背丈に合わない大型武器、ザンバーを振るうミシェルさんの抱える致命的な弱点。
密着されるとザンバーの利点をすべて殺され、かつ無防備な状態を晒す羽目になるという重大な問題点について、彼女自身もすでに自覚はあるみたいだった。
ぽつぽつと話し始める。
「仰る通り……私の最大のウィークポイントは、至近距離まで詰めてきた相手に対して有効打を持てないということ。ちょうど先程、杭打ちさんに接近された時のように何もできなくなってしまうんです」
「悪いけど問題外ですよ、ちょっと近づかれだけで詰むようなら実力以前の問題ですし。リューゼに何か言われたりしなかったんですか?」
「……言われました。杭打ちさんと、ほぼ同じことを」
悔しげに目を閉じ、思い返すようにつぶやく。リューゼにも同様の指摘は受けてたみたいだね、よかったー。
こんなストレートな弱点を指摘一つしてないなら、それはもう甘いとか優しいとかでなくて逆に残酷だ。使い始めてまだ一ヶ月しか経ってないから良かったものの、こんなんで迷宮潜ったら確実に早々と殺されて終わるよー。
あいつが止めた理由が今一度よーく分かったよ、このままじゃどうやってもメイン武器にはできないね。
それでもどうにか使いたいっていうんなら、相当な努力をするしかないだろう。僕はいくらか考える。
「うーん……そのザンバーを元々使ってたリューゼは、そもそもそれを片手で軽々と振るってましたしねー。空いてるほうの腕で近づいてきた敵を殴り殺すとかよくしてましたし、今すぐの参考にはなりませんねー」
「私としましてもいずれは、片手で振るいたく思い精進していますが……まだまだ道は遠いです」
元の持ち主、レジェンダリーセブンの一人でもあるリューゼを参考に考えると、どれだけあいつがメチャクチャな戦い方をしていたのかが改めて分かる。
とにかく強引なんだよねー。2m以上の圧倒的な体躯でザンバーを振り回すし、しかも片手でだ。ミシェルさんみたいな動きの迷いやラグ、隙もないし重量も負担じゃないからわざわざ、腰を深く落としたりもしないしー。
空いてるほうの腕も馬鹿力で、だからさっきみたいにいけると思って距離を詰めると斬撃から打撃で殺されかねないから本当に厄介だったよー。
「あいつの場合、何よりも身体がでたらめな大きさですから。同じことがミシェルさんにもできるとはなかなか、思えないですねー」
「ううっ……」
落ち込むミシェルさんだけど紛れもなく現実だ、強く受け止めてほしいよー。
そもそも身長が違いすぎるからねー。巨人用の武器を人間が使いこなせるなんて中々無理筋ってことだよ。あのザンバーはリューゼにこそ適したものであって、ミシェルさんだと同じ使い方はできないんだねー。
まあ、それでもやりようによってはどうにかなると思うんだけど。
僕は思いついたことを一つ、提案してみた。
「リューゼのやり方とは別になりますが、いっそスピード重視って手もあるかもですよ、ミシェルさん」
「スピード重視……ですか?」
「はい。ちょっと貸してもらっていいですか、それ」
実践してみようと彼女のザンバーを借り受ける。杭打ちくんよりは軽いけど中々のずっしり感だ、身体強化のみで持ち上げる。
たとえばこれを使ってマジで戦えってなったら重力制御まで使って負荷をほぼゼロにするんだけど、そんなのミシェルさんには絶対にできない戦法だからねー。
一応でも身体強化を体得している彼女に合わせた方法を、今回は披露しようというわけだ。
ちょっと離れた運動場の真ん中に立ち、片手でザンバーを何度か振るう。ん、剣を振るうなんて滅多に無いから新鮮だ。案の定、柄の部分だけでも僕の背丈より長いから端っこのほうを握る。こんなやりにくい武器でよくやるよね、ミシェルさん。
「く、杭打ちさん……?」
「ミシェルさんにはこういう動きのほうがたぶん、うまくこいつを扱えると思うんですよ、と……!」
言うやいなや僕は目の前、何もない空間に敵がいるとイメージしてザンバーを振るった。まずは袈裟懸け真っ二つ!
腕力で無理矢理切り返して横薙ぎに振るい──ステップを踏んで軽やかにあちこちに飛び跳ねる!
「はあ!? え、ちょ、えええ!?」
「よっと! よいしょ、っと!!」
前にステップしつつ刺突、横に飛び跳ねてその際に斬撃。バックステップで敵の攻撃を回避しつつ細かく柄で突き、逃げ惑う敵を次々、すれ違いつつ斬撃ー!
まるでザンバーの重さを感じさせない無重力殺法! ぶっつけ本番だけどこれでもたぶん、サクラさん相手にだって何発かは入れられると思うよー! まあトータルで見たら負けると思うけどー。
仮想敵を何回か斬り殺すまで演武めいた斬撃とステップ、ムービングを披露して──僕は止まった。手にしたザンバーを地面に刺して、ミシェルさんを見る。
「要は密着させなければいいんですよ。動き回って回避と斬撃を常に行うことで、相手を撹乱しつつ勝ちを拾いに行く」
「えぇ……?」
「これがミシェルさんにできるだろう、極めればリューゼにも負けないかも? な戦術ですねー」
ニッコリ笑って言ってみる。唖然とした顔が、さらに蒼白になるのがちょっと気の毒だ。
でも仕方ないんだよまじで、このくらい動けないとこんな武器、そもそも使わないほうが良いに決まってるんだからさー。
密着されるとザンバーの利点をすべて殺され、かつ無防備な状態を晒す羽目になるという重大な問題点について、彼女自身もすでに自覚はあるみたいだった。
ぽつぽつと話し始める。
「仰る通り……私の最大のウィークポイントは、至近距離まで詰めてきた相手に対して有効打を持てないということ。ちょうど先程、杭打ちさんに接近された時のように何もできなくなってしまうんです」
「悪いけど問題外ですよ、ちょっと近づかれだけで詰むようなら実力以前の問題ですし。リューゼに何か言われたりしなかったんですか?」
「……言われました。杭打ちさんと、ほぼ同じことを」
悔しげに目を閉じ、思い返すようにつぶやく。リューゼにも同様の指摘は受けてたみたいだね、よかったー。
こんなストレートな弱点を指摘一つしてないなら、それはもう甘いとか優しいとかでなくて逆に残酷だ。使い始めてまだ一ヶ月しか経ってないから良かったものの、こんなんで迷宮潜ったら確実に早々と殺されて終わるよー。
あいつが止めた理由が今一度よーく分かったよ、このままじゃどうやってもメイン武器にはできないね。
それでもどうにか使いたいっていうんなら、相当な努力をするしかないだろう。僕はいくらか考える。
「うーん……そのザンバーを元々使ってたリューゼは、そもそもそれを片手で軽々と振るってましたしねー。空いてるほうの腕で近づいてきた敵を殴り殺すとかよくしてましたし、今すぐの参考にはなりませんねー」
「私としましてもいずれは、片手で振るいたく思い精進していますが……まだまだ道は遠いです」
元の持ち主、レジェンダリーセブンの一人でもあるリューゼを参考に考えると、どれだけあいつがメチャクチャな戦い方をしていたのかが改めて分かる。
とにかく強引なんだよねー。2m以上の圧倒的な体躯でザンバーを振り回すし、しかも片手でだ。ミシェルさんみたいな動きの迷いやラグ、隙もないし重量も負担じゃないからわざわざ、腰を深く落としたりもしないしー。
空いてるほうの腕も馬鹿力で、だからさっきみたいにいけると思って距離を詰めると斬撃から打撃で殺されかねないから本当に厄介だったよー。
「あいつの場合、何よりも身体がでたらめな大きさですから。同じことがミシェルさんにもできるとはなかなか、思えないですねー」
「ううっ……」
落ち込むミシェルさんだけど紛れもなく現実だ、強く受け止めてほしいよー。
そもそも身長が違いすぎるからねー。巨人用の武器を人間が使いこなせるなんて中々無理筋ってことだよ。あのザンバーはリューゼにこそ適したものであって、ミシェルさんだと同じ使い方はできないんだねー。
まあ、それでもやりようによってはどうにかなると思うんだけど。
僕は思いついたことを一つ、提案してみた。
「リューゼのやり方とは別になりますが、いっそスピード重視って手もあるかもですよ、ミシェルさん」
「スピード重視……ですか?」
「はい。ちょっと貸してもらっていいですか、それ」
実践してみようと彼女のザンバーを借り受ける。杭打ちくんよりは軽いけど中々のずっしり感だ、身体強化のみで持ち上げる。
たとえばこれを使ってマジで戦えってなったら重力制御まで使って負荷をほぼゼロにするんだけど、そんなのミシェルさんには絶対にできない戦法だからねー。
一応でも身体強化を体得している彼女に合わせた方法を、今回は披露しようというわけだ。
ちょっと離れた運動場の真ん中に立ち、片手でザンバーを何度か振るう。ん、剣を振るうなんて滅多に無いから新鮮だ。案の定、柄の部分だけでも僕の背丈より長いから端っこのほうを握る。こんなやりにくい武器でよくやるよね、ミシェルさん。
「く、杭打ちさん……?」
「ミシェルさんにはこういう動きのほうがたぶん、うまくこいつを扱えると思うんですよ、と……!」
言うやいなや僕は目の前、何もない空間に敵がいるとイメージしてザンバーを振るった。まずは袈裟懸け真っ二つ!
腕力で無理矢理切り返して横薙ぎに振るい──ステップを踏んで軽やかにあちこちに飛び跳ねる!
「はあ!? え、ちょ、えええ!?」
「よっと! よいしょ、っと!!」
前にステップしつつ刺突、横に飛び跳ねてその際に斬撃。バックステップで敵の攻撃を回避しつつ細かく柄で突き、逃げ惑う敵を次々、すれ違いつつ斬撃ー!
まるでザンバーの重さを感じさせない無重力殺法! ぶっつけ本番だけどこれでもたぶん、サクラさん相手にだって何発かは入れられると思うよー! まあトータルで見たら負けると思うけどー。
仮想敵を何回か斬り殺すまで演武めいた斬撃とステップ、ムービングを披露して──僕は止まった。手にしたザンバーを地面に刺して、ミシェルさんを見る。
「要は密着させなければいいんですよ。動き回って回避と斬撃を常に行うことで、相手を撹乱しつつ勝ちを拾いに行く」
「えぇ……?」
「これがミシェルさんにできるだろう、極めればリューゼにも負けないかも? な戦術ですねー」
ニッコリ笑って言ってみる。唖然とした顔が、さらに蒼白になるのがちょっと気の毒だ。
でも仕方ないんだよまじで、このくらい動けないとこんな武器、そもそも使わないほうが良いに決まってるんだからさー。