足を止めて真正面から撃ち合うリューゼリアの戦い方は、それを可能にするほどの才能と修練、何より背丈があって初めてできることだ。それをミシェルさんが真似するなんて、最初から無理がある話だったんだよ。
だから僕は彼女が仮に、今後もザンバーを使い続けるならこうした方が良いって姿を今、示したんだ。腰を据えてのぶつかり合いじゃなく、ヒットアンドアウェイを前提としたスピードで翻弄する戦法をねー。
「相手がカウンターを合わせようとした時にはすでに攻撃を入れて離脱している、そこまでの動きが理想です。必然的に一撃ごとの威力は弱くなりますけど、そもそも適当に振り回すだけで十分脅威的な武器なんですから問題ないはずですよー」
「み、ミホコ院長さん……彼くんが何してたか、見えました?」
「い、いえ何も……ものすごい動きで飛び回って、その間にも武器を振り回していたくらいにしか」
レリエさんとミホコさんの、唖然としたつぶやきが静かな運動場に響き渡る。遠巻きに見てくる子供達や冒険者達も、唖然としたり目を擦ったりしているねー。
ま、身体強化まで使ってるんだし常人の目には中々見切れはしなかっただろうね。下手するとミシェルさんでもトップスピードに差し掛かった僕の姿は、追いきれなかったんじゃないかなと思う。
と言っても動きの要諦なんていたってシンプル、やられる前に攻めて、やられる前に退くってだけ。僕はそもそも剣術なんて修めてないから、どうしたって付け焼き刃だから高等技術だって使えないしね。
それでも今やったことをミシェルさんもできるようになったとしたら、少なくとも戦闘面ではBランクなんて目じゃなくなるのは間違いと思うよー。
ただ、当のミシェルさん本人はひどく焦った様子で顔を引きつらせている。
思ってたのと違うスタイルを推奨されたことに、気持ちが追いついてないのかも。あるいはもしかしたら、リューゼとまるで同じ使い方じゃないと嫌って話なのかな?
だったら悪いけど僕から言えることは何もないけど……やがて彼女がおずおすと、こちらの顔色を伺うようにチラチラ見てきながらも挙手して言ってきた。
「あ、あの! そ、そんなムチャクチャな動き……私にできるわけがないです。理屈はその、分かりますけど」
「できなきゃこんなザンバー、捨てたほうがいいですよ」
「っ……」
思ったよりは乗り気? っぽいけど、これまた甘いことを仰るからバッサリ。
いやーほんとね、あなたはこうでもしない限りどこかで死ぬよ。そのザンバーをその体格で使いこなしたいなら、ムチャでもクチャでもこのくらいは体得してもらいたいところだよー。
それが無理っていうなら、ザンバーの使用そのものを諦めたほうがいいと言わざるを得ない。
僕の有無を言わせない感じの提案に、息を呑んでミシェルさんは立ち尽くす。直球で捨てろって言われたことが地味にショックみたいだねー、そこは申しわけなく思うけど、とはいえさすがに言わないわけにも行かないし。
さらに続けて言う。
「リューゼの後追いしかできないなら、こう言わざるを得ないんです……現状だとあなたは、せっかくの素質や才能、経験を無駄にしているわけですからねー」
「素質や、才能……経験? 私のですか?」
「模擬戦を見るにミシェルさんは、元々使っていた槍のほうに適正があると思います。スピード重視で手数を稼ぎつつ、リーチのある武器で小刻みに削っていくスタイルです。これまでに培ってきた技術が、あなたの最強の武器だと言ってもいい」
「あ。そ、それって今さっきの、杭打ちさんの動き」
気づいてくれたみたいで何よりー。僕は頷く。
さっき見せた僕の動きは紛れもなくミシェルさん、彼女がおそらくは槍使いだった頃にしていただろうものだ。
二度目の模擬戦の時の動きから類推できた以前の彼女を、なんとなーし想像で再現してみた形だねー。
あの時、大斬撃を逸らされた後の彼女の動きは明らかに元々の得物で慣れ親しんだ動きが垣間見えていた。
つまりは槍の、穂先のみならず柄をも使った隙のない挙動だね……もっというと小柄で身軽なんだからたぶん、ザンバーでの戦闘に切り替えるまではスピードで撹乱してきたはずなんだ。ザンバーが重すぎるから、強制的に足を止めての立ち回りをせざるを得なくなっているってわけだね、今は。
それを考えると今は、これまでとまるっきり逆のことをやってるわけで、そんなものがうまくいくはずがないんだよ。
ザンバーを使うにしろ使わないにしろ、今まで身につけたものを蔑ろにしているんじゃ効率も悪いし手間もかかるだけなんだし、まずこれまでの自分のやり方を意識した上で、新しい種類の武器をそこにどう落とし込むかを考えなきゃ。
「槍でBランクにまで登り詰めてきた、そのスタイルをザンバーの扱い方だけでなく動きや体捌きでも活かしていかない限り……得物は槍に戻したほうが無難ですよ」
「私の、これまでを……すべて、活かす」
「…………僕から言えそうなのはここまでですねー。後はどういう選択をするにせよ、ミシェルさん自身が考えて決めることです」
いろいろ偉そうに言っちゃったけど、最終的にはミシェルさん次第だ。進むも変えるも退くも何もかも、彼女の権利の下に行えばいい。
でもま、リューゼも同じことを思ってるだろうけどね……まだまだ伸びるだろう才能を、活かさない手はないってさ。
だから僕は彼女が仮に、今後もザンバーを使い続けるならこうした方が良いって姿を今、示したんだ。腰を据えてのぶつかり合いじゃなく、ヒットアンドアウェイを前提としたスピードで翻弄する戦法をねー。
「相手がカウンターを合わせようとした時にはすでに攻撃を入れて離脱している、そこまでの動きが理想です。必然的に一撃ごとの威力は弱くなりますけど、そもそも適当に振り回すだけで十分脅威的な武器なんですから問題ないはずですよー」
「み、ミホコ院長さん……彼くんが何してたか、見えました?」
「い、いえ何も……ものすごい動きで飛び回って、その間にも武器を振り回していたくらいにしか」
レリエさんとミホコさんの、唖然としたつぶやきが静かな運動場に響き渡る。遠巻きに見てくる子供達や冒険者達も、唖然としたり目を擦ったりしているねー。
ま、身体強化まで使ってるんだし常人の目には中々見切れはしなかっただろうね。下手するとミシェルさんでもトップスピードに差し掛かった僕の姿は、追いきれなかったんじゃないかなと思う。
と言っても動きの要諦なんていたってシンプル、やられる前に攻めて、やられる前に退くってだけ。僕はそもそも剣術なんて修めてないから、どうしたって付け焼き刃だから高等技術だって使えないしね。
それでも今やったことをミシェルさんもできるようになったとしたら、少なくとも戦闘面ではBランクなんて目じゃなくなるのは間違いと思うよー。
ただ、当のミシェルさん本人はひどく焦った様子で顔を引きつらせている。
思ってたのと違うスタイルを推奨されたことに、気持ちが追いついてないのかも。あるいはもしかしたら、リューゼとまるで同じ使い方じゃないと嫌って話なのかな?
だったら悪いけど僕から言えることは何もないけど……やがて彼女がおずおすと、こちらの顔色を伺うようにチラチラ見てきながらも挙手して言ってきた。
「あ、あの! そ、そんなムチャクチャな動き……私にできるわけがないです。理屈はその、分かりますけど」
「できなきゃこんなザンバー、捨てたほうがいいですよ」
「っ……」
思ったよりは乗り気? っぽいけど、これまた甘いことを仰るからバッサリ。
いやーほんとね、あなたはこうでもしない限りどこかで死ぬよ。そのザンバーをその体格で使いこなしたいなら、ムチャでもクチャでもこのくらいは体得してもらいたいところだよー。
それが無理っていうなら、ザンバーの使用そのものを諦めたほうがいいと言わざるを得ない。
僕の有無を言わせない感じの提案に、息を呑んでミシェルさんは立ち尽くす。直球で捨てろって言われたことが地味にショックみたいだねー、そこは申しわけなく思うけど、とはいえさすがに言わないわけにも行かないし。
さらに続けて言う。
「リューゼの後追いしかできないなら、こう言わざるを得ないんです……現状だとあなたは、せっかくの素質や才能、経験を無駄にしているわけですからねー」
「素質や、才能……経験? 私のですか?」
「模擬戦を見るにミシェルさんは、元々使っていた槍のほうに適正があると思います。スピード重視で手数を稼ぎつつ、リーチのある武器で小刻みに削っていくスタイルです。これまでに培ってきた技術が、あなたの最強の武器だと言ってもいい」
「あ。そ、それって今さっきの、杭打ちさんの動き」
気づいてくれたみたいで何よりー。僕は頷く。
さっき見せた僕の動きは紛れもなくミシェルさん、彼女がおそらくは槍使いだった頃にしていただろうものだ。
二度目の模擬戦の時の動きから類推できた以前の彼女を、なんとなーし想像で再現してみた形だねー。
あの時、大斬撃を逸らされた後の彼女の動きは明らかに元々の得物で慣れ親しんだ動きが垣間見えていた。
つまりは槍の、穂先のみならず柄をも使った隙のない挙動だね……もっというと小柄で身軽なんだからたぶん、ザンバーでの戦闘に切り替えるまではスピードで撹乱してきたはずなんだ。ザンバーが重すぎるから、強制的に足を止めての立ち回りをせざるを得なくなっているってわけだね、今は。
それを考えると今は、これまでとまるっきり逆のことをやってるわけで、そんなものがうまくいくはずがないんだよ。
ザンバーを使うにしろ使わないにしろ、今まで身につけたものを蔑ろにしているんじゃ効率も悪いし手間もかかるだけなんだし、まずこれまでの自分のやり方を意識した上で、新しい種類の武器をそこにどう落とし込むかを考えなきゃ。
「槍でBランクにまで登り詰めてきた、そのスタイルをザンバーの扱い方だけでなく動きや体捌きでも活かしていかない限り……得物は槍に戻したほうが無難ですよ」
「私の、これまでを……すべて、活かす」
「…………僕から言えそうなのはここまでですねー。後はどういう選択をするにせよ、ミシェルさん自身が考えて決めることです」
いろいろ偉そうに言っちゃったけど、最終的にはミシェルさん次第だ。進むも変えるも退くも何もかも、彼女の権利の下に行えばいい。
でもま、リューゼも同じことを思ってるだろうけどね……まだまだ伸びるだろう才能を、活かさない手はないってさ。