「腕が落ちたねーリューゼリア! こんな程度の奇襲に対応できないなんてさぁ!!」
「ぐっ!?」

 サクラさんに襲いかかる寸前、動き出す一瞬の間隙を突いて僕は踏み込み突撃した。
 杭打ちくんを躊躇なく振るう先、狙いはリューゼリアの胸元だ! さすがにレジェンダリーセブン級ともなると、本気で杭をぶち込もうが一発二発じゃ大したダメージにもならないからすごいよねー!

 ギリギリのところでザンバーの柄で杭打ちくんの射出口を遮ってくる。関係ない、撃つよ。
 ──ヒットの瞬間思いきりグリップを、トリガーを押し込む。そして突き出る杭が、ザンバーごとリューゼリアの胸元を思いきり抜き抜けた!

「ッ──ぉおおおっ!!」
「ぬぐァッ!? テメ、ソウマァァァ!?」

 柄くらい真っ二つにしてやれたかと思ったけど存外に硬い。ヒットした感じからしてオリハルコン──世界トップクラスの硬度と強度を誇る素材ででも拵えたか?
 迷宮攻略法・武器強化だけなら普通にぶち抜けてるはずだ。ナイフの素材に使うだけでとんでもない値段になるだろうに、その何十倍も量が必要そうなザンバーに用いるなんてね。
 カミナソールの国家予算でもパチったのかなー? ありえるねー。

 とはいえまったく防がれきったってわけでなく、杭の射出に合わせてリューゼリアは押し込まれて吹き飛ばされる。
 サクラさんが迎撃の構えを解いて僕の傍に寄ってくる。さっきとは逆の立場だねー。持ちつ持たれつ、助け合いはいかにもパーティーメンバー感があって楽しさもあるよー。
 
 リューゼも後ろに吹き飛ばされたとはいえ体幹はしっかりしてるんだ、すぐに体勢を整えてバランスを取り、距離を取って構え直す。
 その顔に浮かぶのは憤怒。横槍を入れられたこと自体もそうだけど、まさか僕に反抗されるとは思っていなかったってのが大きそうだ。
 あいつの認識的には、僕はやはりまだ調査戦隊の一員であり……リューゼとサクラさんなら前者を選ぶって信じてたみたいだしねー。

 なわけないだろ。3年のうちに僕を忘れたか、"戦慄の冒険令嬢"。
 杭打ちくんを構えたまま告げる。

「挨拶代わりを済ませたからって得物握ってるんだ、僕が手を休めるわけ無いだろ」
「ソウマァ! テメェ、俺ぁ身内──」
「──じゃないよー? 今の僕は新世界旅団の一員だ、僕の身内はサクラさんだ」
 
 たしかにかつては調査戦隊だった。たしかにかつてはリューゼリアの身内だった。かつてはね。
 今は違う。調査戦隊からは3年前にいなくなった僕は、つい最近からだけど今は新世界旅団のメンバーだ。

 シアンさんを団長として仰ぎ、サクラさんを副団長として。レリエさんを事務要員兼僕が保護する団員とし、そしてモニカ教授を参謀とする、まだまだできたての目も出てない冒険者パーティー。
 そんなパーティーのメンバーであるならば、みんなが象徴的存在とまで言ってくれるのならば一も二もないよー。
 威圧を全力でかけつつ睨みつける。かつての身内であり、今ではそうでもない人へとね。

「……そんなサクラさんを侮辱しあまつさえ殺意を向けた。ならお前は敵だよリューゼ。昔からそうだけど、僕相手に生半可な説得が通用すると思わないでね」
「────ハッ。そういやそうだったなァ、テメェはそういうやつだった。やたら人間臭くなってっから忘れてたが、テメェは前から、今いるテメェの立ち位置ってやつを最優先するんだったなァ? 優先順位としちゃあ今の女のがオレより高えってわけかィ、寂しいねェソウマァ」

 肩をすくめて、言うほど寂しそうには見えない笑顔でリューゼリア。調査戦隊時代から変わらない、僕の本質的なスタンスについて思い出してくれたみたいで何よりだ。
 そう、僕は少なくとも敵と味方の区別はキッチリとつける。属している集団に合わせて会いたいする相手を選ぶんだ。

 私情や関係性や昔の好だとかでブレるような精神性でないのは、生まれ育った迷宮を出た時から今に至るまで一切変わっていない。
 僕は僕を拾ってくれた者の味方で、その者が敵と見做した者に対しての敵なんだ。たとえそれがかつての同胞であったとしても容赦はしない。そんな程度のことで迷ったり悩んだりしてたら、それこそ誰に対しても面目ってやつが立たないからね。
 
「そうだよ、リューゼリア・ラウドプラウズ。僕の今の優先は新世界旅団だ」
「…………!」
「団長たるシアンさん、副団長たるサクラさんをはじめ今はまだ始まったばかりだけれど、このパーティーはいずれ世界の未知を踏破する。前人未到の偉業を達成するだろう」

 高らかに宣言する。世界の未知の踏破、前人未到の偉業とは我ながら大きく出たけれどそのくらいでなくては、目的なんて遠ざかるばかりだものね。
 実際、リューゼリアは面食らいつつもどこか、オッドアイの瞳に興味と関心、好奇心を覗かせている。

 それだけでも今は上等だよ。唖然とする彼女に畳み掛けるように続けて告げる。
 調査戦隊でない、新世界旅団の一員として。新しい僕のスタンスを久しぶりだ、これでもかってくらいに味わってもらおうか!