姿を見せたのは、巨大な翼を広げたドラゴンだ。緑色の皮膚のあちこちが黄金に輝くのは、その部分がそのまま純金になっているからだね。
 皮膚から内臓から、どこかしらが一部黄金になっているドラゴン。ゆえにゴールドドラゴン。この迷宮の中でも現状、金策するには一番うってつけのモンスターである。
 
「ウグルォォォォオアアアアアッ!!」
「…………!」
 
 地下86階層を闊歩する化物を、倒し切るだけの実力があればの話だけれどね!
 天高く飛びかかる僕に向け、やつは大きな口を開いてそこから、燃え盛る灼熱を放射した。ドラゴンにありがちな技なんだけどさすがにこのレベルの化物ともなると、浅い階層で出てくる翼の生えたトカゲの小火とは一線を画する。
 
 何しろ3年前、初めて相対した時にはそのあまりの威力に当時の仲間含めて全員、危うく全滅しかけたからね。今でこそ慣れた感じに杭打ちくん3号を盾にしてやり過ごせるけど、当時はマジもうこれ無理ーってなったもん。
 というわけで盾にした杭打機で炎を掻き分け、ドラゴンへと迫る。目と口の構造的にこいつ、炎を吐いてる時はまともにこっちを見れてないんだよね。
 だからこそこうして真っ向から、炎にも負けず突っ込んでいくのが一番手っ取り早いのだ!
 
「…………っ!!」
「ぐ────るぁぁあああっ!?」
 
 一定時間放射された炎が収まる。これでしばらくドラゴンは炎を吐けない。今が好機だ。
 よく熱された杭打機を前に、突き進んでいった先には炎を吐き終えて閉じられようとする大きな口内。奥歯に煌めくのはこのドラゴンの中でも最も価値のある、純金の巨大な奥歯。今回の依頼にもある、僕の獲物だ。
 
 よーしよし、ここからは話が早いぞー。
 僕はこのままドラゴンの口内に入り込み、大きくて固くてなんか変な匂いのする舌の上に着地した。
 同時に閉じられゆく顎に向け、思い切り杭打機を振りかぶり──地面を殴るように、全身のばねを使って鉄塊を叩きつける!!
 
「っ!!」
「!? ぐるぁぎゃあああああああっ!?」
 
 痛いと、モンスターでもギャーって言うんだよね。これ豆知識。
 閉じられようとしていた口が、鉄塊を叩き込んだ衝撃で下顎ごと吹き飛ばされる。ベキバキボキバキ、骨の砕け散る音が小気味いいんだか気持ち悪いんだか。
 だけどまだ終わらない。ここからさらに、行く手を阻むすべてをぶち抜くからこその僕、冒険者"杭打ち"なんだ!
 
「──ふっ!!」
「ッ!? ガ、ハゴァッ────!?」
 
 舌ごと下顎を殴った、反動で僕は今度は口腔内の上顎部分へと飛ぶ。杭打機なんてものを効率よく扱う都合上、動き方の基本は殴りつつ反動を活かして移動する、これの繰り返しだ。
 身を翻して今度は逆方向、天井にも似た広くて硬い肉質に狙いを定める。下顎を砕かれた痛みと衝撃でドラゴンが混乱しているところに、追撃で致命打まで持っていくのが僕の編み出したセオリーだ。
 
 反動で回転までつけた鉄塊を、上下さえ分からなくなる感覚の中でも狙った位置へと叩き込む。ズドンッ──響く鈍い、それでいて強い音。
 今度は叩きつけるだけに留めない、レバーを一気に殴り下ろす。僕の象徴、自慢の杭が飛び出て、ドラゴンの上顎をぶち抜いて風穴を開ける!
 
「グンギャアァアァアァアァアァアアアアッ!?」
 
 肉も骨も何もかも貫き、ドラゴンの顔に大きな穴が開く。そこを通って口内から抜け出た僕は、間髪入れずやつの顔の上を駆け抜けた。
 トカゲの顔ってのは鼻が先にあってそこから口、目と続く。つまり口をぶち抜いて出た先には、必然的に丸々とした目があるわけで。
 こんな目立つ標的もないよね。僕は僕から見て右目のほうに、杭打機を叩き込み一気に杭までぶっ放した。
 
「!!」
「ゴギャ────!?」
 
 ズドンッ! といういつもの音と並んでグジュリ、ブチブチ。これまたいや~な音が響く。
 ドラゴンともなれば鉄かな? ってくらい目玉も硬いんだけど、さすがに僕と杭打ちくん3号の前にはなんの意味もない。
 当然のように右目は完全に破壊され、ドラゴンは小さく呻きをあげた。たぶん目どころか脳にまで杭がイッてるからね、ここまで来たらこっちのものさ。
 
「っ!」
「────────」
 
 杭を引き戻し、軽くジャンプして今度は脳天に。
 もうドラゴンはなんの反応もしない、できない。口内と片目、脳の一部まで破壊されたんだからそんなすぐに何かができるはずもない。
 でもまだ生きている以上、常に戦っている僕は命の危機に晒されているというのも純然たる事実。だから最後の最後まで決して気を抜かない。迅速に、丁寧に、確実に。倒すも決めたら倒し切る、冒険者の鉄則だ。
 
「……終わりっ!!」
 
 最後の一撃。狙うは脳天から直下、脳みそ。
 いつも通りの全身全霊をかけた杭打機による一撃が、あっけないほど綺麗にゴールドドラゴンを直撃し。
 
「ガ────ア」
 
 そうしてゆっくりと、ドラゴンが横崩れに倒れていくのを、僕は飛び降りて先に着地しつつも眺めるのだった。