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 〇対一のまま、前半の終了が近づいた。エドのプレーは、依然として精彩を欠いていた。悪いイメージが払拭できていない様子だった。
 ポルトガルのコートの中ほどで、エドが足の裏でボールを保持する。きょろきょろと周りを確認しているが、顔には生気がない。スピードを警戒しているのか、敵の3番は大きめの距離を取っていた。
 小さく助走したエドは、シュートのモーションに入る。3番が腰を落とし、警戒し始めた。
(そんな遠くから撃っても、まず入らねえよ。判断力まで鈍ってやがる。こりゃあもう、交代してもらうしかないか)
 桐畑が諦めた風に思考を巡らせていると、ぬっと、エドのすぐ目の前にマルセロが現れた。エドは動作を止められず、キックは左足で弾かれる。
 エドの後方に強めの勢いで転がったボールに、近くにいたホワイトフォードの4番が足を伸ばした。
 しかし、マルセロが先んじた。爪先でボールを浮かせて4番を突破し、右方へと大きく蹴り込む。
 パスは、敵にも味方にも厳しいコースだった。外に出たボールは、遠くへと転がっていく。
(この怪物野郎め。とうとう守備にまで顔を出してきやがった。いよいよマルセロ祭りって感じだな)
 気を引き締め直した桐畑は、エドに駆け寄ろうと向き直った。
 するとエドの面前に居続けるマルセロが、くわっと開いた目でエドを見下ろしていた。腰に手を当てて両足を開く様に、桐畑は特撮ヒーローを思い出していた。
「エド。俺とお前には、すっさまじく大きな違いがある。何だかわかるかよ?」
 マルセロの語調は真剣だったが、怒っているようにも取れた。わずかに眉を顰めたエドは、考え込んでいる様子だ。
 少し間を置いたマルセロは、びしりと固定した左手の親指で、胸の国旗をぐっと突いた。
「てめえの国に誇りを持って、祖国を背負って戦う魂だよ。今のおめえは俺が俺がって、自分のためにしか戦ってねえんだ。そんな体たらくじゃあ、千年掛かっても俺には敵わねえよ」
 言葉を切ったマルセロは、ぴたりと固まり微動だにしない。眉を上げたエドは、はっとしているようにも見える。
 数秒の後に、マルセロが動き出した。定位置へと小走りをする背中は、これまで以上にパワフルに感じられた。