僕の何がお気に召したか、しきりに褒め称えてくれるイケメン新人冒険者のレオンくんはさておき、僕らは出入口を登って地上に向けて、えっちらおっちら登り始めた。
とはいえ何しろ地下86階からの地上目指しての道程だ、ちょっとやそっとじゃなかなか辿り着けるものじゃない。緩やかでも斜面を這って登るというのは、慣れっこの僕はともかくレオンくんにとってはそこそこな重労働みたいだった。
「っ……やべー、しんどい。これ先に行った連中もバテてるんじゃないのか?」
「…………」
「さすがに力尽きたからって逆滑りしてまた地下86階へ、なんてことにはならなさそうな角度の斜面で助かるけどさ、結構精神的に来るなぁ……上も下も暗闇の坂を、ひたすら登り続けるってのは」
「…………」
ひたすらブツブツ言ってるけれど、返す言葉に困るから返事は期待しないでもらいたい。というか喋ればその分体力を使うわけだし、余計にしんどくなるからあまりオススメできないんどけどね。
気を紛らわせる意味では有効だろうけど……と、内心でレオンくんの独り言に付き合う。地下86階なんて普通にめちゃくちゃな深度なんだから、行きの時点で帰りを考えたらヤバいってことは気づいておいても良かったんじゃないかなあ。
ちなみに僕を含めたここの出入口を常用する冒険者は基本、ダッシュで一気に地上まで駆け上る。
ただの脱出で時間かけてもいられないし、通常86階層まで降りる頃には体力的にも技術的にも、さっさと走り抜けたほうがまだマシな速さって程度には鍛えられているからね。
とはいえそれはそれで辛いものがあるから結局しんどいのはたしかだ。つまるところ、そもそもの距離がハンパじゃない時点で何をしたってしんどいってわけだった。
その後もしばらく、たぶん一時間近くは登り続けたと思う。地上の光が見え始めた頃には、レオンくんがすっかり疲労困憊って感じになってしまっていた。
「ぜぇ、ぜぇ……し、しんど……」
「…………あともうちょっと。頑張って」
「な、なんであんたは全然平気なんだ、杭打ち……そんな重そうな、荷物ばっか持ってるのに……」
「…………」
慣れてるのと特殊な技法を使ってるから、としか言いようがない。さすがにデビューしたての新人さんと肩を並べて、息を切らしてなんていられないよー。
いやでも、レオンくんは実際超頑張ったと思う。前衛だろう彼は先んじた四人に比べて明らかに重装だ、鎧まで着てるし。そんなだから、滑り台程度の斜面とはいえ一時間近くも登り続けるのは辛かったろうな。
各種技法を身に付けて強くなったら、僕より体力お化けにだってなるかもね。なんだかんだ基礎と素質は間違いなくあるし、レオンくんは。
期待の新人さんを応援するつもりで、彼の隣にまでよじ登って背中を叩く。あともうちょいだよ、頑張ってー。
「く、杭打ち……そう、だな。ここまできて、力尽きたはダセーもんな!」
「…………」
別にダサいとか思いはしないんだけど……なんか一人で発奮しだしたレオンくんに首を傾げる。
力を振り絞るように勢いよく登っていく彼の姿は、なんだか見た目以上に子供っぽい。イケメンなのにそういうところがあるギャップがモテの秘訣なのかな。でもギャップ萌えを狙うのはちょっと、僕の理想とするモテ具合ではないかなー。
そもそも僕はイケメンじゃないだろ、という哀しい事実は無視して僕も後を追って地上へと向かう。出口に見える陽の光が段々大きくなっていくのは、いつ見てもホッとする素敵な光景だ。
レオンくんは一足先に外に出られたみたいだ、よかったー。なんだかんだあったけど、依頼も達成できたし人助けもできたし僕としては大満足の一日だった。
達成感を胸に出入口から外界へと顔を出す。来た時と同じく森の中の泉の近く、深い緑の匂いが風に乗って運ばれてきた。
はー、帰ってきたー。
何度も繰り返して慣れっこだけど、それでもこの、日常という安全地帯に戻ってこれたという安心感は癖になるねー。
「……………………」
「お、杭打ち! いやーいいもんだな、お日様って! 生き返った気分だぜ!」
レオンくんが出入口の付近、草原に身体を投げ出して仰向けに寝転がって僕に話しかけてきた。
お日様に照らされると改めて分かるけど、僕が仕留めたモンスターの血や肉で真っ赤っ赤だなー。
僕も返り血を浴びてるけど、真っ黒なマントや帽子のおかげでそこまで目立ってはいない。反面、杭でぶち抜いた先にいた彼はまあまあ酷いことになっている。
これ、泉で身体や装備品を洗ってからじゃないととてもじゃないけど町に帰れないねー。レオンくんもそれは分かってるみたいで、寝転びながらも器用に鎧を外して身軽になっていく。
「ノノやマナ、ヤミにヒカリは先に泉に入ってるだろうな。俺らも行かなきゃ」
「…………」
先に地上に戻った四人はもう、泉で身体を洗っているみたいだ。僕らも最低限、血を落とすくらいはしないといけないから泉へと向かうことにする。
……女性陣、まさか服まで脱いでたりとかしないよね? 無防備を何より嫌う冒険者の特性上、そんなことはありえないってわかってるんだけどちょっとドキドキするー。
高鳴る胸を抑えつつ、僕とレオンくんは帰還した地上を歩き始めた。
とはいえ何しろ地下86階からの地上目指しての道程だ、ちょっとやそっとじゃなかなか辿り着けるものじゃない。緩やかでも斜面を這って登るというのは、慣れっこの僕はともかくレオンくんにとってはそこそこな重労働みたいだった。
「っ……やべー、しんどい。これ先に行った連中もバテてるんじゃないのか?」
「…………」
「さすがに力尽きたからって逆滑りしてまた地下86階へ、なんてことにはならなさそうな角度の斜面で助かるけどさ、結構精神的に来るなぁ……上も下も暗闇の坂を、ひたすら登り続けるってのは」
「…………」
ひたすらブツブツ言ってるけれど、返す言葉に困るから返事は期待しないでもらいたい。というか喋ればその分体力を使うわけだし、余計にしんどくなるからあまりオススメできないんどけどね。
気を紛らわせる意味では有効だろうけど……と、内心でレオンくんの独り言に付き合う。地下86階なんて普通にめちゃくちゃな深度なんだから、行きの時点で帰りを考えたらヤバいってことは気づいておいても良かったんじゃないかなあ。
ちなみに僕を含めたここの出入口を常用する冒険者は基本、ダッシュで一気に地上まで駆け上る。
ただの脱出で時間かけてもいられないし、通常86階層まで降りる頃には体力的にも技術的にも、さっさと走り抜けたほうがまだマシな速さって程度には鍛えられているからね。
とはいえそれはそれで辛いものがあるから結局しんどいのはたしかだ。つまるところ、そもそもの距離がハンパじゃない時点で何をしたってしんどいってわけだった。
その後もしばらく、たぶん一時間近くは登り続けたと思う。地上の光が見え始めた頃には、レオンくんがすっかり疲労困憊って感じになってしまっていた。
「ぜぇ、ぜぇ……し、しんど……」
「…………あともうちょっと。頑張って」
「な、なんであんたは全然平気なんだ、杭打ち……そんな重そうな、荷物ばっか持ってるのに……」
「…………」
慣れてるのと特殊な技法を使ってるから、としか言いようがない。さすがにデビューしたての新人さんと肩を並べて、息を切らしてなんていられないよー。
いやでも、レオンくんは実際超頑張ったと思う。前衛だろう彼は先んじた四人に比べて明らかに重装だ、鎧まで着てるし。そんなだから、滑り台程度の斜面とはいえ一時間近くも登り続けるのは辛かったろうな。
各種技法を身に付けて強くなったら、僕より体力お化けにだってなるかもね。なんだかんだ基礎と素質は間違いなくあるし、レオンくんは。
期待の新人さんを応援するつもりで、彼の隣にまでよじ登って背中を叩く。あともうちょいだよ、頑張ってー。
「く、杭打ち……そう、だな。ここまできて、力尽きたはダセーもんな!」
「…………」
別にダサいとか思いはしないんだけど……なんか一人で発奮しだしたレオンくんに首を傾げる。
力を振り絞るように勢いよく登っていく彼の姿は、なんだか見た目以上に子供っぽい。イケメンなのにそういうところがあるギャップがモテの秘訣なのかな。でもギャップ萌えを狙うのはちょっと、僕の理想とするモテ具合ではないかなー。
そもそも僕はイケメンじゃないだろ、という哀しい事実は無視して僕も後を追って地上へと向かう。出口に見える陽の光が段々大きくなっていくのは、いつ見てもホッとする素敵な光景だ。
レオンくんは一足先に外に出られたみたいだ、よかったー。なんだかんだあったけど、依頼も達成できたし人助けもできたし僕としては大満足の一日だった。
達成感を胸に出入口から外界へと顔を出す。来た時と同じく森の中の泉の近く、深い緑の匂いが風に乗って運ばれてきた。
はー、帰ってきたー。
何度も繰り返して慣れっこだけど、それでもこの、日常という安全地帯に戻ってこれたという安心感は癖になるねー。
「……………………」
「お、杭打ち! いやーいいもんだな、お日様って! 生き返った気分だぜ!」
レオンくんが出入口の付近、草原に身体を投げ出して仰向けに寝転がって僕に話しかけてきた。
お日様に照らされると改めて分かるけど、僕が仕留めたモンスターの血や肉で真っ赤っ赤だなー。
僕も返り血を浴びてるけど、真っ黒なマントや帽子のおかげでそこまで目立ってはいない。反面、杭でぶち抜いた先にいた彼はまあまあ酷いことになっている。
これ、泉で身体や装備品を洗ってからじゃないととてもじゃないけど町に帰れないねー。レオンくんもそれは分かってるみたいで、寝転びながらも器用に鎧を外して身軽になっていく。
「ノノやマナ、ヤミにヒカリは先に泉に入ってるだろうな。俺らも行かなきゃ」
「…………」
先に地上に戻った四人はもう、泉で身体を洗っているみたいだ。僕らも最低限、血を落とすくらいはしないといけないから泉へと向かうことにする。
……女性陣、まさか服まで脱いでたりとかしないよね? 無防備を何より嫌う冒険者の特性上、そんなことはありえないってわかってるんだけどちょっとドキドキするー。
高鳴る胸を抑えつつ、僕とレオンくんは帰還した地上を歩き始めた。