ある意味冒険者的な姿勢──気に入らないなら何がなんでも噛み付くスタンスを頑なに見せるガルシアさんに、僕はいっそ感心しつつも近づいて胸倉を掴んだ。
 感心するけどそれはそれとして、僕の仲間まで中傷したのは普通に許せないからねー。さっきから荒事ばかりで嫌な気分にもなるけど、ここで舐められたらそれこそ冒険者の名折れだからねー。

 ……だからそろそろ、舐めた態度は改めろよガルシアさん。
 威圧を込めて睨むと、彼は顔を青ざめさせて引き攣った声を漏らした。

「ひっ──!?」
「僕への罵詈雑言はともかく、団長への、仲間への侮辱は許さない……おじさんおばさん、教授。ご家族にこんなことしてゴメンね。一応謝っておくよ」
「……愚息の自業自得だ」
「が、ガルシア……」
「母さん、今さら止めても無駄だよ。愚兄はとうにラインを越えきっている。手遅れだ、ハハハ」

 ガルシアさんはともかくご家族に恨みなんてない。だけど長男坊にこれから危害を加えるわけなので、せめて一言だけでも謝っておきたくて僕は謝罪の言葉を呟いた。
 メルルーク家のそれぞれが、三者三様の反応を返す。

 おじさんは悔しげに、情けないとばかりに頭を振って彼を見放した。おばさんはそれでも見捨てきれないと、震える声で彼を見た。
 そして教授は──そんな母に向けにこやかに笑いつつ、もはや兄が引き返せない段階にまで踏み込んでしまったことを告げた。

 いずれにせよガルシアさんを止める声はない。
 唖然と、愕然と彼は叫んだ。
 
「ぐっう……ち、長兄を! メルルークの跡取りを見捨てるのか!? それでも親か、妹かぁっ!?」
「妹の功績を厚かましくも己のものとする、お前こそそれでも兄なのか……行こう。あとのことは、ソウマくん達に任せる」
「レリエさん、おばさんについてあげて」
「分かった……母親にとって子供はやっぱり可愛いものなの、ソウマくん。だから」
「分かってる。僕だって、なるべく尾を引く形にしたくないしねー。二度と僕らに関わらせないようにするだけだよー」
 
 レリエさんの要請に頷く。
 別に殺すまで痛めつける気もなし、脅かす程度で収めようと思ってるけど……すっかり憔悴してるおばさんを庇う彼女は、やりすぎないように釘を差してきた形だ。

 母親どころか肉親とかもいない、完全に天涯孤独な僕だけど親ってものがどれだけ子供を愛するものなのかは、もちろん分かってる。
 どんなに出来が悪くても、子供である限りはいくつになっても心配したり可愛がったりするものだってこともね。だからおばさんはガルシアさんが脅かされるのを、自業自得とは分かっていても受け入れがたいんだろう。
 
 ガルシアさんはともかくおばさんを哀しませるのはしたくない。舐めた真似をしたツケを支払わせないわけには行かないけど、なるべく穏当な形で話をつけたいところだよー。
 レリエさんは僕の言葉に頷き、おばさんの背中を擦りながらも部屋の外へと出ていく。
 
 そして残るのは僕とガルシアさん、シアンさん、サクラさんの4人だ。
 さて、どう話をつけたものかなー? 未だガルシアさんは敵意と憎悪の視線を向けてきているし、下手な説得は逆効果だろうなー。

 もう一回いらないことを言ったら今度こそ、シアンさんとサクラさんが容赦しなくなるだろうし。
 そうなるとおばさんが卒倒するようなことになりかねない不安もあるよー。難しいところだねー。
 

「────っ!? 誰か来る、臨戦態勢!!」
「むむっ!?」
「ソウマくん!?」
 

 考え込んだ瞬間、その時だった。不意に窓の外、屋外から不穏な気配を僕は察知して叫んだ。
 ──部屋の窓がいきなり叩き割られて何者かが複数人、侵入してきた!
 勢いよくガラスをぶち破ってきて、そのまま僕が掴んでいたガルシアさんにぶつかる!
 
「うわああああっ!?」
「くっ……!?」
 
 いきなり横合いから無理矢理身体を差し込まれて、掴んでいた手が衝撃で外れる。
 カットしてきた相手はそのままガルシアさんを抱え、窓の外へと向かっていく。逃げる気!?
 
「させないよー!?」
「いいや、させてもらおう。我らが足止めでな!!」
 
 追おうとした瞬間、僕の行く手に立ち塞がる者。20代くらいの黒いローブの男が4人、ショートソードで斬り掛かってくる。
 手慣れた動き──人殺しの動きだ! 一旦ガルシアさんのことは置いて、すぐさま僕は対応する。
 
 同時に斬り掛かってくる男達の、僕から見て真ん中1人と左側2人の切込みをギリギリ状態を逸らすことで回避。
 同タイミングで仕掛けてきた右側の男の、ショートソードを握る手にピンポイントでアッパーを放つ。ヒットした、手応えあり!
 
「うぐぁぁっ!?」
「どちらさんか知らないけど……!」
 
 手の骨を粉砕した感触が伝わりつつアッパーを振り抜く。これで一人撃破ってところかなー。
 敵の手から溢れ落ちたショートソードには目もくれず、そのままステップして敵の側面に回り込む。速度についていけずに驚愕する男の横顔を、右ストレートで殴り抜けながら僕は告げた。
 
「誰か知らないけど、横槍入れてただで済むと思うな!」