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 翌日の全英フットボール大会の決勝戦は、十三時からだった。会場は、一八〇四年に設立の世界最古のグラウンドである、サンディゲート・ロード・スタジアムだった。
 サンディゲート・ロード・スタジアムは芝生のグラウンドで、三方面を木々に、残りの一方面を木の柵に囲まれていた。柵の向こうには、土の道路があった。
 雰囲気は日本の小学サッカーで使われるグラウンドに近かった。相違点はグラウンドの脇の三角屋根の家屋と、収容人数が百人ほどの、日本のプールに見られるような観客席の存在だった。
 観客席はほぼ満席で、客席の前には両チームのための木製のベンチが据えられていた。
 ウォーミング・アップが終わって、試合開始が近づいた。ダンは皆を集めて、力感に溢れた激励を行なった。これまでの鍛錬を信じて全員一丸となって優勝を手にしよう、という内容だった。
 集合が解かれて、スターティング・メンバーは試合の準備を始めた。桐畑がアキレス腱を伸ばしていると、とんっと左肩に軽い力が加わった。
「いよいよだな、ケント。精一杯やれば勝敗はどうても良い、なんて温い台詞は吐かない。絶対に勝つぞ。俺は勝利以外、考えてない」
 泰然とした声音に振り向くと、隣からブラムが右手を肩に置いてきていた。グラウンドに向ける視線は、果てしなくまっすぐだった。
 遥香との、ブラムに関する昨日の会話が頭をよぎる。だが、桐畑は思考を切り替えてブラムを見つめ返した。
「ギディオンの野郎なんかは、完全に抜けてるよな。身体のパワーの漲り方なんか、オーバーエイジかってぐらいだしよ」
「オーバーエイジ?」
 ブラムから、合点の行かない風の問い掛けが来た。
「いや、忘れてくれ。とにかく、敵はとんでもなく強えよ。でも敵も、メシを食って寝るを繰り返す、俺らとおんなじ地球人だ。付け入る隙は、腐るほどあるって」
 確信を持って断言すると、「当然だよ」と、ブラムは静かに答えた。桐畑の肩から手を離し、グラウンドに歩いていく。
(フットボール結社はもちろん、この試合には、ホワイトフォード校の全員の想いも懸かってる。縋り付いてでも勝ちたいぜ。日本に戻るうんぬんは抜きにしてもな
 それに、ウェブスターには朝波襲撃の疑惑もある。俺らが負けて、危険な連中が調子に乗る。あー、胸糞悪い。吐き気がするような展開だわな)
 考えを纏めた桐畑は、足を戻した。身体には、かつてないほどのエネルギーが満ちていた。