15

 ハーフ・タイムが終わりに近づいた。他の誰もコートに戻らない中、エドが一人、大股の早足でずんずんと歩いていっていた。
 小走りをした桐畑は、エドの前へと回り込んだ。
「完全に立ち直ったみたいだな。やっぱお前にゃ、ウジウジは似合わん。サクッと引っくり返しちまって、あの筋肉バカに吠え面を掻かせてやろうぜ」
 桐畑は、期待を籠めてエドに笑い掛けた。
「おうっ!」と、決意に満ちた様のエドから、唸るような低い声の返事が来る。
「そういやなんでマルセロは、エドがフラッシュ・バックで苦しんでるって、知ってんだ? まさか筋肉が耳まで発達してて、ウルトラ地獄耳とかってオチかよ?」
 桐畑は、頭に浮かんだ疑問をぱっと口に出した。
「マルセロは、知らないと思うよ。『エドがなんで不調なのかはわからんけど、とりあえず俺の愛国心をアピって喚いときゃ復活すんだろ』ぐらいしか考えてないだろな。久しぶりに会った俺の心の中なんて、わかるわけがないし」
 エドは珍しく、深く思索するような口振りだった。
(高尚な内容を叫んだかと思ったら、そんな適当な台詞だったのかよ)と、桐畑は軽く驚く。
「でも、当たってるよな。俺は今まで、なんとなく楽しいってだけでフットボールをしてきたよ。そんなんじゃあ、何かを深ーく心に決めて、頑張ってる奴には敵わねえわな」
「エド」と、桐畑の口から小さく溢れる。
「一人で突っ走るつもりはないけど、後半、がんがん俺に回してくれて良いよ。あの3番、ぜってー抜いてやるからさ」
 口角を上げたエドの目は、力強く煌めいていた。普段の元気さと、強い意志とを兼ね備えた佇まいだった。