「さて……それではシミラ卿処刑阻止について打ち合わせを始める。とはいえまずはラウドプラウズ、お前の意志を確認せねばなるまいが」
「あん?」
わちゃわちゃした会話もそろそろいい加減にお開きにして、ベルアニーさんが音頭を取る形で打ち合わせが始まった。
ほぼなし崩しの形でリューゼリアには参加してもらってるけど、向こうとしてもギルドの意向は気になるだろうから利害は今のところ、一致してるねー。
さしあたってまずは彼女の、ひいては戦慄の群狼が今回どういう立ち回りをするかが焦点になるだろう。それゆえギルド長が尋ねると、リューゼリアはデカい図体で足を組み、いかにも荒くれたふてぶてしい態度で眉をひそめる。
それにも構わず、百戦錬磨の老爺は眼光だけを鋭くして問い質した。いい加減な返答は許さないという、尖った威圧を込めている。
「戦慄の群狼がこの町に来るのは、ひいてはお前が先行してまで急ぎやって来たのは彼女を救うためでもある、という認識で良いのだな? 別に興味がないだとか、どうでもいいというわけではないのだな」
「あたりめーだろ……いや、戦慄の群狼ごとこっちに戻ってきたのは偏にソウマとモニカ目当てが元々だったが、途中でシミラのやつが処刑されちまうなんてニュースが耳に入ってよ。そりゃ姉貴分のオレ様としては、助けに行かにゃと思って1人先行したのさ」
威圧をものともせず、むしろ返り討ちにしてやろうって気迫をもって返事をするリューゼリア。
語られる経緯からするに、元々からこの町に来る予定だったのがシミラ卿のニュースを耳にして慌ててこいつだけ来たってことか。迷宮内で言ってたこととほぼ同じだねー。
っていうか姉貴分って、まだ言ってるんだねそんなことー。たしかに3年前からリューゼリアはシミラ卿をやたら可愛がっていて、まさしく妹みたいな扱いをしていたんだけど……まだ続いてたんだね、それー。
ちなみに当のシミラ卿からはひたすら迷惑というか、鬱陶しがられていたのがなかなかアレな関係性だったなー。そもそも彼女にとって姉のような、師匠のような人はもうすでに別にいたからねー。
リューゼめ、都合よくその人のことを忘れてやいないだろうね?
なんだか不安になって、僕は呆れ混じりに彼女に指摘した。
「……まだシミラ卿の姉気取りなのー? 3年前も言ったけど、そこはマルチナ卿のポジションだと思うんだけどー」
「あのスチャラカにゃシミラは渡せねえなァ」
良かった、一応覚えてはいたんだねー。まあ、あんないい加減すぎる人そうそう忘れられるもんじゃないんだけどさー。
リューゼリア曰くのスチャラカさん──元エウリデ騎士団長マルチナ卿。彼女こそがシミラ卿にとっては本来、姉のように慕っていた人なんだよねー。
いやー懐かしいな、なんか。
しみじみとあの、言うことやることほとんどテキトーな美女を思い浮かべているとシアンさんが少しばかり、前のめりになって反応してきた。
マルチナ卿も同じ貴族だし、何より元調査戦隊メンバーだからね。興味を持つのも当然だよー。
「マルチナ……マルチナ・ラスコ・ペイズン卿ですか、先代騎士団長の。たしか調査戦隊解散と同時に騎士団長を辞し、今や世界を旅する冒険者と聞いていますが」
「そうだよー。シミラ卿が一番憧れてる人で、腕前こそレジェンダリーセブンには及ばなかったけどそれ以外の、判断力とか指揮能力、育成能力とかがものすごい人だったんだよー」
「性格はとにかく世の中舐めきってるちゃらけた女だったがな……ソウマが追放食らった後もさっさと荷物まとめて逃げ出しやがったしよォ」
懐かしみつつ団長に教える。元騎士団長、今は世界を旅してるんだね。とりあえず元気そうだし良かった、良かった。
世の中舐めきってるとまで言われるだけのことはあり、ともかくチャランポランな人だけど……どうやら僕が追放された直後にさっさと一抜けを決め込んでいたらしい。
うーん、いかにもあの人らしいよー。
口癖というか、二言目にはすぐ"じゃあ逃げよっか! "って連呼していた曲者極まりない人だったからねー。ワカバ姉も若干やりづらそうにしてたくらいだし、海千山千ぶりがすごかったんだー。
そんな彼女だから、調査戦隊が駄目そうになったらスタコラサッサと逃げるのも頷ける。ついでに前から煩わしいって言ってた騎士団長としての役目も投げ捨てて、まんまと逃げ切ったわけだねー。
「あー……そうなんだ、それでシミラ卿が後釜を。元々騎士団長とか向いてないーって散々言ってたもんね、あの人ー」
「あのアホの尻拭いで団長なんぞになって、さぞかしシミラも苦労したんだろうさ。それでその果てが処刑だなんてのはどう考えても話にならねえ」
「……まあ、最近見たシミラ卿はずいぶんくたびれきってたねー。もう騎士団長なんて辞めちゃえば良いのにとは、僕も思ってたよ」
ヤミくんヒカリちゃん、マーテルさんの騒動の時に見たシミラ卿を思い返す。もう精神的にも大分キていた、悲惨な姿だったよー。
散々苦労して、いろんなもの背負わされて……その先が処刑台だなんて、たしかにありえないよー。
「あん?」
わちゃわちゃした会話もそろそろいい加減にお開きにして、ベルアニーさんが音頭を取る形で打ち合わせが始まった。
ほぼなし崩しの形でリューゼリアには参加してもらってるけど、向こうとしてもギルドの意向は気になるだろうから利害は今のところ、一致してるねー。
さしあたってまずは彼女の、ひいては戦慄の群狼が今回どういう立ち回りをするかが焦点になるだろう。それゆえギルド長が尋ねると、リューゼリアはデカい図体で足を組み、いかにも荒くれたふてぶてしい態度で眉をひそめる。
それにも構わず、百戦錬磨の老爺は眼光だけを鋭くして問い質した。いい加減な返答は許さないという、尖った威圧を込めている。
「戦慄の群狼がこの町に来るのは、ひいてはお前が先行してまで急ぎやって来たのは彼女を救うためでもある、という認識で良いのだな? 別に興味がないだとか、どうでもいいというわけではないのだな」
「あたりめーだろ……いや、戦慄の群狼ごとこっちに戻ってきたのは偏にソウマとモニカ目当てが元々だったが、途中でシミラのやつが処刑されちまうなんてニュースが耳に入ってよ。そりゃ姉貴分のオレ様としては、助けに行かにゃと思って1人先行したのさ」
威圧をものともせず、むしろ返り討ちにしてやろうって気迫をもって返事をするリューゼリア。
語られる経緯からするに、元々からこの町に来る予定だったのがシミラ卿のニュースを耳にして慌ててこいつだけ来たってことか。迷宮内で言ってたこととほぼ同じだねー。
っていうか姉貴分って、まだ言ってるんだねそんなことー。たしかに3年前からリューゼリアはシミラ卿をやたら可愛がっていて、まさしく妹みたいな扱いをしていたんだけど……まだ続いてたんだね、それー。
ちなみに当のシミラ卿からはひたすら迷惑というか、鬱陶しがられていたのがなかなかアレな関係性だったなー。そもそも彼女にとって姉のような、師匠のような人はもうすでに別にいたからねー。
リューゼめ、都合よくその人のことを忘れてやいないだろうね?
なんだか不安になって、僕は呆れ混じりに彼女に指摘した。
「……まだシミラ卿の姉気取りなのー? 3年前も言ったけど、そこはマルチナ卿のポジションだと思うんだけどー」
「あのスチャラカにゃシミラは渡せねえなァ」
良かった、一応覚えてはいたんだねー。まあ、あんないい加減すぎる人そうそう忘れられるもんじゃないんだけどさー。
リューゼリア曰くのスチャラカさん──元エウリデ騎士団長マルチナ卿。彼女こそがシミラ卿にとっては本来、姉のように慕っていた人なんだよねー。
いやー懐かしいな、なんか。
しみじみとあの、言うことやることほとんどテキトーな美女を思い浮かべているとシアンさんが少しばかり、前のめりになって反応してきた。
マルチナ卿も同じ貴族だし、何より元調査戦隊メンバーだからね。興味を持つのも当然だよー。
「マルチナ……マルチナ・ラスコ・ペイズン卿ですか、先代騎士団長の。たしか調査戦隊解散と同時に騎士団長を辞し、今や世界を旅する冒険者と聞いていますが」
「そうだよー。シミラ卿が一番憧れてる人で、腕前こそレジェンダリーセブンには及ばなかったけどそれ以外の、判断力とか指揮能力、育成能力とかがものすごい人だったんだよー」
「性格はとにかく世の中舐めきってるちゃらけた女だったがな……ソウマが追放食らった後もさっさと荷物まとめて逃げ出しやがったしよォ」
懐かしみつつ団長に教える。元騎士団長、今は世界を旅してるんだね。とりあえず元気そうだし良かった、良かった。
世の中舐めきってるとまで言われるだけのことはあり、ともかくチャランポランな人だけど……どうやら僕が追放された直後にさっさと一抜けを決め込んでいたらしい。
うーん、いかにもあの人らしいよー。
口癖というか、二言目にはすぐ"じゃあ逃げよっか! "って連呼していた曲者極まりない人だったからねー。ワカバ姉も若干やりづらそうにしてたくらいだし、海千山千ぶりがすごかったんだー。
そんな彼女だから、調査戦隊が駄目そうになったらスタコラサッサと逃げるのも頷ける。ついでに前から煩わしいって言ってた騎士団長としての役目も投げ捨てて、まんまと逃げ切ったわけだねー。
「あー……そうなんだ、それでシミラ卿が後釜を。元々騎士団長とか向いてないーって散々言ってたもんね、あの人ー」
「あのアホの尻拭いで団長なんぞになって、さぞかしシミラも苦労したんだろうさ。それでその果てが処刑だなんてのはどう考えても話にならねえ」
「……まあ、最近見たシミラ卿はずいぶんくたびれきってたねー。もう騎士団長なんて辞めちゃえば良いのにとは、僕も思ってたよ」
ヤミくんヒカリちゃん、マーテルさんの騒動の時に見たシミラ卿を思い返す。もう精神的にも大分キていた、悲惨な姿だったよー。
散々苦労して、いろんなもの背負わされて……その先が処刑台だなんて、たしかにありえないよー。