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 試合は一対一で終わった。全体的に押される展開だったけど、少ないチャンスを生かしてうまく引き分けに持ち込んだ感じだ。
 試合後の挨拶と監督からの講評が終わり、私と瑛士は由衣香たちに近づいた。由衣香たちは悔しそうに顔を歪めているけど、私にはとても良い表情に思えた。
「二人ともナイス・ゲーム。遊馬君にはやられることが多かったし、課題は間違いなくまだまだある。だけどさ、今日でだいぶ成長したんじゃない? 自信もっていいよ」
 深い満足感を抱く私は、ゆったりと本音を口にした。
 すると二人とも、きっと私に強い眼差しを向けてきた。
「あったりまえじゃん! 次はぜってー全戦全勝。言っとくけどそれ以外ないから!」
「うん、慶ちゃんに賛成! もう動きがわかっちゃったしね! 負ける理由が見つからない、だよね!」
 朗らかに喚く二人を見ると、自然と頬が緩んでいく。ああ、良い。私は今、間違いなく幸せだ。
 ちなみに二人とも、私たちの母校の龍神中学に入りたい、絶対入ると、いつも声高に口にしている。
 私はまだまだ未熟で子供にどこまで干渉すべきかわからないけど、二人の強い希望があるなら後押ししてやるべきなのかな、と考えている。
「よし! 目標も見つかったところで! 愛すべき我が家に凱旋としゃれ込むか! 今日はご馳走だ! 俺たち二人のスペシャル手料理が慶太と由衣香を待ってるぞ!」
 芝居っぽい口調で瑛士が嘯くと、「「うん!」」と、元気いっぱいな声が重なった。
 早足でコートの出入り口に向かう瑛士に、私たち三人はついていく。これまでもそしてこれからも、ずっと変わらない私たちのあり方だ。
 今まで進んできた道、今後進んでいく道に思いを馳せて、私は一人、静かに微笑むのだった。