『ヴォギャアアアアアアアアッ!!』
「……手応えあり!」
 
 レイアの傷は本当にダメージとして通用していたらしい。追撃の僕の杭が深々と刺さる感触は、先程までの戦いにおいてはなかったものだ。
 これまでになく叫ぶ化物。雄叫びじゃない、悲鳴──もしかしたら初めて味わうかも知れない痛みを受けての、それは悲痛なまでの叫びだ。

 通った……! レイアの言う通り、こいつは重力制御を用いることで初めてダメージを与えられるタイプのモンスターなんだ!
 杭を引き抜き飛び下がる。レイアの隣まで戻り彼女と顔を見合わせると、見惚れるほどに透き通った笑みを浮かべる。
 それが嬉しくて僕も微笑み返すと、リューゼがそんな僕らを叫びとともに呼びかけてきた。

「来たかソウマァァァ! ……って、姐さん!? なァんでここに!?」
「やっほ、リューゼちゃん! 手伝いに来たよ!」
「杭打ちくんを取りに行ったら出会った! あの化物、僕とレイアとあとお前でしか倒せない! 部下を下げて!」
「…………っ! チィ、テメェら下がれ! ここはオレ様達が受け持つぜ!!」

 リューゼもまさか、この局面でレイアがやって来るとは思ってなかったみたいだ。素っ頓狂な声を上げて驚いてるよー。
 呑気に挨拶を返すレイアだけど、正直それどころじゃなくて僕はリューゼに言葉を投げた。端的に言って、重力制御を習得してる僕らにしか倒せないんだから部下達を下げるように言ったんだ。

 化物はダメージこそ負ったものの未だ現在、戸惑うように、恐れるようにこちらを伺っているものの殺意だけはまるで変わることなく、いやむしろ増大さえしている。
 呆気にとられつつもその辺、リューゼの判断はすごく早い。即座に戦慄の群狼メンバーを退かせ、僕らの戦いに立ち入らせないよう指示を下していた。
 一方で僕のほうにも、仲間達から問いかけがくる。

「ソウマくん! そちらの方は、もしや!?」
「お待たせ! 後は僕とリューゼ、あと彼女に──レイア・アールバドに任せて!」
「レイア……!! 大迷宮深層調査戦隊リーダー、絆の英雄!! ついにこの局面にて登場でござるか!」

 シアンさんとサクラさんが、初めて見る"絆の英雄"に驚きの声を漏らした。
 現代における最高の冒険者だもの、そりゃ驚くし興奮するよね。シミラ卿も隣で目を丸くしてるし。
 もっとも当のレイアはそうした視線に慣れてないのか、いかにも照れたようにはにかみ頭を掻いた。そして僕と彼女達を見比べ、シアンさん達に軽く会釈する。

「あ、あはは……なんかすごく緊張しちゃうなあ。いかにも、私がレイアだよー新世界旅団の人達。ソウくんがいつもお世話になってます」
「リーダー……! あなたまで来られていたのですか」
「シミラさん……ご無事のようで良かったです。ええ、はい。元々別件でやって来ていたのですが、あなたのこともありましたからね。来ちゃいました! お久しぶりですね!」

 シミラ卿とも何年ぶりかの再会だ、お互いに若干距離のある、けれど隔意のないやり取りを交わしている。
 レイアだけじゃなくウェルドナーさんやカインさんも、これが落ち着いたら合流することになるんだろうね……すごいな、元調査戦隊メンバーがどんどんやって来るよー。

 懐かしの再会、あるいはそれは僕にとり断罪の時間なのかもしれないけれど、否が応でも期待や興奮は高まる。
 だけどその前に一つ、眼の前の化物を対峙してみようか。こいつがいる限り、落ち着いての再会とはならないから、ね。

「さ、話は後です……! 今はこのモノを!」
『ウォオオオアアアアアアアアアア!!』
「…………人の手による罪、そして罰そのもの。あなたはあくまでコピーだし、謝るべきは私じゃないけれど……ごめんね」
『ウァアアアアアアオオオオオオオオオオッ!?』

 構えてから、レイアが化け物へとポツリとつぶやいた。
 謝罪の言葉──何に対してなのか、本当は誰が謝るべきなのか僕には分からないけれど、たしかにレイアは誰かの代わりにあの化物、"神"と呼ばれるモノに謝った。

 レイアは明らかに何かを知っているし、それに絡む話でここまでやってきたのは間違いない。
 この化物を飼っているエウリデ王が、どこまでそれに関わってるのかは知らないけれど……こいつを倒し終えたら、アイツもただじゃすまないだろうね。

「ソウくん、リューゼちゃん! 私に波長を合わせて重力制御、武器強化! それで"神"にもダメージが通る!」
「分かった!」
「チィッ! 何がなんだか知らねえがコイツ殺れるってんならやりまさァ、姉御ォ!!」
 
 僕同様に事情を掴みかねているリューゼをも巻き込んで、僕ら3人は攻撃体勢を整える。
 重力制御、そして武器強化──さっきのレイアみたいに、重力を可能な限りそれぞれの武器に集中させてのトリプルアタックだ!