4

 ヴィクターと桐畑たちは芝生を貫く道を歩み続けた。ウェブスター校の雰囲気は、校舎以外は、ホワイトフォード校と近かった。
 初対面時からずっとヴィクターは、隣のダンと会話を続けていた。
「『イギリスは、女王の時代にだけ繁栄する』とする人もいますが、迷信に過ぎません。時代や指導者の性別に関係なく、イギリスは本質的に世界の中心であり得るだけの地力を持っている。これが、自分の揺るぎない信念です」
 前方に目を遣りながら、ヴィクターは主張をした。口振りには、目上への慎みと確かな自信の両方が感じられた。
 少し考えたダンは、「君がそう考える理由を、聞かせてもらえるか」と、静かに返事をした。
「産業革命を切り開くほどの、科学的思考法の発達した国だからです。これについても異論が出がちですが……」
 ヴィクターの話は続くが、桐畑は注意を切って周囲を見回した。放課後の道には、制服姿で話し込む男子生徒があちこちに見られる。
(なんとなくどの生徒も、雰囲気が似てる気がするよな。落ち着いた感じじゃああるんだけどよ。よく知らねえが、社会主義の学校だからなのか?)
 桐畑は何気なく考えながら、ヴィクターに従いていき続けた。
 五分後に一行は、広々とした芝生のグラウンドに辿り着いた。
 グラウンドは、疎らに生える木々と草地に囲まれていた。コート内では、二つのチームが試合前のウォーミング・アップをしている。
 コートから道を一つ挟んだ場所には、三角屋根の白色の建物が、ずらりと並んでいた。全体的に、ホワイトフォードより真新しい印象だった。
「では、ここで失礼します。試合の開始まで、もう少々お待ちください」
 滑らかに告げたヴィクターは、きっちりと一礼をした。顔を上げてから少し間を置き、ウェブスター校が占めている半面へと駆けていく。
「あの人、喋ってる感じは、どうも慇懃無礼だよね。本心はわからないから、口には出さないけどさ。計り知れないところがあるというか、ね」
 いつの間にか隣に来ていた遥香が、ぽつりと呟いた。顔付きは冷静だが、不審げにも取れる話し方だった。
 判断しかねる桐畑は、黙ってウォーミング・アップを見続けた。