようと海を越えたレイアにベルアニーさんの困惑気味の問いかけがなされた。
 たしかに……再起を図るなら難易度的には間違いなくエウリデ内のほうが低かっただろう。調査戦隊のホームだったわけだし、調査戦隊に入隊を希望していた冒険者もたくさんいたからね。

 誰もが思うだろう考えを口にした彼に、レイアはけれどゆるく首を左右に振って否と答えた。
 そして頭を掻いて恥ずかしそうに、けれどどこか清々しい表情で語る。
 
「調査戦隊がなぜ解散したのか。私は、私達は何をどこでどう間違えたのか……それはきっと、エウリデにいたままだと分からない。そう思ったんです。それに正直、私にはもう誰かを率いる資格なんてないって思ってましたし」
「私宛の手紙にも書いていたね。あの時もこう返信したけれど、いくらなんでも極論に過ぎるよ。元リーダー」
「うん、そうだね教授。今だから思うけど、あの辺りの私はちょっと精神的にね。キてたから」
 
 苦笑いするレイアに、誰も何も言えない。
 なんだかんだと精神的に追い詰められていたんだ、彼女も……今、明るく語っている姿の裏にどれだけの苦悩や葛藤があったのか。
 僕には、想像することさえ憚られるよー。
 調査戦隊解散後、再起をかけて海を渡ったレイア。
 一度はすべての冒険者達の頂点にまでなったところからの崩壊は、さしもの彼女をして精神的に大きなダメージを与えてしまっていたみたいだ。

 当然だよね。完全に加害者だった僕でさえ、調査戦隊解散は大きな衝撃だったんだ。調査戦隊を発足し、あそこまで大きく偉大な組織にしてみせた彼女が受けた傷は計り知れないよ。
 やってしまった側として、何か言う資格はないけれどひたすらに内心、罪悪感に詫びるよ……今はまだ、直接謝るタイミングじゃないみたいだけど、後でその機会が来たらその時は。

 覚悟を決めつつ彼女の話に耳を傾ける。
 そうして海を渡った後、そこを起点に彼女の新たな冒険は始まったんだ。

「まあ、とにかく。そんなわけで海外にて再起を図った私達ですけど、ぶっちゃけすぐにそれどころじゃなくなりました。たまたま潜った地下迷宮において、とんでもないものを見つけたんです」
「……とんでもない、もの?」

 大迷宮を踏破する中、数々のとんでもない経験を積んできたレイアをしてそう言わしめる。それは一体、なんなんだろう?
 しかも再起どころじゃないとまで思わせるなんてどう考えてもただごとじゃない。

 おそらくは古代文明絡みだろうけど、もしかしてまた新しい古代文明人でも見つけたりしたんだろうか?
 何人いるか知らないけど、あの地下82階層の玄室以外にも似たような場所はありそうだし、となると他にも古代文明人が眠ってたりはしそうだものねー。

 息を呑み、誰もがレイアを見る。
 彼女はそして、厳かに告げるのだった。

「そう……大迷宮についてや古代文明について、多くのことを記録したデータを収めた資料室。あるいは書斎かな? それを発見したんだよね」
「なんだって!?」
「古代文明の資料室だと!?」

 ざわめく僕達。古代文明についての資料はこれまで散発的に見つけられてきたものだけど、一部だけでも相当貴重なものだ。
 何せ紙切れ一枚でも、発見した国が厳重に保管して研究対象として長く調査しているほどだもの。そんなのがたんまり詰まった資料室なんてのを発見したなんて、一国ばかりか世界が揺るぐ大スクープだよー。

 そんなものを何年も前に発見していたの、レイア?
 唖然とする僕らを見回して、苦笑いする彼女はさらに続けた。
 
「言うまでもなく完全に偶然でした。後になってからの調査研究で推測できたのですが、その部屋、その施設は古代文明の生き残り……"眠りにつくことのなかった"生き残り達による情報集積と保管のための玄室だったみたいですね」
「眠りに……コールドスリープしなかった人達がいた!? すべてが沈んだ後に、それでもまだ眠らなかった者達がいるの!?」
「し、しかも、情報を集積してた? 保管?」
「なんのために、そんなことを……」

 眠りにつかなかった。それはつまり滅びゆく古代文明と運命をともにした人達ってことか。そんな人達が、自分達について記した情報資料をまとめて保管していた、と。
 レリエさんやヤミくん、ヒカリちゃんが愕然とつぶやく。この三人と今ここにはいないけどマーテルさんの4人こそ、いわゆる眠りについたほうの古代文明人だからね……

 数万年もの時を経てでも生きながらえるのではなく、資料だけを残して自分達はそこで終わることを選ぶ。
 それは、どんな考えと決断、意志のもとに行われたことなんだろう。眠るにせよ眠らないにせよ大変な選択だったのは想像に難くないけど、事実上自分たちの"その後"を放棄するに至った経緯は、正直気になるよ。

 レイアもそんな想いを見抜いたかのように、神妙な表情で話す。
 調査研究の末に判読できた古代文明の資料、その中の一つに当時の人達の志が記されていたんだ。
 
「集積していた古代文明人達のリーダー、らしい人が残した手記もあったよ。解読したら、こんな感じのことが書いてあった──"数千、数万、数億かもしれない時の果てに辿り着いた貴方へ。遥かな過去から、貴方が生きる現在に。私達に価値はなかったとしても、意味はあったのだと信じるため、ここに、プレゼントを贈ります"ってね」
「それは、つまり」
「せめて自分達の生きた証を、意味を信じたかったってところかな。自分達自身が生き延びることより、自分達がそれまでに積み重ねてきたものを少しでも多く集め、次に繋げたかったんだよ、きっと。そのために当時のあらゆる資料を記録して、特殊な技術で永久保管したんだね」

 すさまじい覚悟だよ、と語るレイアに誰もが頷くほかない。
 自分達の命ではなく、古代文明の証をこそ遺す。そのために命を燃やし尽くしたんだろうその人達の覚悟や使命感の強さは、身一つで遥かな時を超えてやってきたレリエさん達にも劣ることはない。
 
 偉大な先人達が身を捨てて遺してくれた、遥かな古代からのプレゼント。
 それを現代、英雄と呼ばれるレイアが奇跡的に発見したんだねー。
 遥かな過去から未来、すなわち現在の僕らへ贈られていたプレゼント。少なくないだろう古代文明人達が、自分達の行く末よりもなお、未来へと遺産を遺すことを優先することで手に入った、情報資料室。
 壮絶な覚悟とともに為されたんだろうその事業に、誰よりもまずレリエさんが反応した。凪いだ、静かな瞳と表情で、どこか悼むようにつぶやく。

「…………コールドスリープとは、逆の発想ね」
「レリエさん?」
「意味がなくとも価値はあるはずだと眠った私達と、価値がなかったとしても意味はあったはずだと眠らなかったその人達。ともに意識したのは遥かな未来、だというのにアプローチが決定的に異なっていた結果、私達は私達自身を遺し、彼らはそれまでに古代文明が積み重ねたものを、すべてとは言えないだろうけどある程度遺した」

 意味と、価値。似て非なるものをそれぞれ、おそらくは滅亡迫る状況の中で追求して選択したレリエさん達と資料室の主達。
 その結果前者は人が残り、命が遺り。後者は情報が残り、過去が遺った。どちらも等しく、偉大すぎるほどに偉大な業績だよー。

 天を見上げて、古代文明からの生き残りたる彼女はさらに続けた。
 もしかしたら同胞として、生きてこの時代で巡り合うかもしれなかった彼らを想い、静かに涙を一粒流す。

「一体どちらが正しかったか、それは分からないにしても……その人達は生き抜いたのね。自分達の時間の中で、自分達の力を尽くして。限りある生を、意味を残すことで輝かせようとした」
「そうして遥かな時を経て、偶然にもその玄室に私がたどり着けたんだ。いや苦労したよ、地下56階層、隠し扉に気付けなかったら一生たどりつけなかったね」
「す、すごい偶然……」
「悪運だけはすごいからさ、私! 調査戦隊が解散して直後、あんな発見だってするんだから筋金入りだよねー」

 しんみりしすぎるのもどうかと思ったのか、レイアは努めて明るく笑った。レリエさんの感傷も分かるけれど、今はとりあえず説明させてほしいなーって感じかな。

 実際、そんな形で保管されていた部屋を偶然、よりによって調査戦隊が解散したことで海を渡ったレイアが見つけたってのは運命的なものを感じざるを得ないよ。
 まあ、そこまで言うと調査戦隊解散もまるで既定路線みたいになってしまいそうだからそれは違うけど。

 アレは僕のせいだ。僕が引き金を引いた、僕の罪で僕の責任だ。だから、運命のせいにしちゃいけないよねー。
 改めて自分に言い聞かせつつ、レイアの語る話に耳を傾ける。
 
「で、その資料室が見つかった国の政府と共同で研究を行ってきたんだよ、この3年。そして一つの結論が得られたのが、大体半年前になる」
「一つの、結論?」
「それこそが古代文明の中核、話の結論だよ。順を追って説明するね、ソウくん」

 資料室が見つかった土地の政府とともに、古代文明の調査を行っていたらしいレイアの得た真実……結論とは、一体。
 好奇心からついつい逸り気味になってしまう僕をやんわりと宥めながら、彼女は談話室の壁にもたれかかって一同を見回した。

 誰もが固唾を飲んで見守っている、耳を澄ましているのを確認して、軽くふう、と息を吐く。
 そしてレイアは、古代文明について語りだした。そもそもそれは何なのか、どういった姿だったのかというはじまりの部分から、話し始めたんだ。
 
「時間にして約4万年前。今では古代文明、一部ではメルトルーデシア神聖キングダムと呼ばれている文明が栄えていた世界があった。まあ、実際はそんな名前の国とか土地は存在してなくて……それどころか単一国家でさえなかったみたい」
「え────ないの!? メルトルーデシア神聖キングダム!?」
「えっ……ソウくん?」

 いきなり話に水を差す形になって悪いけど、僕は盛大に叫んだ。
 嘘でしょ、そもそも存在すらないの!? メルトルーデシア神聖キングダムって、架空の王国なのー!?

 今まで生きてきて一番の衝撃だ。僕はてっきり、オカルト雑誌で書いてあったように古代文明はメルトルーデシア神聖キングダムという単一国家による超巨大国家が文明を築いていたとばかり思ってたんだけどー!?
 
「そ、そんな……あ、あんなにオカルト雑誌で連呼してたのに、メルトルーデシア、メルトルーデシアって! 嘘でしょそんな、信じてたのに!」
「信じてたの!? オカルト雑誌好きなんだ!?」
「ぼ……僕のロマン! 僕の夢が崩れたよー!!」
 
 思わず椅子から崩れ落ちる。目眩がするよー……周囲の唖然とした空気も構わず僕は、受け入れがたい現実に咽び泣く。
 まさか真実を語るって言ったその口から開口一番、僕の夢とかがぶっ壊されるとは思ってなかったよー!
「ソウマ……気持ちは分かるぜ。ぶっちゃけ俺も今、すげーガックリ来てる。メルトルーデシア神聖キングダムって名前からして怪しかったのはたしかだけど、こうもあっさり架空とか言われちまうと……くぅっ」
「う、うう、うううー!」

 打ちひしがれる僕の傍に来て、レオンくんが肩を抱きしめてともに落ち込んでくれるよー。
 メルトルーデシア神聖キングダム……ともにオカルト雑誌愛好家として夢に見ていた古代文明統一王朝の正体が、まさかの夢幻だったことに二人してショックを受けてるんだよー。

 落ち込む僕らを見て、慌てたと言うかびっくりしてるっぽいのがレイアだ。
 さめざめ泣く姿は3年前の僕からは想像もつかなかったことだろう。ましてや理由がオカルト雑誌がデタラメだったってことだもの。
 困惑しきりに、汗を一筋垂らして呻いてるよー。

「えぇ……? な、なんかソウくん、さっきから思ってたけどずいぶんその、ファンキーになってない?
「ええと、その……あなたにあなたなりの3年があったように、ソウマくんにもソウマくんなりの3年があったということですよ、レイアさん。私のような新人の夢に乗ってくれるようになるほどの、3年が」
「…………そ、っか。そうだよね、調査戦隊だった頃から、当然変わりもするか……いやでもここまで号泣するのはおかしくない?」
「あ、あはは……」

 今の僕をそれなりによく知ってくれているシアンさんが、レイア相手にフォローを入れてくれている。
 そう、レイアにはレイアの3年があったように、僕含めて誰しもにもそれぞれの3年があったんだ。

 ……まあ、僕の3年間なんて罪悪感に駆られてソロ活動する裏腹で、モテたいからって学校に入学するために勉強してきたって程度のものでしかないから。
 3年前にいきなりドンピシャで古代文明への足がかりを手にした彼女とは、まるで天地ほどの差があるんだけどねー。

 そろそろショックからも立ち直り席に戻る。周囲の目が呆れ返ってたりドン引きしてたり微笑ましげだったりとするけれど、僕は元気に気分を切り替えた。
 メルトルーデシアについては残念だけど、考え方を変えればより謎深く神秘に包まれた古代文明があるってことだよー。
 そしてその答えを今からレイアが明かしてくれるんだ。こりゃ耳をかっぽじって聞かなきゃ一生後悔するよー!
 
「なんか急に元気になったね……ええと、コホン。話を戻すけど古代文明、その実態は多くの大陸に多くの国、地域、地方がありその分だけ自治体が存在していた、今あるこの世界と変わらない様相だったみたい」
「単一国家ではなかったのだな。それだけでもずいぶんな発見だが、それだけではないのだろう?」
「もちろん。そうした古代文明世界に何が起きて今に至っているのかまで、見事にすべて突き止めていますとも」

 ベルアニーさんの問いに若干のドヤ顔で答える。よっぽど自信がある時にしか見せなかった顔だ……つまりは本当に、古代文明の核心にたどり着いたっていう確信があるんだろうね。
 レイアはそして、表情を引き締めた。同時に引き締まる空気。ここからは茶目っ気なしな話だと言わんばかりの雰囲気が、否が応でも僕らの期待を高めてくれる。

 一体、何万年もの昔に何があったの?
 それを、レイアは語り始めた。
 
「ことの始まりは古代文明時代におけるとある国、とある研究所。生物に関する実験を行っていたその視察で、おそらくは偶然だろうね、とんでもないモノが生まれた」
「とんでもない、モノ?」
「うん。半永久的なエネルギーを持つ、まったく新種の生命体……当時の古代文明において課題の一つだったエネルギー不足を解決し得る奇跡の力、無限エネルギーへの取っ掛かりが得られたんだ」

 無限エネルギー……! それってつまり、どれだけ使ってもなくならない、そればかりか減ることさえない無尽蔵のエネルギーを持つ生物がいたってこと!?
 とんでもない発言に、僕らは絶句した。エネルギー、今この世にあるソレは石油や石炭、木炭なんだけど、いうなればそれらが何もないところからポンッ! と出てくる魔法のような生命体を生み出したってことなのかな、その研究所ってのは。

 夢のような話だよー。
 けれどそう思う僕に反して、レイアの顔は険しいままだった。おぞましいものを語るかのように、怯えさえ含んだ声色で続ける。
 
「その生命体は不思議なことに、何もないところからエネルギーを生み出していた。当然ながら普通の生物は生きているから他の何かを食べたり飲んだりして、取り込んだ栄養をエネルギーに変換したりする。でも、件の生物は」
「なんのエネルギーをも必要とせず、完全に何もないところからエネルギーを生み出していた、とでも? 無から有を、生み出していたと」
 
 恐るべき問いかけに、レイアもまた強張った表情で頷く。
 何も食べることもなく、しかし無尽蔵のエネルギーを生み出す──謎の生物。
 いよいよ奇妙で不気味な存在だ。僕もなんか、背筋が凍るものを覚えてきたよー……